12月17日 月曜日
いつもと変わらない学校生活が始まる
この日は全校集会があった
先日行われた 颯汰、直輝たちの陸上部の表彰伝達も行われる

8時40分を過ぎたころ
体育館に生徒が集まってくる
久美「颯汰と直輝がいないけど」
剣悟「昨日の大会の表彰だろうよ」
奈美「え、大会なんてあったの?」
剣悟「知らなかったのかよ」
久美「大きい大会だったの?」
剣悟「そこまででかくはないみたいだけど 市内で負けた相手に勝って二人とも優勝してきたみたいだぜ」
久美&奈美「ええええ!? すご」
奈美「あの、杉並って人に勝ったの直輝!?」
・・・杉並 修平(すぎなみ しゅうへい) 市内大会で直輝との接戦で1位を獲得した選手 直輝は3位だった お互いにライバルとして頑張っている
剣悟「接戦で勝ったみたいだぜ」
久美「種目は?」
剣悟「颯汰が200mで直輝が110mハードル」
久美「へぇー」
奈美「颯汰も武内って人抜いたの?」
・・・武内 鷹覇(たけうち たかは) 市内大会の200m優勝者だ お互いをライバル的存在と認め合っている
剣悟「武内は不調だった見たいだぞ」
奈美「そうなの じゃあダントツだったんじゃないの?」
剣悟「それがな 池田 翔一郎ってやつがめちゃくちゃ速くて あせったなありゃ」
・・・池田 翔一郎(いけだ しょういちろう) 市内大会では決勝にも残らなかった選手だが 冬季練習で相当な追い込みをして力をつけてきた これからの活躍が期待される選手
奈美「池田?」
剣悟「颯汰と接戦だったんだぜ 武内は3位だった」
久美「あの2人ってそんなに速いんだぁ」
剣悟「俺は1度も短距離で勝ったことない。」
久美「50m走とか何秒なの?」
奈美「確か颯汰が6'01で直輝が6'12だよね」
剣悟「あぁ 確か 颯汰あと少しで5秒台だぜ」
奈美「身近にいるからなんとも感じないけど、陸上の世界では名を轟かせんだろうね」
久美「へぇー すごいんだね あの二人」
剣悟「あぁ 部活はな」
奈美「部活だけね」
久美「部活だけか」

表彰伝達も終わり
いつもと変わらぬ生活が始まる

ゼヨ「帰りの会を始めます」
剣悟「朝の会だろ?」
ゼヨ「あ、間違えた 突然ですが、今から席替えをする」
生徒たちは喜ぶ者もいれば嘆く人もいた
颯汰は嘆く人だった 
颯汰の左隣には奈美が右隣には久美が前には直輝、その前には剣悟がいた
話しやすい奈美がとなりってのがずいぶん楽な上に久美までいるのだ
今までにない最高の席だった
颯汰「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛」
剣悟「ゼヨー 颯汰が「席替えをしてはいけない病」にかかりました」
ゼヨ「そんな病kはこの世にない ちなみに席順は俺が考えてきた 前に貼っとくので朝の会が終わったら席を変えておくように」
奈美「そう気を落とさないでって」
久美「なんでそんなに落ち込んでんの?」
剣悟「あ、やっぱり奈美と離れるのが嫌なのか」
颯汰「ちげーよ」
直輝「じゃあなんだよー」
颯汰「俺は直輝くんや剣悟くんと離れるのがいやなのよん」
剣悟「よく言うぜ」
直輝「右に同じ」
久美「でた『右に同じ』」
直輝「もう口癖だ」
奈美「へんなの」
颯汰「とにかく、俺と奈美はなんともないから」
久美「ふーん」
剣悟「ふーん」
直輝「ふーん」
奈美「なによ 『ふーん』って」
剣悟「ふーんはふーんだ」
久美「ふーんだよね」
直輝「ふーんだ」
奈美「あ、席順見に行こう」
剣悟「あぁ」

席順を見たとき
颯汰は全身の力が抜けるような衝撃を受けた
颯汰は一番窓際の一番後ろの席
そして隣には・・・久美が
前には剣悟がいた
直輝と奈美はすこし離れたが
奈美と直輝のふたりは隣同士になった
久美が声をかけてきた
久美「また隣だね」
にこやかに。
颯汰「あ、あぁ そだね」
そのあと奈美が耳もとでささやいた
奈美「よかったじゃん また隣だよ!」

