今日はプロレス観戦記を書きたいと思います。
 いやぁ、ここ数年は貪欲にプロレス会場へ足を運んでおります。そもそも私が上京してきたのも、プロレスをぜい沢に観るのが目的だったようなもの。そして観たいと思った大会は、だいたい観れている。目的は、ひとまず果たしているといっていい。
 そんな自分がこのたび選んだのは、初観戦となる格闘探偵団バトラーツであります。

 

 

 男子団体はメジャーだろうがインディーだろうが無差別に観戦している自分ですが、なぜかUWF系の団体には縁がありませんでした。強いて挙げればリングスを1回ほど。そのくせFMWにはちょいちょい行っている。いいのだろうか、こんなので?
 第2次UWFの解散後はリングス、UWFインターナショナル、プロフェッショナルレスリング藤原組の3団体に分裂しました。そのなかで藤原組では、スポンサーからの所属選手の大幅なリストラの提示に反発した藤原喜明を除く所属選手全員が退団という、のっぴきならない事態が勃発しておりました。その後、石川雄規を中心に設立されたのがバトラーツなのでありますね。

 団体名の由来は、たしか「battle」と「art」を組み合わせた造語(闘いの芸術?)だったと思います。 

 

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 所属選手は石川のほか、池田大輔、アレクサンダー大塚、船木勝一、田中稔、小野武志、臼田勝美、モハメドヨネ、日高郁人、土方隆司、マッハ純二ら。レフェリーには島田裕二が参加。
 このほか、旗揚げ初期から事務所に住みつくようになった迷いネコ「ガッチリ」も、試合はしないが所属の一員としてカウントされ、マスコットキャラクターとし活躍。ガッチリは選手より人気があり、グッズの売上げでも選手より稼いでいる。



 バトラーツルールはフリーダウン制であり、場外戦は認められない。3カウントフォールもない。決着はKO、ギブアップ、レフェリーストップで決められる。このへんは、いかにもUWF系の団体といった印象を受ける。
 ただしバトラーツがユニークなのは、UWFのスタイルに通常のプロレスの要素も雑じらせているところ。このあたりが自分的にはポイント高しな点であるといえる。

 

 

 さて、試合がおこなわれる会場は後楽園ホールなんですが・・・・・・じつは私、後楽園ホールへ行くのは今回が初めてなんですよぅ! 隣の東京ドームで観戦したことなら上京する前から数えて何度もある。いちばん多いのは日本武道館。でも、格闘技の聖地と呼ばれる後楽園へ乗り込むのは、恥ずかしながら初体験なのでありました。
 だいぶ早くに現場へ着きました。“青いビル”の入口にはファンらしき人の姿がみられます。チケットは前売りで買ってましたんで、私は単身、エレベーターに乗ってホールのある5階へ。チケットがあるといっても自由席なので、なるべく好きな場所をゲットしたい。だから早めに会場入りするに越したことはないのだ。
 エレベーターと会場のあいだに廊下のようなスペースがあるんですけれども・・・なんだか様子が変なんです。人はそのへんに行き交ってるんですが、どれも客ではないような気がする。関係者ばっかりのように見えます。
 そばにウォーミングアップ直後と思われる様子の日高選手がいました。マスコミの人らしき男性と挨拶をしておられます。あまり大きくはないですね(公式身長:172cm)。なんならマスコミの人(?)のほうが大きいくらい。日高選手は礼儀正しく「はいっ、はいっ」と、いかにも好青年。
 ・・・・・・しばらくはそんな情景を眺めておりました。地方出身者の自分には、なにもかもが新鮮で珍しくて。しかし、不安は募っていきます。こんな舞台裏みたいな空気でいっぱいな場所、自分なんかがいてもいいのだろうかという不安ですよ。そもそも客がいていいのなら、そのへんに列ができてなきゃいけないんじゃないの。でも列なんかないんですよ。
 いたたまれなくなって、いっぺん1階まで降りてみることに。そしたら、そこには列がありました。つまり、さっきまで自分がいた場所は、やっぱり客がいちゃいけない時間帯に入っちゃってたってことなのね。初めてなんで、よくわかんなかったよ。説明書きみたいなものも見なかったのと、誰にも注意されなかったのが不思議。セキュリティ、ゆるゆるなんですね(笑)。

