第1回目は2009年11月に発売された、中島みゆきさんの『DRAMA!』です。
DRAMA!/中島みゆき

¥3,150
Amazon.co.jp
収録曲
1. 翼をあげて
2. こどもの宝
3. 夜の色
4. 掌
5. 愛が私に命ずること
6. NOW
7. 十二天
8. らいしょらいしょ
9. 暦売りの歌
10. 百九番目の除夜の鐘
11. 幽霊交差点
12. 海に絵を描く
13. 天鏡
このアルバムは、1曲毎の物語性が非常に強い事と、今までの作品以上に難解な歌詞が多い事とで、彼女の作品の中では珍しく、Amazonや各所では評価が真っ二つに割れています。
ただ、個人的にはその余りに濃い楽曲の世界観と、捨て曲無しで次々と起こる物語の深さは彼女のアルバムの中でも最高傑作だと思っています。
このアルバムは、大きく分けると2つの物語があり、
M1からM6までは、2008年に上演された吉川晃司氏主演のミュージカル「SEMPO~日本のシンドラー菅原千畝物語~」で使用された楽曲で、日本通過ビザを求めるユダヤ人と、それを許可しない外務省の板ばさみで苦悩するも、「命より大切なものはない」と“命のビザ”の発給に踏み切った彼の物語を下敷きに、心の葛藤や守るべきものがこれらの曲中で描かれています。
そしてM7からM13は、彼女が1~2年に一度、一ヶ月間行っている『夜会』という、明治時代や昭和初期の小説を下敷きにして、そこに登場人物の心理状態や背景を『歌』として描くという、彼女曰く『言葉の実験劇場』。その最新作で使われた楽曲で構成されています。
この最新作(夜会VOL.16~夜物語~本家・今晩屋)では、『山椒大夫』もしくは『安寿と厨子王丸』をモチーフに、人買い、そして罪の意識というのがテーマなのですが、このアルバムに収録された楽曲を聴く限り、
『来生』(次の生という言い方も出来る)と『今生』、『前生』との繋がりと、『人間にあると言われる108個の煩悩』
がキーワードになっていて非常に難解です。
では、1曲ずつ見ていきます。曲ごとにつけた点数は10点満点で、収録曲リストの所の色はこの点数を目安に付けています。
非常に長いので時間に余裕がある時に見て下さい
1.翼をあげて(点数:9.5点)
自分が恐れる物…、その正体は分かっている。しかしその中でも敢えて進んで行く事を歌った曲です。
アルバムのラスト近くに来るような大作の匂いがする曲で(過去のアルバムだと『 YOU NEVER NEED ME』とか『二隻の舟』などのような)、そんな曲をアルバムの最初に持ってきている時点で、このアルバムが本気すぎるのが垣間見えます。
2.こどもの宝(点数:5.8点)
こどもの、夢の大切さを描いた曲で、先に書いたミュージカルのストーリーと照らし合わせると、歌詞は深い。が、先の『翼をあげて』やこの後の曲が凄過ぎて、アルバムで聴くとどーしても安っぽさを感じてしまいます。
3.夜の色(点数:9.9点)
曲が壮大なのもアレですが、なかなか日本人にとっては縁遠い『白夜』の世界観が見事過ぎる一曲です。
『光は希望か?
闇は恐ろしいか?
それなら、この白い夜はどうだ?』
そしてその後に、
『白夜の夜に人は騙され
見晴らすつもりで夜を見ない』
と続く下りは、人が敢えて見ようとはしない、目を背けてしまう現実を語っているような、そんな事を感じてしまう一曲です。
4.掌(点数:9.2点)
小さな掌、砂を掴む事も水を持つ事さえも困難なのに、その小さな掌を持つ少年時代には、夢や希望が今以上に感じていた…。
やつれてしまった掌を見て、過去の自分の姿、自分が何をすべきなのか?