その日颯汰は授業など上の空
窓際の席だったので 頬杖をしながらぼんやりと空を眺めるばかり
なぜか機嫌がいいようには見えなかった

そんな颯汰をみていて変な気分になる奈美。

放課後───


いつもとかわらず二人で川原の土手を歩く颯汰と奈美

奈美「・・・よかったね 久美のとなりで!」
颯汰「・・あぁ・・・」
奈美「・・なに? 今日颯汰暗いよ?」
颯汰「・・・」
奈美「なんとかいいなさいよ」
颯汰「・・・あのさ」
奈美「ん?」
颯汰「・・・俺になんか隠してんだろ」
奈美「・・・え?」
颯汰「わかるさ 幼稚園からの腐れ縁だからな」
奈美「・・・え・・・?」
颯汰「・・・・正直、お前みたいな関係の女子なんて他にいねぇよ」
奈美「・・・」
颯汰「登下校は一緒だし、よく話すし。」
奈美「うん・・・」
颯汰「それに、お前の性格だから、一切隠し事なんかしなかっただろ」
奈美「・・・・うん・・」
颯汰「特に俺には。 だからわかるんだよ」
奈美「・・・あたしが何を隠してるの?」
颯汰「・・・それはわからない。 最近のおまえが変だから」
奈美「変って?」
颯汰「無理してる感じがある。 本性で笑ってない」

焦った。 
颯汰は気づいていたのかと。
でも、もう決めたことだ。

颯汰「作り笑いしてる奈美が つまんねーんだよ。」
奈美「・・・正直に話すよ」
颯汰「・・やっぱり何か隠してたんだな」
奈美「あたしね・・・」
颯汰「・・・・」
颯汰は下を向いたままだ。

奈美「ずいぶん前から 颯汰が好きだったの」

そのとき颯汰の足が止まった
下を向いたまま一歩も動かない
奈美が一歩先を歩いた

颯汰「・・・・」
奈美「やっぱり 言わない方がよかったでしょ」
振り返り たずねる
颯汰「・・・なんでだよ・・」
奈美「・・・え?」
颯汰「・・・なんで今まで言わなかった」
顔を上げた。 その表情には怒りが窺えた
奈美「なんでって・・・」
颯汰「なんでか聞いてるんだよ!!!」
カバンを叩き付けた
奈美「・・・なんで怒るの?」
颯汰「・・・・・はぁ・・ 俺は、自分のせいでお前が無理して笑うのが嫌なんだよ」
奈美「・・・それってどういう意味・・」
颯汰「・・・お前は俺にとって特別な存在だった いつも一緒だから 普通の扱いとは どうしても違った」
奈美「・・・うん」
颯汰「そうしてるうちに お前にはつらい思いはしてほしくないって 思うようになったんだよ」
奈美「・・・」
颯汰「・・・好きだった」
奈美「・・・でも久美が好きなんでしょ?」
颯汰「・・・正直 自分は誰が好きなのかよくわからない」
奈美「・・・そうなんだ」
颯汰「前から奈美が好きだったのに・・突然現れた久美に一目惚れしちまうしよー・・」颯汰の目に涙が溜まった
颯汰「ただひとついえることは・・ 久美が転校してくる前に付き合ってれば 久美を好きにはなってなかったと思う」
奈美「・・・そうだよね・・」
颯汰「・・・ごめん 勝手にキレて 俺のせいでもあるんだよな」
奈美「・・・」
颯汰「・・・はぁ ・・・帰ろうぜ」
奈美「うん」
沈黙が続く

奈美「学校では何もなかったみたいに接してよね」
颯汰「あぁ・・・ いつでも店こいよ」
奈美「フレンチトーストおごってよね」
二人の目には少し涙が溜まっているようだった。

すれ違いを嘆く気持ちであふれる。
いつも登下校で手をつなげるような仲になりたいと願っていた奈美。
互いにすれ違いを悔やむ気持ちでいっぱいである。
自分が思いを告げていれば・・・


