12月15日 金曜日
朝の7時40分を過ぎたころ────


冬の寒さに耐えながらオレンジの手袋、マフラーをつけて奈美が登校する
颯汰は朝練習があるので朝は一人で登校することが多い
運動部が朝練習に取り組んでいるのが見えた
颯汰の所属する陸上部は大会が近いので、軽めのメニューに取り組んでいた
横にサッカー部の剣悟のシュートしたボールが転がってきた
剣悟「お、奈美じゃん」
奈美「あ、おはよー」
剣悟「おぅ」
奈美「あのあと晩ご飯どうした?」
剣悟「コンビニでインスタントラーメン」
奈美「あははは どんまい!」
何気ない会話を交わし 教室へと向かう
下駄箱を抜けたあたりに早めに部活が終わった颯汰がスリッパを履いていた
奈美「おはよー」
軽いノリで屈む颯汰を蹴飛ばす
颯汰「あぁ 奈美か おはよ」

二人で階段を上りながら話した
奈美「昨日はありがとね お金ちゃんとレジ入れてくれた?」
颯汰「あれくらいならいつでも作ってやるよ  金なら大丈夫入れた」
奈美「ならいいや 帰りに剣悟に会ったよ」
颯汰「え どこで」
奈美「んとね 店でてすぐ あたしが出た後にCLOSEの札だして電気消しちゃったじゃん だから剣悟帰っちゃったの」
颯汰「そっか 剣悟ねぇ・・・」
奈美「ん?」
颯汰「あ、いやなんでもない」
奈美「えー なになに?」
颯汰「なーんでもないっ!」
奈美「ふーん その顔で大体わかったし」
颯汰「言ってみろよ」
挑発する感じで言ってみた
奈美「んー 剣悟好きな子がいるんだ」
颯汰「・・・・」
奈美「・・・・」
颯汰「おまえ 何者?何でわかる?」
奈美「合ってるんだぁ」
これ以上は聞かないでおいた
嬉しそうに階段を駆け上がって一足先に教室に駆け込む
すでに久美は座っていた
それを見て颯汰のところへUターン
颯汰の耳を引っ張りながら話す
奈美「久美ちゃんいるよ! あのね、颯汰はカッコつけてんのかしらないけど すっごい無愛想なの もっと自分から話しかけるような積極性が大事よ」
颯汰「お前はすこしは人見知りをしろ」
奈美「いい? 積極性を重視して今日をすごすのよ!」
颯汰「はい ムシですね」
奈美「頑張ってよぉ~」
徐々に声が大きくなり久美に気づかれる
久美「おはよう 奈美 各務くん」
にこやかに話しかけてきた
奈美「おぉ 久美ちゃん! おっはよー♪」
無愛想にボーッとする颯汰を見て足を踏む
颯汰「っ! お、おはよー小林さん」
久美「できれば久美って呼んでください」
颯汰の体に衝撃が走る
イナズマに撃たれたように
颯汰(ん、ちょ、あ、あれ、下の名前を呼び捨てにしろと?)
颯汰「わ、わかった。・・・く、久美」
久美「よろしくね 颯汰」
初対面なので敬語を使っていたが
翌日からは緊張するまでもないとでも思ったかのように馴染んできた
人見知りをするような感じではないが、奈美ほどうるさい感じでもないようだ
久美「前の学校でもみんな久美って呼んでくれてたから ここでも久美って言ってほしいんだ」
奈美「ほー なるほど」
颯汰「あ、 宿題出さないと」
奈美「ちょっと待ったぁ」
颯汰「・・なんですか?」
奈美「昨日の分の宿題を出しなさい」
颯汰「勘弁してください」

いつもと同じ学校生活が始まる
運動部の朝練習も終わり着々とクラスに人数が増えてきた

昨日と違いいつもどおりの時間にゼヨが来た
ゼヨ「おいお前ら席つけよー」
朝の読書の時間だ
座ってない生徒を注意し座らせる

奈美の愛読書は『It will break my heart』という恋愛小説。
日本語にすると「それは私の心を破壊するつもりです」という意味。
主人公は元彼との別れを引きずっているが
一方で気になる人も出てくるが、その人は元彼の親友。
その後その人は記憶を失い、主人公のことを完全に忘れ去ってしまう
記憶を取り戻そうと必死になる最中で元彼が事故死してしまう
始めの幸せな関係から一転、周りから愛しい人が消えていくのを悲しく描いた小説だ

今ちょうどすべてを読みきろうというところだ
みんながいる教室の中で泣き出す奈美
教室にざわめきが起こる
心配したゼヨが声をかける
ゼヨ「おい、櫻井、どうした?」
奈美「だって、章吾がぁー・・歩美かわいそすぎだよー」
といい涙を拭った
ちなみに章吾というのは小説内の主人公の元彼の名前。歩美は主人公の名前である
ゼヨ「え、・・・」
ざわめくクラスに向けていった
ゼヨ「あ、櫻井さんは小説読んで泣いてるだけなので」
奈美「ちょ、言わないでよぉ」
ゼヨ「っていうか、みんな気づいてるし」
ざわめきが笑いに変わる
ちなみに剣悟と颯汰は寝ているのでまったく気づかない

