都心のビル街の一角に薄暗い森のような場所があり、生い茂った樹木の向こうに殆ど崩れかかった古い講堂がある。全体が蔦に覆いつくされて輪郭は柔らかみを帯び、ファサードは歪んで、上から蔦が垂れ下がっている状態で、しかし内側から橙色の明かりが漏れているので、この講堂がまだ使われているのだということがわかる。
私はここに感染症の専門家の講演を聴くために来たのだ。
講堂内に入ると、階段席が扇を開いたように並び、扇の要にあたるところにある演壇にだけ光が落ちている。
聴衆の黒々とした頭の列の向こうの演壇に登壇した専門家を見て、私は強い反感を覚えた。
スライドが投射され、罫紙の上に毛筆の毛羽だった字体で書かれた昔の証文らしい文書が映し出された。
感染症専門家の話はこんな内容だった。
ある女性が投資信託を始め、全資産を注ぎ込んだが、最後に女性の手元に残ったのは三枚の少額硬貨だけであった。その女性と同じ名の女性が、それより数十年遡った時代に同じく投資信託を始め、三枚の少額硬貨だけが残ったという記録文書がある。さらに時代を遡って調査すると、やはり同じ名の女性が先の二人の女性と同じく投資信託で失敗し、三枚の少額硬貨だけを取り戻したという記録がある。
これらの記録類は、ある経営学者が銀行の帳簿や記録文書を調査する過程で発見したものであり、経営学者によると記録に出てくる三人の女性は、他の証拠から推して同一人物である可能性が高いとのことである。この経営学者はさらに過去にさかのぼって調査を継続しようとしたのだが、本務に差し障ることを嫌って中断してしまったという。
「この女性はいわば不老不死の人であり、現在もどこかで生存していると、私は思いますな」
感染症専門家は訥々とした口調で語り続けた。