二人の思いは揺れる
 


12月15日 金曜日
朝の7時40分を過ぎたころ────


冬の寒さに耐えながらオレンジの手袋、マフラーをつけて奈美が登校する
颯汰は朝練習があるので朝は一人で登校することが多い
運動部が朝練習に取り組んでいるのが見えた
颯汰の所属する陸上部は大会が近いので、軽めのメニューに取り組んでいた
横にサッカー部の剣悟のシュートしたボールが転がってきた
剣悟「お、奈美じゃん」
奈美「あ、おはよー」
剣悟「おぅ」
奈美「あのあと晩ご飯どうした?」
剣悟「コンビニでインスタントラーメン」
奈美「あははは どんまい!」
何気ない会話を交わし 教室へと向かう
下駄箱を抜けたあたりに早めに部活が終わった颯汰がスリッパを履いていた
奈美「おはよー」
軽いノリで屈む颯汰を蹴飛ばす
颯汰「あぁ 奈美か おはよ」

二人で階段を上りながら話した
奈美「昨日はありがとね お金ちゃんとレジ入れてくれた?」
颯汰「あれくらいならいつでも作ってやるよ  金なら大丈夫入れた」
奈美「ならいいや 帰りに剣悟に会ったよ」
颯汰「え どこで」
奈美「んとね 店でてすぐ あたしが出た後にCLOSEの札だして電気消しちゃったじゃん だから剣悟帰っちゃったの」
颯汰「そっか 剣悟ねぇ・・・」
奈美「ん?」
颯汰「あ、いやなんでもない」
奈美「えー なになに?」
颯汰「なーんでもないっ!」
奈美「ふーん その顔で大体わかったし」
颯汰「言ってみろよ」
挑発する感じで言ってみた
奈美「んー 剣悟好きな子がいるんだ」
颯汰「・・・・」
奈美「・・・・」
颯汰「おまえ 何者?何でわかる?」
奈美「合ってるんだぁ」
これ以上は聞かないでおいた
嬉しそうに階段を駆け上がって一足先に教室に駆け込む
すでに久美は座っていた
それを見て颯汰のところへUターン
颯汰の耳を引っ張りながら話す
奈美「久美ちゃんいるよ! あのね、颯汰はカッコつけてんのかしらないけど すっごい無愛想なの もっと自分から話しかけるような積極性が大事よ」
颯汰「お前はすこしは人見知りをしろ」
奈美「いい? 積極性を重視して今日をすごすのよ!」
颯汰「はい ムシですね」
奈美「頑張ってよぉ~」
徐々に声が大きくなり久美に気づかれる
久美「おはよう 奈美 各務くん」
にこやかに話しかけてきた
奈美「おぉ 久美ちゃん! おっはよー♪」
無愛想にボーッとする颯汰を見て足を踏む
颯汰「っ! お、おはよー小林さん」
久美「できれば久美って呼んでください」
颯汰の体に衝撃が走る
イナズマに撃たれたように
颯汰(ん、ちょ、あ、あれ、下の名前を呼び捨てにしろと?)
颯汰「わ、わかった。・・・く、久美」
久美「よろしくね 颯汰」
初対面なので敬語を使っていたが
翌日からは緊張するまでもないとでも思ったかのように馴染んできた
人見知りをするような感じではないが、奈美ほどうるさい感じでもないようだ
久美「前の学校でもみんな久美って呼んでくれてたから ここでも久美って言ってほしいんだ」
奈美「ほー なるほど」
颯汰「あ、 宿題出さないと」
奈美「ちょっと待ったぁ」
颯汰「・・なんですか?」
奈美「昨日の分の宿題を出しなさい」
颯汰「勘弁してください」

いつもと同じ学校生活が始まる
運動部の朝練習も終わり着々とクラスに人数が増えてきた

昨日と違いいつもどおりの時間にゼヨが来た
ゼヨ「おいお前ら席つけよー」
朝の読書の時間だ
座ってない生徒を注意し座らせる

奈美の愛読書は『It will break my heart』という恋愛小説。
日本語にすると「それは私の心を破壊するつもりです」という意味。
主人公は元彼との別れを引きずっているが
一方で気になる人も出てくるが、その人は元彼の親友。
その後その人は記憶を失い、主人公のことを完全に忘れ去ってしまう
記憶を取り戻そうと必死になる最中で元彼が事故死してしまう
始めの幸せな関係から一転、周りから愛しい人が消えていくのを悲しく描いた小説だ

