ボクと僕 | 人生をピンセットでつまむ

ボクと僕

グ~プシュ~

グ~プシュ~

耳の辺りに微かに音が聞こえる。


ボクは昼食を済ませ出かける準備をはじめる。

すると部屋へカメイさんが現れ、

「これを持って行け」と無表情に袋を差し出した。

中身をたずねるとどうやらあちらで食べる用の物が入っているらしい。

ボクはいつもの様にやや口角を少し上げた後、

「ありがとうございます」と告げその袋を受け取る。

カメイさんはぶっきらぼうだがなぜかいつも気を使ってくれる。

そんな袋をバックに詰め込み部屋を出た。

玄関を出る時に「行って来ますと」寮長に挨拶をして出かける。

出た先には今日あちらに一緒に向かうユイカの姿がある。

「あ、悪い悪い待たせちゃって」と声をかけた。

それに対しユイカは「減点7」と可笑しそうに言った。

ボクは頭をポリポリと掻くベタなリアクションをとりながら口角を上げ笑って誤魔化す。

そして、ボク達は荷物を持ち直し駅へと向かった。

途中には文化祭があるらしい高校の生徒達が校門を慌しく行き来し、

その光景に懐かしさを覚えながらその横を通り過ぎる。

ユイカはブラブラとやや前方を歩いている。

朝の為か息がやや白く宙に漂い肌に冷たさを感じる。


冬の到来。


「寒い寒い」などとさして寒くもなさそうに呟くユイカを後ろから眺めながら、

ボクは愛おしいと思い、サッと手をポケットから取り出し手を握る。

いきなりの行動にびっくりした顔を見せながらもユイカも黙って握り返してくる。

ボクは空を見上げた。

澄み切った青の空が目の前には広がっている。


数回乗換えをし、いくばくかの時が経ちあちらに到着したボク達は、

目標の会場となる場所を下から眺める。

そして、中へと入り一階フロアーを眺めると、

一階はどうやらレストラン等の店舗が並んでいる。

ここに集まる人々が食事やお茶をするのだろう。

ボク達は会場を探しながらエレベーターへと乗り込む。


ポ~ン


17階を指した無機質のエレベーターを降りる。

会場で受付を済ます為にテーブルへ向かい、

書き込みをしていたその時、

ボクの横をサッ!と横切る残像が見える。

と、目を向けたその先には走る女の姿あった。

ボクは『なんだ?』と突然の出来事に目を細めた。

すると気がつけばボクのバッグがない事に気づく。

『え!?まさか!!』ボクは心臓がドキリッ!と激しく波打つのを感じた。

先ほどの女がバッグを持ち去ったのだ。

ボクはその場に呆然と立ち尽くすしかなかった。


警察への届出、あちらへ向かう為の技術講習、

ボクはそれらを済ませて今、途方に暮れている。

バッグの中身はレッドムーンの財布、無印の手帳、Loveアメカジな着替え、

そして、カメイさんから貰った昼食。

『どうしたもんかな?』と肩を落としたボクにユイカは

「大丈夫、大丈夫、すぐに元に戻るわ」そう言いボク手の上に手を重ねた。

その手はとても暖かかった。

そうしてユイカは「ご飯食べて帰ろうか」そう言ってボクの手を引いて一階のレストラン街へと向かう。

食の主導権は彼女が握り、

いかにもと言った外観の中華料理店に入った。

そうしてボク達は食事をし、今日の出来事を話す事が出来た。

「クスクス」とユイカがボクの目の前で笑う。

そんな時間を過ごした。


ボク達は外に出る。

空はもう藍色が広がり、しっとりとした夜になっていた。

朝同様、冷たい空気がボク達を包み白くなった息が夜空へと昇った。

「寒い寒い」またユイカが朝の様に呟いた。

ボクは迷わず彼女の手を握り自分のポッケに突っ込んだ。

ちょっと乱暴だったかもしれないが構わない。

そうしてボクはユイカの顔を覗き込んだ。

「クスクスクス」と笑い声が静かに零れる。

そんな顔を見て僕も「クスクスクス」と笑った。

二人の笑い声が静かになった町に広がり冷たい夜空に消えた。

その場の空気は冷たかったが、

ボク達の手はいつまでもいつまでも暖かかった・・・
































グ~プシュ~

グ~プシュ~


その音を聴きながら僕は眺めた。

そこには横たわったボクが居る。

イビキをかいたボクを僕が上から眺めている。