喪失
深夜12時過ぎ、私の携帯が音楽と共に明滅する。
ディスプレイに表示される名前は、記憶喪失の男。
「もしもし、ここはどこだ?」
「あ、ここは新宿だ!」
などと自問自答する声が携帯の向こう側から聞こえる。
しかもいつにも増して口調が怪しい。
かなり酔っている様だ。
そんな記憶喪失の男と今夜もファニーなやり取りが始まる。
「くそっ!タクシーが捕まらねー!」
「どうなってんだ!?」
「金曜の夜だしな~捕まり辛いんじゃね~か?」
「何なんだ!?」
「あ~そう言やさっきカメラマンのおっさんにキスされた!」
「気持ち悪りー!!」
「ん?どういう事?」
とか聞いてみると、
どうやら先ほどまで接待をしていたらしく、
その接待相手のクレイジーなカメラマンに別れ際キスされたらしい。
確かにそれはキモイ。
酔っているとは言えキモイ。
などと同情しつつ「ああ」とか「おお」とか相槌を打ちながら話していると、
今度は・・・
「財布がねー!!」
「おい!財布がねーぞ!!」
とか言い出した。
私は「カバンは?」「ポケットは?」
などと思いつく簡単な場所を探せと言った。
だが、調べれど調べれど見つからないらしい。
どうやらどこかで落とした様だ。
「どうしよー?まぁとりあえずタバコを吸おう」
「タバコ、タバコ、タバコ、ん?」
「一万円だ」
「何で一万円入ってんだ?」
「あ~さっき○○ちゃん(会社の上司)が突っ込んだんだな」
「つーかこんなとこに入れられたら間違って捨てるつーの!!」
「まったくよー!!」
「ス~ップハァ~あ~タバコ美味めぇ~」
「しかし・・・今日四万円引き落としたのにさっきもらった一万と~え~っと・・・」
ポケットをガサゴソ・・・
「五千円?」
「一万五千円?」
「そんなに使った覚えはねーぞ!!」
などと言い出すもんだから、
「財布に入ってたんじゃね?」
って聞いたら。
「財布には金入ってねー!」
「・・・・・・」
ってお前どこに金入れてんだよ!?と、
財布はなんなんだよ!?と、
言いたい所をグッと抑えて、
「じゃ財布には何は入ってんだ?」
「カード・・・あーーーーーっ!!止めねーと!!どうればいいんだーーーーー!!」
「電話!電話!!」
とか言い出したので私は、
「とりあえず家に帰れ」
と言った。
それに記憶喪失の男は、
「分かった・・・そうだな・・・」
「つーか!電話!電話!カード止めねーと!!」
「分かってねーじゃねーかっ!!」
記憶喪失の男。
記憶と財布を失い今日もネオンきらめく夜の街を闊歩する。
「電話ー!電話ー!」
「うるさいよっ!!」