今ちょうどすべてを読みきろうというところだ
みんながいる教室の中で泣き出す奈美
教室にざわめきが起こる
心配したゼヨが声をかける
ゼヨ「おい、櫻井、どうした?」
奈美「だって、章吾がぁー・・歩美かわいそすぎだよー」
といい涙を拭った
ちなみに章吾というのは小説内の主人公の元彼の名前。歩美は主人公の名前である
ゼヨ「え、・・・」
ざわめくクラスに向けていった
ゼヨ「あ、櫻井さんは小説読んで泣いてるだけなので」
奈美「ちょ、言わないでよぉ」
ゼヨ「っていうか、みんな気づいてるし」
ざわめきが笑いに変わる
ちなみに剣悟と颯汰は寝ているのでまったく気づかない

読書の時間の終わりを告げるチャイムが鳴る
朝の会を終えて 放課になる

直輝「小説読んで泣くってどんだけ感情が豊かなんだよお前って」
声をかけてきたのは、去年奈美と知り合った遠山 直輝(とおやま なおき)だ
陸上部所属
奈美「えぇ だって しょ、章吾が死んじゃって、、」
直輝「いや、知らないけど」
剣悟「奈美が泣いたってほんと?」
直輝「おめーは寝てるから気づかなねーんだよ」
剣悟「いやぁ 部活のあとにあんな睡眠時間を用意してくれるなんて池中は気が利くねえ」
奈美「睡眠の時間じゃないんだけどね」
ちなみに颯汰はまだ寝ている
直輝「・・あのさ 奈美って彼氏いんの?」
奈美「え 何でそんなこと聞くの?」
直輝「聞かなければならない理由があるんだ」
奈美「えー 直輝とは付き合えな~い」
直輝「理由とは言っても詳しくは言えないけど」
奈美「スルーなのね。捨て身の渾身のナルシストボケもスルーなのね」
直輝「いる?」
奈美「いねぇよ」
ふざける
直輝「颯汰だろ」
奈美「・・・ちがうよ」
颯汰「俺と奈美はそんな関係じゃねーよ」
襟をつかんで言った
直輝「おお、起きたんだ」
颯汰「俺の名前が聞こえたので」
頭をかきかながら言う
直輝「ほんとは付き合ってるんでしょ?」
颯汰&奈美「違う」
久美「あたしもてっきり付き合ってるのかと思ってた 今の『違う』も息ピッタリだし」
久美も入ってきた
奈美「え~ なによ久美まで」
颯汰「何でそんな風に思われてんの?」
奈美「そうそう」
直輝「何でっていうか 見てりゃわかるだろ」
剣悟「うん わかる 普通はわかる」
久美「いつも一緒だしね」
直輝「何より登下校一緒ってねぇ」
久美「すごいよね」
剣悟「すごい。 登下校で一緒って彼氏と彼女が過ごす定番な時間だよ」
奈美「んー・・・」
颯汰「んー・・・」
納得できるようなできないような感じだ
奈美「じゃあ 説明するわ」
剣悟「おっ 奈美が自分のこと語ると長いぞ」
直輝「久美ちゃん、覚悟しな 2つくらい放課使ってしゃべりまくるよ」
奈美「まずね あたしと颯汰が一緒に登下校してることね あれは家が近いのと、幼馴染で話しやすいってだけ」
颯汰「そうです、」
奈美「あたしに彼氏できたら『チューしたい』だのなんだのいろいろ言うでしょ?」
剣悟「ほんとに家が近いだけ?」
奈美「渾身の自分を捨てたボケはあっさりスルーされることが多いのね  ほんとにそれだけだよ」
久美「ふーん 颯汰と奈美だったらお似合いだと思うのにな」
直輝「そうだそうだ」
剣悟「ほんとに違うなら、この際付き合えば?」
颯汰と奈美は顔を合わせる
颯汰&奈美「ない」
首を縦には振らなかった
奈美「んー・・・まだ信じない?」
久美「信じない」
剣悟「うん。信じない ってか信じられない」
直輝「右に同じ」
颯汰「信じろよ ってかそこまでの確固たる自信はなんだよ」
直輝「一緒にいる時間が多すぎるだろ?」
剣悟「ここからお前ん家まで30分はあるだろ」
颯汰「んーまぁあるけど」
久美「おお長い」
直輝「その途中には川沿いの土手があったりして」
剣悟「ロマンティックな夕日を浴びながら」
直輝「手をつないじゃったりして」
剣悟「チューしt・・ブヘッ」
奈美「・・・ないから」
しゃべりきる前にするどいビンタが飛ぶ
剣悟「ってぇー」
颯汰「恐怖」
直輝「み、右に同じ」
奈美「そーんなに言うなら証明してあげる みんなあたしが彼氏できたら学校とか、生活の中で彼氏についてどんな反応示すと思う?」
剣悟「おまえのことだから、人目気にせずに抱きついたりすんじゃねぇの」
久美「同じく」
直輝「右に同じ」
颯汰「右に同じって多いだろ」
直輝「響きがいい」
奈美「だったらよく考えて」
久美「何を?」
奈美「学校とかで一回でもあたし颯汰に抱きついた? チューした? それに、普通みんなに隠したりしないよ」
剣悟「んー」
直輝「まぁ確かに」
久美「でも、下校中の土手でめちゃくちゃ夕日がきれいなときとか・・・」
奈美「・・・?」
久美「ハグしてたりしてー!」
奈美「・・・・。」
颯汰「ない」
奈美「右に同じ」
直輝「『右に同じ』って流行りそうだな」
奈美「んじゃあ! 今度みんなで遊びに行こう」
直輝「ふむ。」
剣悟「そこで何事もなければ少しはわかるかもな」
久美「それってあたしも行けるの?」
奈美「もちろん!」
颯汰「ほおー いいじゃん」
奈美「なるべくロマンティックなところのほうがいいでしょ」
久美「あのー 青空公園は?」
剣悟「どこそれ?」
直輝「あぁ あのクリスマスツリーが光ってるでっかい公園?」
久美「そうそう、そろそろクリスマスだし、二人がカップルなら絶対ここでチューしたいはず」
奈美「よし いいじゃないの」
剣悟「ま 違うとしたって面白い思い出になりそうだしな」
直輝「行きますか」
颯汰「ふー」

