縁側の日向に座って庭を眺めていた。
私が五歳になるまで住んでいた古い家である。
戦争中に渋谷から疎開して来た歯科医が建てた平屋の木造家屋で、玄関脇に丸窓がある。
庭の隅の藪から雄ネコが這い出して、足もとに擦り寄ってきた。
黒と白のシマネコだ。
日向のにおいがする。
私はネコが好きだが、そのネコは毛並みがタオル地のようにごわごわしていて、普通のネコとは見た目も手触りも違う。できの悪いぬいぐるみのようでもある。
「お前の名前、何てェんだい」
私が聞くと、ネコは、 「忘れちゃったア」と、そっぽを向く。
横を向いたときの目がビー玉のように澄んでいる。
ネコは少し考えて、 「あのねェ、ハチベエっていうの」
「ハチベエか、ハチベエとはねえ」
私は目を覚まして寝床の中で笑った。