【ユンジェ小説】
香水 ②
トンペンならおそらくみんな知ってることだが、
ジェジュンは酒に強い。
底なしに強い。
僕はあまり飲まないが、それは、飲めないというより、
アルコールのせいで自分を見失うことを恐れるせいだと思う。
「恐れる」と言ってしまうと、弱虫のようで嫌だが、
理性が麻痺して、周りの人たちに迷惑をかけたり、
傷つけるようなことを避けたい。
僕は、自分で自分をコントロールして、信念に沿った行動をしたい。
ジェジュンはしばしば酔いすぎて記憶をなくす。
「~~までは覚えてるけど、あとは覚えていない」などと言う。
「それって、怖くないの?」と聞いたことがある。
相手に何かひどいことをしてしまったり、
逆に自分がされたり、そういったことが怖くないのかと。
「でも、酔うとほどんど眠っちゃうし、何かされたりって・・・何を?」
ぷくっとくちびるをとがらせて、ジェジュンが僕を覗きこむ。
何をって・・・。
言いはばかる僕の体温が、かっと上がった。
あれは、まだ付き合う前の会話だ。
何をって・・・。
たとえば、今、
繰り広げられてる光景のようなことだよ。
「コンベ~!」
「乾杯~!」
「コンベ!!」
「ぐいっと、そうそう!」
「おお~!強いね~ジェジュン君!」
「一気!一気!」
洒落た居酒屋の個室、
大テーブルの向こう側、
歓声の中心でジェジュンが、一気飲みをしてる。
母国の習慣で、目上の方が注いでくれる酒は断りにくいのも事実だが、
ジェジュンも決して嫌がっていない。
「あっは!ぷぁ~!」
わあっと場が盛り上がる。
「あ~っ!ぼっく、酔っ払いですね~! ひっく!」
もう何回目・・・何十回目の杯を空けてるのだろう。
呑みすぎだ、ジェジュン。
「あ~~~~っ!!世っ界が回ってます~~!!(@▽@)」
まっすぐに座っていることもできないのか、Aさんに肩を抱かれている。
そろそろ眠くなったのか、頭を垂れてつむじを見せている。
・・・長めの前髪がさらさらと顔の前でゆれて、表情がわからない。
「ユノ氏、まだ宵の口ですよ、もう1杯ぐらいいかがです?」
テーブルのこちら側は、たまたま静かに飲むタイプのメンバーがそろっていた。
僕があまり飲まないと知ってか、
隣の幹事役のスタッフさんに遠慮がちに薦められた焼酎を、
「いただきます!」
やけくそのように、飲み干した。
「おお!ユノ氏も実はいける口?」
続いて注いでもらった杯も、一気に空ける。
スタッフさんが驚いている。
(あ!Aさん・・・ジェジュアの肩をさすってる!)
(ぐあ!ジェジュアの耳になんかささやいてる!)
(あああっ!!ボクのジェジュアの耳、舐められてないっ!?)
がばっ!
いきなり仁王立ちした僕に、なにごとかと数人が視線をよこす。
ジェジュンはうな垂れたままだ。
Aさんも僕の様子に気づいていない。
憤然と歩み出そうとする僕のセーターのすそを、隣のスタッフさんがあわてて掴んで
「ユノ氏、穏便に!穏便に!」と
ささやいた。
さっきからの僕の様子でなにか察したらしいスタッフさんが
必死の表情で止めるのを振り返り見て、
僕は1回、2回、3回、
深呼吸をしてから、テーブルの向こうまで響き渡る大声で、
何度も練習した『よく使う便利な日本語』を話した。
「ごちそうさまでした!
明日も早いので、これにて失礼させていただきます!」
*
「日本の冬は好き。
空気が透き通っている。
故郷を思い出すよ」
眠っていると思ったのに、
暖房の強いタクシーの窓を開けて冷たい風を浴び、
ジェジュンが独り言のようにつぶやく。
「ああ、家族に会いたいなぁ」
思わず僕はジェジュンの膝の上の左手に自分の右手を絡ませ、
ぎゅっぎゅっと、にぎった。
「もうちょっと、あと少しがんばれば、新年には帰れるよ」
振り返って、下から僕を覗くように「そうだね」と、
にっこり微笑むジェジュン。
瞳が潤んでいる。
酔った顔が紅潮している。
パーカーからのぞく長い首と鎖骨のあたりまで皮膚が赤くなっている。
まるであのときのように。
僕はうまく笑いかえせなくて、頬がこわばった。
「ユノ・・・怒ってる?」
「怒ってないよ。」
「怒ってるよ。」
「怒ってないよ。」
いきなりジェジュンはジーンズの僕の股間に右手を伸ばした。
「ほら、怒ってる!あっは!」
「ばっ・・・!」
ジェジュンの両手を捕まえる格好で、
股間をこれ以上ないくらい膨らませて、
まだなにか説教でもたれようというのか?
僕は自分を滑稽に感じて、
邪魔者の“理性”をどこかに追いやることにした。
③へつづく
・