12月25日、青空公園で遊ぶことが決定した。
この日───────
        思いが爆発する 
ここはとある学校の1人の生活を描いたフィクションです



各務 颯汰(かがみ そうた)
彼は池野中学校に通う生徒だ
現在中学2年生だ
人気者ではあるが
悩みも多い人だ
陸上部に所属していて 大変な毎日を送っている  

今日も平和な一日が流れていた

颯汰「あぁー ちかれた」
朝の部活終わりの一言
奈美「おっはー♪」
軽く声をかけてきたのは 颯汰の小学校時代からの友達
櫻井 奈美(さくらい なみ)だ 
颯汰と同じ2年6組の生徒 気が強い よくしゃべる
吹奏楽部のキャプテンを努めている 優秀な生徒だ
颯汰とは幼稚園時代からの幼馴染 
実は最近颯汰が気になっている
まわりからは家が近いからとはいえ、毎日のようにいっしょに下校する二人の仲のよさから、 颯汰と奈美は付き合ってるという噂が大々的に広まっていた
剣悟「ふぁー ねむ」
眠そうに頭をかいて現れたのは
サッカー部エースの藤森 剣悟(ふじもり けんご)だ
ちょっとガラが悪そうにも見えるが
内面は外側から見た印象とは違うような一面も多い

次々と生徒が教室に集まった
そろそろ朝の会だという時間を過ぎた
だがゼヨはこなかった

ゼヨとは2年6組を担任している教師の坂本 龍二(さかもと りゅうじ)だ
名前が坂本竜馬に似ていることから 竜馬のイメージの「ぜよ」をあだ名にしているのだ
今や生徒のほとんどが「ゼヨー!」「ゼヨだ!」「ゼヨおはよー」などと軽く呼んでいる
それに対して普通に返事を返してくれる 気さくな先生だ
ちなみに考え付いたのは奈美だ