その心の葛藤を描いた曲です。壮大さや派手さは無く、淡々と歌い上げる事に深さを感じてしまう一曲です。
5.愛が私に命ずる事(点数:7.5点)
愛に命じられた事であるならば、恐れも戸惑いも無いという、一種の決意表明的な曲。
愛に基づいて行動していく事で、先への可能性を見出していこうとしている…と解釈できる曲で、彼女自身が過去に歌った普遍的な愛の詩に通ずる物を感じます。
歌詞など中身は高評価ですが、曲風が退屈なのでこの点数になりました。
6.NOW(点数:9.8点)
先のミュージカルでもラスト近くに流れたであろう、7分越えの大作。
歌詞は、これまでの曲で色々考えた主人公がNOW(今)の定義について、
やがての比でも、彼方の比でも、夢の比でも無く、此処には『今』しかない事を悟るというもの。
開幕のコーラス、じっくりとした始まりから『NOW、それはやがての比では無く~』のサビへと繋がる歌唱の凄みは鳥肌もので、ラストは『アルバム「DRAMA!」 完 』みたいな壮大なスケールで幕を閉じる。
…しかし、このアルバムはまだ後半分残っています。
7.十二天(点数:8.5点)
発売から1年経っているのに、未だにこの曲の歌詞は全くと言って良い位に理解出来てないです。
取り敢えず、十二種類の『天』と呼ばれる物があって、それらは繋がっている…といった感じにしか理解不能な歌詞(始めから終わりまで『◎◎の天から△△の天へ』とこれのみで構成された歌詞)なのですが、曲風と歌い回しが力強さがあって格好良いので高評価です。
この曲に関しては、歌詞云々は抜きにして純粋に曲を楽しんだ方が良いかも知れません。
8.らいしょらいしょ(点数:9.9点)
このアルバムのM7からM13は、モチーフにしている作品が平安時代の物語と言う事もあって、全体的に七五調の和歌で歌詞が作られているのですが、このM8に関しては特に平安っぽさが感じられます。
曲の前半は語呂合わせ的に、
後半部分は『来生』に対する一つの定義(前生から今生を見れば、それは来生)を語る
と、1曲で2度感じる所がある歌詞の造りの巧さが際立ちます。
最も、後半部分の歌詞は理解するのが困難なのですが、昨今のJ-POPからすっかり消えてしまった古風のメロディーが耳障りが良く、曲だけでも聴き応えがある作品。
9.暦売りの歌(点数:7.9点)
暦売り…、この言葉が意味する物は何かというのが難しいのですが、
過ぎ去った過去に暦を戻し、過去をやり直したり
まだ知らぬ未来に暦を進めて、日にちを先取りしたり
と時空を操る事が出来たら、新しい一日が、一生に一度来る一日が良い日に変われる事を歌った歌です。
日常生活の中では絶対に起こり得ないような言葉を使って、曲の世界観を描く事は過去のアルバムにもあったのですが、この曲はその中でもかなり逸脱しています。
10.百九番目の除夜の鐘(点数:9.9点)
大晦日に鳴る除夜の鐘には『人には百八つの煩悩(ぼんのう)があると言われ、その煩悩を祓うために、除夜の鐘をつく』という意味があり、その回数は108回とされています。
そこで、109回目の鐘が鳴ったら?
そして、その109回目の鐘が鳴り止まなかったら?
というのが、この曲の歌詞です。
『優しき者ほど傷付く浮世
涙の輪廻が来生を迷う
垣衣(しのぶぐさ)から萱草(わすれぐさ)
裏切り前の一日へ
誓いを戻せ除夜の鐘』
先の『夜会VOL.16~夜物語~本家・今晩屋』の公開ポスターに書かれていた言葉で、この曲の歌詞の一部です。
普通では考えられない、109番目の鐘を鳴らしているのは、傷付いた人の心でその傷付く前に戻す為なのか?とも考えたのですが、この後に
『このまま明日になりもせず
このまま来生になりもせず
百と八つの悲しみが
いつまでたっても止みもせず』
と続く辺り、この曲も一筋縄では行かない難解な歌詞です。
しかし、このアルバムで最も核の部分は、この曲と言っても良く大いに考えさせられます。
11.幽霊交差点(点数:6.8点)
また有り得ないタイトルの曲ですが、
『角を曲がって暫く行けば
元の景色があるのに気付く。
霧の夜には気を付けなされ
過ぎたつもりに気を付けなされ』
という下りは、やったつもりでいても出来ていない事もあるという『思い込み』に対する警告のようにも感じられ、有り得ない中に現実起こり得る事を取り入れた巧い歌詞だと感じます。
点数が思いの外低いのは、曲風が若干退屈だからです。
12.海に絵を描く(点数:9.5点)
『海に絵を描く絵の具は涙』
という衝撃の幕開けで始まるこの曲は、過去アルバムのメッセージ性の濃い楽曲と同じ作りがされています。
『忘れたものは 捨てたものと同じことになる
残したものは 邪魔だったものと同じことになる』
という下りは、言い訳をしてどう弁解しようとも、事実は変わらない事を歌っているように感じられ、痛いほどに突き刺さります。
彼女の楽曲には、聴き手に対して容赦無く刃を向けてくる特性があり、シングル曲(特に『地上の星』辺り)で知って、癒しとか傷を慰めたいとか安易な気持ちで近付くと打ち落とされると言われていて、この曲などがその典型例です。
しかし、僕含めファンにとっては、こんな聴き手の甘えの許さない、刃のある楽曲の方が聴き応えをかんじてしまうんですよね…。
13.天鏡(点数:8.6点)
この個性の強いアルバムのラストは、柔らかい歌唱と、不思議さを感じる歌詞で構成された楽曲で幕を閉じます。
不思議な鏡に映る、隠し切れない感情や無くしてから感じる物…
そして、その鏡は人の手には届かない場所にある…
と歌詞の何処を取っても、現実では考えられない世界観で、やはり理解不能に近い曲なのですが、壮大なクライマックスへと突き進む表現は見事で、聞き終えた後は、また初めからアルバムを聴きたくなるような曲です。