読書の時間の終わりを告げるチャイムが鳴る
朝の会を終えて 放課になる

直輝「小説読んで泣くってどんだけ感情が豊かなんだよお前って」
声をかけてきたのは、去年奈美と知り合った遠山 直輝(とおやま なおき)だ
陸上部所属
奈美「えぇ だって しょ、章吾が死んじゃって、、」
直輝「いや、知らないけど」
剣悟「奈美が泣いたってほんと?」
直輝「おめーは寝てるから気づかなねーんだよ」
剣悟「いやぁ 部活のあとにあんな睡眠時間を用意してくれるなんて池中は気が利くねえ」
奈美「睡眠の時間じゃないんだけどね」
ちなみに颯汰はまだ寝ている
直輝「・・あのさ 奈美って彼氏いんの?」
奈美「え 何でそんなこと聞くの?」
直輝「聞かなければならない理由があるんだ」
奈美「えー 直輝とは付き合えな~い」
直輝「理由とは言っても詳しくは言えないけど」
奈美「スルーなのね。捨て身の渾身のナルシストボケもスルーなのね」
直輝「いる?」
奈美「いねぇよ」
ふざける
直輝「颯汰だろ」
奈美「・・・ちがうよ」
颯汰「俺と奈美はそんな関係じゃねーよ」
襟をつかんで言った
直輝「おお、起きたんだ」
颯汰「俺の名前が聞こえたので」
頭をかきかながら言う
直輝「ほんとは付き合ってるんでしょ?」
颯汰&奈美「違う」
久美「あたしもてっきり付き合ってるのかと思ってた 今の『違う』も息ピッタリだし」
久美も入ってきた
奈美「え~ なによ久美まで」
颯汰「何でそんな風に思われてんの?」
奈美「そうそう」
直輝「何でっていうか 見てりゃわかるだろ」
剣悟「うん わかる 普通はわかる」
久美「いつも一緒だしね」
直輝「何より登下校一緒ってねぇ」
久美「すごいよね」
剣悟「すごい。 登下校で一緒って彼氏と彼女が過ごす定番な時間だよ」
奈美「んー・・・」
颯汰「んー・・・」
納得できるようなできないような感じだ
奈美「じゃあ 説明するわ」
剣悟「おっ 奈美が自分のこと語ると長いぞ」
直輝「久美ちゃん、覚悟しな 2つくらい放課使ってしゃべりまくるよ」
奈美「まずね あたしと颯汰が一緒に登下校してることね あれは家が近いのと、幼馴染で話しやすいってだけ」
颯汰「そうです、」
奈美「あたしに彼氏できたら『チューしたい』だのなんだのいろいろ言うでしょ?」
剣悟「ほんとに家が近いだけ?」
奈美「渾身の自分を捨てたボケはあっさりスルーされることが多いのね  ほんとにそれだけだよ」
久美「ふーん 颯汰と奈美だったらお似合いだと思うのにな」
直輝「そうだそうだ」
剣悟「ほんとに違うなら、この際付き合えば?」
颯汰と奈美は顔を合わせる
颯汰&奈美「ない」
首を縦には振らなかった
奈美「んー・・・まだ信じない?」
久美「信じない」
剣悟「うん。信じない ってか信じられない」
直輝「右に同じ」
颯汰「信じろよ ってかそこまでの確固たる自信はなんだよ」
直輝「一緒にいる時間が多すぎるだろ?」
剣悟「ここからお前ん家まで30分はあるだろ」
颯汰「んーまぁあるけど」
久美「おお長い」
直輝「その途中には川沿いの土手があったりして」
剣悟「ロマンティックな夕日を浴びながら」
直輝「手をつないじゃったりして」
剣悟「チューしt・・ブヘッ」
奈美「・・・ないから」
しゃべりきる前にするどいビンタが飛ぶ
剣悟「ってぇー」
颯汰「恐怖」
直輝「み、右に同じ」
奈美「そーんなに言うなら証明してあげる みんなあたしが彼氏できたら学校とか、生活の中で彼氏についてどんな反応示すと思う?」
剣悟「おまえのことだから、人目気にせずに抱きついたりすんじゃねぇの」
久美「同じく」
直輝「右に同じ」
颯汰「右に同じって多いだろ」
直輝「響きがいい」
奈美「だったらよく考えて」
久美「何を?」
奈美「学校とかで一回でもあたし颯汰に抱きついた? チューした? それに、普通みんなに隠したりしないよ」
剣悟「んー」
直輝「まぁ確かに」
久美「でも、下校中の土手でめちゃくちゃ夕日がきれいなときとか・・・」
奈美「・・・?」
久美「ハグしてたりしてー!」
奈美「・・・・。」
颯汰「ない」
奈美「右に同じ」
直輝「『右に同じ』って流行りそうだな」
奈美「んじゃあ! 今度みんなで遊びに行こう」
直輝「ふむ。」
剣悟「そこで何事もなければ少しはわかるかもな」
久美「それってあたしも行けるの?」
奈美「もちろん!」
颯汰「ほおー いいじゃん」
奈美「なるべくロマンティックなところのほうがいいでしょ」
久美「あのー 青空公園は?」
剣悟「どこそれ?」
直輝「あぁ あのクリスマスツリーが光ってるでっかい公園?」
久美「そうそう、そろそろクリスマスだし、二人がカップルなら絶対ここでチューしたいはず」
奈美「よし いいじゃないの」
剣悟「ま 違うとしたって面白い思い出になりそうだしな」
直輝「行きますか」
颯汰「ふー」

12月25日、青空公園で遊ぶことが決定した。
この日───────
        思いが爆発する