朝の会の時間を10分ほど過ぎて 教室がざわめき始めたころ
ゼヨが教室のドアを開けてズカズカと入ってきた
ゼヨ「えー おはようございます んー 今日は全員出席か。よし今日はみんなに重大発表がある!」
剣悟「ゼヨが結婚するとか!?」
笑いが起こった
ゼヨ「まだじゃい! 実は、とっても急な話なんだが 転校生が今日から来ることになった。」
クラス中がざわめいた 
颯汰「なんだ そんなことかよ」
つまらなそうな顔で颯汰がつぶやく
すると となりの奈美が
奈美「なによ つまんなそうな顔しちゃって」
颯汰「ゼヨが結婚すんなら驚くけど 転校生ごときで騒ぎすぎだろ みんな」
奈美「そう? あたし楽しみだけどなぁ」
妙にルンルンな奈美を見て首をかしげる颯汰
だが心の中では
颯汰(転校生かぁ ここでかわいい女子とか来たらすっげぇマンガっぽいなぁ)
なんて思っていた
ゼヨ「はい 静かに!」
と手を叩いて生徒を黙らせる
ゼヨ「さぁ、入って」
廊下に顔をだして微笑んだ
教室に入ってきたのは、女子だった
颯汰は少しお楽しみにするような軽い気持ちで顔を見る前に目隠しをした
ゼヨが黒板に大きく転校生の名前を書いた
ガン!ガン!ガン!ガガッ!ガン!
ゼヨの力強い字の書き方だ
黒板を叩くようにガンガン書く
ゼヨ「今日から6組の仲間になる 小林 久美(こばやし くみ)さんです! 自己紹介をお願いします」
久美「えっと・・・ 今日からこの2年6組ですごす事になりました 小林久美です 部活は吹奏楽やってます 仲良くしてください」
不安げな顔でゼヨを見た
ゼヨ「あ、あぁ はい みなさん、小林さんと仲良くしてあげてくださいね! じゃあ、あそこの席に座ってね」
久美「はい」
ゼヨ「それじゃあ朝の会を終わる 起立!」

・・・ 朝の会が終わった

久美の席は奈美から颯汰をはさんだとなりだった
颯汰はまだ目を開けてなかった
颯汰(ゼヨの紹介まるでマンガだなぁ)
と考えながら 目を隠していた手をどけた
隣には 
     驚くほどの美少女が座っていた
颯汰「ブッ ゲホッ・・・」
驚きのあまりむせた
久美は少々驚きつつも優しく微笑み声をかけた
久美「大丈夫ですか?」
颯汰「あ、あぁ、あ、あの、あの、大丈夫です え、えっ、えっと、、ありがとう」
久美は優しく微笑んだ
そして奈美が颯汰をはさんで久美に声をかけた
奈美「久美ちゃんだよね? よろしく!」
久美「よろしく!」

そのあと颯汰はしばらく下を向いていろいろと考え込んだ
それを見た奈美が異変を察知して、というか、久美を気にしていることに気づき、肩をつついた
奈美「どーしたの ちょっと何か変だよ!?」
颯汰「んー 何か 苦しい」
それを聞いた奈美は襟をつかんでゼヨのところへ颯汰を連れて行った
颯汰「ちょ、なにすんだよ」
奈美「ゼヨ、颯汰苦しいそうです 保健室に連れて行きます」
ゼヨ「そうか わかった 各務、なるべく授業はでるようにな」
颯汰「え、ちょ、へ?」
奈美「保健委員の櫻井奈美が責任をもって保健室に連れて行きますよ!」
颯汰「え、ちょっと待てよぉ」
奈美「胸が痛いんでしょ?」
颯汰「んー 奈美が考えてるような感じじゃなくてぇ・・・」
奈美「・・・?」
颯汰「・・・」
奈美「・・・ははぁん」
にやにやしながら颯汰を横目で見た
颯汰「何だよ」
奈美「颯汰、・・・恋しちゃったんだな?」
颯汰「えぇ!? な、な、何言ってんの 俺はい、今まで運動やぶ、部活一筋で、き、きたんだ 今さらこ、恋なんて」
奈美「そんなのオッサンが言うセリフよ あと声震えすぎ 久美ちゃんでしょ?」
颯汰「・・・だからぁ ち、ちがうって・・・」
奈美「へぇ~・・・」
颯汰「・・なにその『へぇ~』は」
奈美「あの子吹奏楽だから、あたしが仲良くなれば、あんたもはじめは間接的に仲良くなれんじゃないの?」
颯汰「よ、余計な心配をするな」
奈美「あ、やっぱり久美ちゃんなんだ」
颯汰「うっ・・・ 誰にも言うなよ?」
奈美「わかってるよ」

