12月17日 月曜日
いつもと変わらない学校生活が始まる
この日は全校集会があった
先日行われた 颯汰、直輝たちの陸上部の表彰伝達も行われる
8時40分を過ぎたころ
体育館に生徒が集まってくる
久美「颯汰と直輝がいないけど」
剣悟「昨日の大会の表彰だろうよ」
奈美「え、大会なんてあったの?」
剣悟「知らなかったのかよ」
久美「大きい大会だったの?」
剣悟「そこまででかくはないみたいだけど 市内で負けた相手に勝って二人とも優勝してきたみたいだぜ」
久美&奈美「ええええ!? すご」
奈美「あの、杉並って人に勝ったの直輝!?」
・・・杉並 修平(すぎなみ しゅうへい) 市内大会で直輝との接戦で1位を獲得した選手 直輝は3位だった お互いにライバルとして頑張っている
剣悟「接戦で勝ったみたいだぜ」
久美「種目は?」
剣悟「颯汰が200mで直輝が110mハードル」
久美「へぇー」
奈美「颯汰も武内って人抜いたの?」
・・・武内 鷹覇(たけうち たかは) 市内大会の200m優勝者だ お互いをライバル的存在と認め合っている
剣悟「武内は不調だった見たいだぞ」
奈美「そうなの じゃあダントツだったんじゃないの?」
剣悟「それがな 池田 翔一郎ってやつがめちゃくちゃ速くて あせったなありゃ」
・・・池田 翔一郎(いけだ しょういちろう) 市内大会では決勝にも残らなかった選手だが 冬季練習で相当な追い込みをして力をつけてきた これからの活躍が期待される選手
奈美「池田?」
剣悟「颯汰と接戦だったんだぜ 武内は3位だった」
久美「あの2人ってそんなに速いんだぁ」
剣悟「俺は1度も短距離で勝ったことない。」
久美「50m走とか何秒なの?」
奈美「確か颯汰が6'01で直輝が6'12だよね」
剣悟「あぁ 確か 颯汰あと少しで5秒台だぜ」
奈美「身近にいるからなんとも感じないけど、陸上の世界では名を轟かせんだろうね」
久美「へぇー すごいんだね あの二人」
剣悟「あぁ 部活はな」
奈美「部活だけね」
久美「部活だけか」
表彰伝達も終わり
いつもと変わらぬ生活が始まる
ゼヨ「帰りの会を始めます」
剣悟「朝の会だろ?」
ゼヨ「あ、間違えた 突然ですが、今から席替えをする」
生徒たちは喜ぶ者もいれば嘆く人もいた
颯汰は嘆く人だった
颯汰の左隣には奈美が右隣には久美が前には直輝、その前には剣悟がいた
話しやすい奈美がとなりってのがずいぶん楽な上に久美までいるのだ
今までにない最高の席だった
颯汰「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛」
剣悟「ゼヨー 颯汰が「席替えをしてはいけない病」にかかりました」
ゼヨ「そんな病kはこの世にない ちなみに席順は俺が考えてきた 前に貼っとくので朝の会が終わったら席を変えておくように」
奈美「そう気を落とさないでって」
久美「なんでそんなに落ち込んでんの?」
剣悟「あ、やっぱり奈美と離れるのが嫌なのか」
颯汰「ちげーよ」
直輝「じゃあなんだよー」
颯汰「俺は直輝くんや剣悟くんと離れるのがいやなのよん」
剣悟「よく言うぜ」
直輝「右に同じ」
久美「でた『右に同じ』」
直輝「もう口癖だ」
奈美「へんなの」
颯汰「とにかく、俺と奈美はなんともないから」
久美「ふーん」
剣悟「ふーん」
直輝「ふーん」
奈美「なによ 『ふーん』って」
剣悟「ふーんはふーんだ」
久美「ふーんだよね」
直輝「ふーんだ」
奈美「あ、席順見に行こう」
剣悟「あぁ」
席順を見たとき
颯汰は全身の力が抜けるような衝撃を受けた
颯汰は一番窓際の一番後ろの席
そして隣には・・・久美が
前には剣悟がいた
直輝と奈美はすこし離れたが
