不機嫌そうなヒロキが徳井さんに淡々と話しかけ始めた。
「いつもリモコン持ってますけど、皆んな迷惑してるんすよ」
「観たい番組あるんで変えていいすか?」
前ブログにも書いた通り、今日は皆んなでTVを観て盛り上がっている。
「は?今、皆んなで観てるから無理」
「皆んな、あなたのせいで嫌々観てるんすよ」
そしてTVを観てる人達にヒロキが問いかけ始めた。
「迷惑ですよね?」
「チャンネル変えたいですよね?」
だが全員、TVから目線を外さない。
「誰もお前の話なんて聞いてねーってよ!」
「面倒くせーから、いつものところに帰れよ!」
吠える徳井さん。
怒りに震えながらフリーズするヒロキ。
ヒロキの言いたいことは分からなくもないが、今じゃない。
正義感?
いや、ヒロキは来た時からイライラしてるのは誰が見ても分かってた。
何がしたかったのだろうか。
本当は、輪に入れてほしかったのだと思う。
思春期の頃に仲良くなりたいのに恥ずかしくて悪態つくみたいな。
ヒロキに声をかけてあげようかと思ったがやめておいた。
子供扱いされることを何よりも嫌うからだ。
下手したら「何様?」とでも言われるだろう。
僕がこの精神病院で一番気をつけていることは、他人を助けたり励ましたりしない。
自分も同じ入院患者だということだ。
何かあれば看護師や医師が手助けするのがルール。
ヒロキは、また自分で自分の居場所を無くしてしまったのだった。
続く