奈美はあぁは言ったが 颯汰に思いを寄せている人としては、とてもつらいことだった
でも好きな人には幸せになってもらいたい
その気持ちが彼女を動かしたのかもしれない
それでも 後悔や悲しみは奈美を襲った
なぜ久美を好きなことを問い詰めて確実なものにしてしまったのか
そしてなぜ手を貸してしまったのかを───────────


その日の帰り・・・
いつものように奈美と颯汰は同じ道を二人で歩き帰っていった
奈美「久美ちゃん、かわいいよねー 颯汰が好きになるのもわかるわぁ」
颯汰「もうその話はすんなって」
奈美「えー やだやだ 久美ちゃん好きならさぁ 今度剣悟と久美ちゃんとあたしと颯汰で遊びにでも行かない?」
颯汰「えぇ!? ・・・・・おぅ いいよ 行こうぜ」
奈美「よし! じゃああたしと剣悟で盛り上げるから ノリでもいいから颯汰は久美ちゃんと少しでも距離を縮めなさいよ!」
颯汰「うん・・ ありがとな  つーか 何でわかった?」
奈美「何が?」
颯汰「俺が小林さんのこと気にしてたことだよ」
奈美「あぁ~ そりゃあね 幼馴染だし」
颯汰「・・ふーん つーか お前はどうなんだよ」
奈美「え? ・・・何が?」
颯汰「好きなやつだよ」
奈美「えっ!?」
颯汰「いるっていっただろ」
奈美「あ、あぁぁ。 うん いるよ。」
颯汰「だれ?」
奈美「・・・聞かないで。 あたしの恋は叶わないから」
颯汰「・・叶わないって 叶わないっていうから 叶わないんだろ?」
奈美「無理なものは無理なの!!」
颯汰「・・・なんだよムキになって」
奈美「き、聞かないでって言ったでしょ」
颯汰「・・おぅ」
奈美はいつもこの話をすると 冷たくあしらってくる。
沈黙が長かった。

気がつくともう颯汰の家の前だった
颯汰「あ、じゃな」
奈美「うん、また明日」

その一言で一日がおわった
颯汰の家から奈美の家まではだいたい30メートルほど。
颯汰の家は喫茶店を経営していて、奈美の家はクリーニング屋だ。

気がつくともう7時だった
今日は奈美の母が友達と飲み会なので奈美は自分で夕飯を済ませなければならなかったのだ。
そんなときは いつも颯汰の家の喫茶店による

からんからん
ドアについている鈴が鳴る
店は閉店ギリギリで客は1人もいなかった
颯介「お、いらっしゃい奈美ちゃん」
彼は各務 颯介(かがみ そうすけ)颯汰の父である ちょっと小太り。
美冴「あ、奈美ちゃんじゃないの」
厨房のすこし奥で片付けをしていた人が声をかけた
彼女は各務 美冴(かがみ みさえ)颯汰の母。
奈美「こんばんは」 
笑顔で返す
颯介「ここに来たってことは お母さん飲み会かなんかだろ?」
奈美「え、なんでわかったの!?」
颯介「いやぁ 昔からそうだからな あいつは。」
颯介と美冴、奈美の母である櫻井 風子(さくらい ふうこ)と奈美の父の櫻井 修平(さくらい しゅうへい)はなんと同じ小、中学校の同級生なのだ
奈美「へぇ そうなんだぁ」
くすくすと笑いながら いつものカウンター席に腰掛けた
颯介「今日は何食べる? いつもの?」
奈美「んー 今日はカレーがいいかなぁ」
颯介「よし ちょっと待ってなよ」
待っているうちに颯汰からメールが来た
「下にいんの?」
奈美(・・・メールしなくても階段降りるだけなんだから来ればいいのに)
返信した
「今からカレーを食べます(・ω・´)」
そのすぐ後アツアツのカレーが出てきた。
その直後に颯汰も二回から降りてきた
颯汰「おお」
奈美「おおって何よ」
颯汰「カレー食ってんのうそかと思ったから」
奈美「えぇー なによそれー」
颯汰「オヤジ、俺もカレー」
奈美「え ムシ? しかも営業中に?」
颯介「ふーん 奈美ちゃんと食べたいんだ?」
ニヤニヤしながらご飯をよそい カレーをかけた
颯汰「悪い冗談はよせ」
奈美「え それってあたしに失礼」
しばらく無言のまま食事が進んだ

