ルーム
雨に濡れたアスファルトにネオンがチカチカと忙しなく映し出されていた。
新宿はあいにくの天気にも関わらず、
人々が行き交い傘と傘が擦れ合う。
私はそんなごちゃ混ぜになった街をするするとすり抜け、
雑居ビルの一室へと向かった。
さび付き薄汚れた鉄の扉を開けると同時に、
深く息を吸い込んでそれを吐き出す。
眼前に広がる暗闇の部屋は、
不快なカビと湿気の臭いを放ち鼻をつく。
私は慣れた手つきで電気のスイッチを探し、
それをパチリと付ける。
チカチカと蛍光が明滅し、
青白い光を放って部屋を照らし出す。
目の前には使い古されたデスクとチェアー、
表情を持たないのっぺりとしたグレーの壁、
そして、そのデスクに乗っかった大きな頭蓋骨がある。
頭蓋骨の落ち窪んだ目が私の帰りを待っていたかの様に、
真っすぐに二つの暗闇はこちらを見つめている。
私はポケットからおもむろにラッキーストライクの箱を取出し、
どこかのスナックのライターで火を点ける。
それはシュボッと言う音をたて、オレンジ色の火柱を発し揺れる。
その光にくわえたタバコを近づけ大きく息を吸い込んだ。
すると香ばしい香りと共にいつもの味が口腔内に広がり、
それを愛おしく染み渡らせ、ゆっくりと虚空に吐き出す。
吐き出された煙の帯はユラユラと宙に舞い、うねり、
飛散し、どこかへと消えた。
私はくわえタバコのままその頭蓋骨に近づき、
二つの暗闇にピースした指を差し込んで目元まで持ち上げた。
たゆたう煙がやけに目に沁みてしかめ面になりながらも、
それをじっくりと眺めた。
私はそばにあるチェアーに腰掛、
ゆっくりとその頭蓋骨を両手で頭上に持ち上げ被る。
二つの穴からは先ほどと何ら変わりない殺風景な部屋が広がっている。
頭蓋骨の目や口からはタバコの煙が漏れている。
私はその部屋をぐるりと眺めた後、そっと瞼を閉じた。
そうして頭蓋骨の二つの暗闇よりももっと深い闇が私には訪れた。