「ここは御影駅だな」
粽には何か見えたらしく、確信を持った声でそう告げた。
「御影駅って?」
周りの事をよく知らない私には、そこがどこなのかは分からない。
「この駅の一つ前だ。あのバカ、降りる駅ミスったな」
粽は苛立ちを隠せない様子。
そこまでのものじゃないでしょ。
「まあ、人間誰しもミスはあるわよ。
で、どうする?行くの?」
「行くに決まっているだろ」
自転車のサドルにまたがり、今にも行かんとする。
慌てて私も自分の自転車に乗り、彼の後を追おうとするも、雲外鏡の存在を忘れていたブレーキをかけた。
振り向いて、一応声をかける。
「一緒にいく?」
「いや、残る。用事は済んだのだろう?
何かあったらまた呼んでくれ」
自分の本体である鏡を抱きしめはっきり言うと、その姿は霧のように自然に消えていった。
それを見て、私は頭をかく。
「うーん……お礼言いそびれちゃったなー。
………って、置いていくな!」
遠くに見える粽の後ろを見て、慌てて追いかける。
しかし彼は私が急ぎ始めるやいなや、スピードをあげた。
「待ちなさい!」
「うるせえ」
「何でよ。ついて行くって言ったんだからついて行くに決まっている。それに楽しそうだし」
「何でそうなる」
粽は呆れながらも、自転車のこぐスピードを緩めてくれた。