風の日
その日はとても風が強かった。
木々の青く茂った葉がザザザ~っと言う音をたてて右方向に揺れ、
街を歩く女性は、被ったとても春らしい、
白く輝く帽子を左手で押さえ顔をしかめる。
春の風。
僕はそんな光景を、ボーっと眺めながらベンチに腰掛けている。
先ほどコンビニで買ってきた、
どこのメーカーか知らない、プラスティックの細長い容器のカフェオレを、
ストローをくわえてチューチューと飲んだ。
それは、ほんのり苦味の利いた、しかし当たり障りのない味を口腔内に広げ、
鼻腔から二つの楕円形の鼻の穴を通り抜け、外界へと香りが逃げる。
それからおもむろに、買ってきたホットドッグをチープな袋から取り出し、
またもやチープな袋を開け、それをムシャムシャと頬張る。
暖めてもらってからある程度時間が流れたせいか、
中途半端な温もりが頬の内側に伝わり、
美味いとも不味いとも言えない味が舌に広がる。
咀嚼した後は喉を通り過ぎ、胃へと落とされて行く。
僕は口の中ではあまり感じられなかったホットドッグの温かみを、
胃の中では感じる事が出来た。
その温かみが
『生きている』
と言う実感をその時、僕に与えた様な気がする。
風の日に僕は、外へ出かけベンチに腰を掛けた。
目の前に広がる世界は鮮やかな色があり、人々は忙しなく動き、
『8時だョ!全員集合』の回転ステージの様に世界は回り、
新たな風景が次々と目の前に広がる。
そしてそれらをしばらく眺めた後、
僕はそばにあった薄汚れたダストボックスに先程のチープな袋達を放り込み、
その場から立ち去る。
ふと空を見上げれば頬を照りつける日差しが強く感じられ、
どこからか漂う湿気と風に乗った匂いが、僕の感覚をそっと刺激した。
もうすぐ夏が来る。
シュ!!っと目の前を人影が通り過ぎる。
「まてぇー!!玉袋ーっ!!」
するとすぐ後に紺色の制服をまとった警察官が走り去る。
そんなシーンを目の当たりにした僕は、ちょっと間をおいた後、
おかしくてクスクスと笑いが零れ、腹を抱える。
「玉袋ーっ!!」と叫ばれ追いかけられるあの人は何者だろうか?と考え、
またクスクスと笑う。
そうして再び僕は歩きだした。
曖昧な季節の中、スプリングコートのポケットに手を突っ込み、
吹く風に抗って進んだ。
『今日はいい事がありそうだ』
ヒュッ!!っと音をたて強い風が僕の髪を舞い上げた。
風の日。