奈美と直輝のふたりは隣同士になった
久美が声をかけてきた
久美「また隣だね」
にこやかに。
颯汰「あ、あぁ そだね」
そのあと奈美が耳もとでささやいた
奈美「よかったじゃん また隣だよ!」
その日颯汰は授業など上の空
窓際の席だったので 頬杖をしながらぼんやりと空を眺めるばかり
なぜか機嫌がいいようには見えなかった
そんな颯汰をみていて変な気分になる奈美。
放課後───
いつもとかわらず二人で川原の土手を歩く颯汰と奈美
奈美「・・・よかったね 久美のとなりで!」
颯汰「・・あぁ・・・」
奈美「・・なに? 今日颯汰暗いよ?」
颯汰「・・・」
奈美「なんとかいいなさいよ」
颯汰「・・・あのさ」
奈美「ん?」
颯汰「・・・俺になんか隠してんだろ」
奈美「・・・え?」
颯汰「わかるさ 幼稚園からの腐れ縁だからな」
奈美「・・・え・・・?」
颯汰「・・・・正直、お前みたいな関係の女子なんて他にいねぇよ」
奈美「・・・」
颯汰「登下校は一緒だし、よく話すし。」
奈美「うん・・・」
颯汰「それに、お前の性格だから、一切隠し事なんかしなかっただろ」
奈美「・・・・うん・・」
颯汰「特に俺には。 だからわかるんだよ」
奈美「・・・あたしが何を隠してるの?」
颯汰「・・・それはわからない。 最近のおまえが変だから」
奈美「変って?」
颯汰「無理してる感じがある。 本性で笑ってない」
焦った。
颯汰は気づいていたのかと。
でも、もう決めたことだ。
颯汰「作り笑いしてる奈美が つまんねーんだよ。」
奈美「・・・正直に話すよ」
颯汰「・・やっぱり何か隠してたんだな」
奈美「あたしね・・・」
颯汰「・・・・」
颯汰は下を向いたままだ。
奈美「ずいぶん前から 颯汰が好きだったの」
そのとき颯汰の足が止まった
下を向いたまま一歩も動かない
奈美が一歩先を歩いた
颯汰「・・・・」
奈美「やっぱり 言わない方がよかったでしょ」
振り返り たずねる
颯汰「・・・なんでだよ・・」
奈美「・・・え?」
颯汰「・・・なんで今まで言わなかった」
顔を上げた。 その表情には怒りが窺えた
奈美「なんでって・・・」
颯汰「なんでか聞いてるんだよ!!!」
カバンを叩き付けた
奈美「・・・なんで怒るの?」
颯汰「・・・・・はぁ・・ 俺は、自分のせいでお前が無理して笑うのが嫌なんだよ」
奈美「・・・それってどういう意味・・」
颯汰「・・・お前は俺にとって特別な存在だった いつも一緒だから 普通の扱いとは どうしても違った」
奈美「・・・うん」
颯汰「そうしてるうちに お前にはつらい思いはしてほしくないって 思うようになったんだよ」
奈美「・・・」
颯汰「・・・好きだった」
奈美「・・・でも久美が好きなんでしょ?」
颯汰「・・・正直 自分は誰が好きなのかよくわからない」
奈美「・・・そうなんだ」
颯汰「前から奈美が好きだったのに・・突然現れた久美に一目惚れしちまうしよー・・」颯汰の目に涙が溜まった
颯汰「ただひとついえることは・・ 久美が転校してくる前に付き合ってれば 久美を好きにはなってなかったと思う」
奈美「・・・そうだよね・・」
颯汰「・・・ごめん 勝手にキレて 俺のせいでもあるんだよな」
奈美「・・・」
颯汰「・・・はぁ ・・・帰ろうぜ」
奈美「うん」
沈黙が続く
奈美「学校では何もなかったみたいに接してよね」
颯汰「あぁ・・・ いつでも店こいよ」
奈美「フレンチトーストおごってよね」
二人の目には少し涙が溜まっているようだった。
すれ違いを嘆く気持ちであふれる。
いつも登下校で手をつなげるような仲になりたいと願っていた奈美。
互いにすれ違いを悔やむ気持ちでいっぱいである。
自分が思いを告げていれば・・・
二人の思いは揺れる