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Anon.のブログ

いずれ闇に消えるものなら
夢や記憶の欠片を拾い集めて
その色彩をガラス玉にどろりと流して
トンボ玉をいくつもつくろう

ロシア語をがなる路上の黒ラヂヲ土砂降り雨に赤ランプ滲む

 

職場で私の部下として働いていたKという女性が精神的に不安定なところがあり、言動が異常であったため、雇用契約を打ち切って辞めてもらったことがある。

それからもう数年が過ぎたが、今日、外へ出てみると、十数年来空き家になっている向かいの家の二階の窓が開いていて、四角く区切られた闇の中に、白い能面のような顔だけが一瞬浮かんで見え、それがKらしいのだ。

Kは逆恨みにもせよ、自分の首を切った私を恨んでいるに違いなく、私の家の真向かいに引っ越してきたということは、私に何らかの嫌がらせを仕掛けることが目的であろうことは容易に想像され、私は憂鬱になった。

その夜、雨が土砂降りになり、そのはげしい雨音さえかき消すような男の怒号が外から聞こえてきた。

近隣トラブルでも起こったのかと耳をそばだてるが、ひび割れた声で怒鳴り続ける男の言葉は聞き取れない。

言葉の抑揚からして、それは日本語ではなく、ロシア語であるらしい。

閉め切った雨戸を少し開けて外を覗いてみると、家の前の通りに黒い箱型の大きなラジオが放置され、折からの雨に打たれて白いしぶきをあげていた。

男の怒号は路上に置き去られたその黒いラジオから流れてくるのだ。ラジオの筐体には赤いランプが点っていて、その赤い光が雨で溶け出して路面に流れているように見えた。