そうしていると
美冴「じゃあ母さんたち買い物に行ってくるから かぎ閉めといてね」
と言い残し 家を出た
まだカレーをたいらげていない二人は顔を見合わせてお互いに「なに」と言いたげな表情をしてまた食べ始める
そして先に食べ終わったのは颯汰だった
奈美「はやっ」
颯汰「んー 足りない。」
奈美「えぇー! 特別にあんな大盛りだったのに!?」
颯汰「うん 足りん」
奈美「えぇ 『よく昼ごはん給食だけで生きていけるね』って感じ?」
颯汰「まさにそのとーり 空腹を紛らわすために午後の授業はよく寝るのです」
奈美「だからあんた成績上がらないのよ」
颯汰「へいへい」
といいながら颯汰は厨房に入りなにか料理を始めた
そうしているうちに奈美もカレーを食べ終えた
奈美「にゃにちゅくってうの?」(何作ってるの?)
まだ口にカレーを入れながらしゃべっている
颯汰「口にカレーいれてしゃべんなよ 一応女なんだから」
何か料理をしながら答える
奈美「一応ってなに! モロ女だよ!」
颯汰「へぇ 初耳」
奈美「ひっどーい」
颯汰「いいからちょっとまっとけ」
奈美「え?」
しばらく沈黙が続く
その5分ほどあと
颯汰がなにか持ってきた
颯汰「ほら」
奈美「おおおお! すっごい」
颯汰「おまえの分も作っといた」
本格的なフレンチトーストが出てきたのだ
奈美「ありがとー!! ・・ってここ喫茶店でしょ? 予算がぁぁ」
颯汰「大丈夫 おごり っつーか秘密な」
奈美「あ、ありがと!」

颯汰の作ったフレンチトーストは絶品だった。
奈美「ん~ 颯汰って料理うまいんだね!」
颯汰「まー これでも料理で食ってる家庭の子だからな」
奈美「ふーん・・・この店継ぐの?」
颯汰「まぁな そのつもり。」

しばらく沈黙が続いた

そして7時45分ごろ・・
料理の後片付けをする颯汰を頬杖しながら眺める奈美

颯汰「ん?どした?」
奈美「あ、いやぁ 別に」
颯汰「ふーん」
・・・
奈美「あぁ じゃそろそろ帰るわ ごちそうさま」
とにっこりしてレジにカレーの分のお金を置いていった

帰りに考えた

(なぜ 思いを伝えられないのか 相手のいとしい人を知ったからか
     そんなの言い訳ではないのか)
自問自答を繰り返した
(このままの関係でいいのか いいわけがない)
そのとき後ろから声が聞こえた

剣悟「よぉ」
奈美「あ、剣悟じゃん 何してんの?」
剣悟「んー 颯汰の喫茶店でメシ食おうとしたんだけどさ もう閉まっちまったみたいだな」
奈美「あぁぁ あたしさっき食べたよ」
苦笑い
奈美「ワンテンポ遅かったね」
剣悟「あぁ・・残念」
奈美「じゃね」
剣悟「あ、あぁ じゃな」

短い会話だった

家に帰っても奈美は悩んだ

(自分のことばかりを考えるから こうなるのか  好きな人に好きな人が他にいるならそれを応援すべきなんじゃないのか)

奈美は心に誓った
   〝全力で後押しする〟 と