 で、あらためて会場入りのやり直し。試合会場へ。おおお、ここが後楽園ホールか! テレビでお馴染みの景色、テレビではなかなか映らない箇所、テレビではなかなか見れない角度・・・いろんな意味で感激。そうだ、ここは『笑点』の収録もおこなわれるんだった。笑点で使われる備品らしきものも、チラホラと目に入る。
 私が座ったのは正面側、やや右寄り。ナルホド、話に聞いていたとおり、どの席からも観やすく、リングとの距離が近い。だけどツウの客は2階の立見席を選ぶんだよな。自分のような初心者には、そこへ行く勇気がまだない。立見席へ行くのは次回以降の宿題にしよう。

 

 

 試合開始までに時間がある。それまでは先ほど買ったパンフレットを読むことに。
 石川がピンで表紙に。ややっ、タイトルに「BATTLARTS 2nd Anniversary アクション-B」と書いてある。アクション-Bというのは直前までおこなわれていた4月17日から4月24日までのシリーズのこと。裏表紙には本大会を指す「Mr.B ~ミスター・ビーの大逆襲」とあるのだが・・・。これはいったい、どういうこと?
 思うにこのパンフレット、本来は前シリーズ用に作られたものだったのでしょう。裏表紙になってたのは本日の宣伝。それを引き続き売っていて、中に本日のカードが印刷された紙を挟んでいるというやつですね。たまにあります、こういうの。
 1ページ目をめくりますと、選手兼格闘探偵団バトラーツ代表取締役・石川雄規が書いたものとされる「ごあいさつ」がありました。書き起こしてみます(誤字や脱字があってもそのまんまにします)。

 

 本日はご来場誠にありがとうございます。バトラーツも、今年で旗揚げから早2年を経て3年目に突入します。旗揚げ当初「半年で潰れる」と囁かれながらも、現在を迎えることができましたのも、ひとえにファンの皆様の温かい御支援のおかげと心より御礼申し上げます。

 この2年間、小田原・越谷に始まり、日本全国を巡りました。各地で出会う人々の人情、励ましに何度救われたかわかりません。そして、日本全国いかなる所へも密航して追いかけてくださった人々。各地でバトラーツが来るのを首を長くして待っていてくれた人々。皆さんの声援が“あすなき戦い”を続ける我々にとって、いつでも心の支えでした。

 不景気が騒がれる世の中、まずは“心の景気回復”をしなければ何も始まりません。“流行”でナイフをふり回す愚かな少年達。彼らの精神を病ませたのは大人の責任です。本物の感動、強さ、格好良さを奴らに何故教えることが出来なかったのか。「持ち物検査をするべきだ」などとくだらねぇことを言ってる場合じゃないんです。なぜ「刺すなら俺を刺してみろ」と言えないのか。

 俺達は、バトラーツ信者と共に“病める日本”の魂の救済の為、これからも闘い続けます。こんなくだらねぇ世の中は、バトラーツが征服してしまわなければ滅亡の一途を辿るのは目に見えています。バトラーツの世界征服作戦は、実は人類の魂の救済作戦だったのです。闘いはまだ始まったばかり。世間が、忘れている大切な何かに気付くのが先か、我々の体がぶっ壊れるのが先か、どうか最后まで見届けて下さい。

 最後に、バトラーツを信じる全てのにもう一度心からありがとうと言わせて頂きます。

 そして、これからもよろしく・・・・・・。


 なんか、細かい部分にツッコミどころもありますけど。まあ、いいや(笑)。とにかくバトラーツという団体は、スター選手が不在(ネコのほうがスター)ながらも2年持ち、3年目に突入しましたーってことで。
 そのあとは選手たちの紹介とか、通常のプロレスパンフの構成。そんななか、私の琴線に触れるものが巻末にありました。「紙のプロレス」の広告なんですけど。
 そこには「今月の無名人語録」と題され、大文字で“バトラーツの「B」はバッタもんの「B」である!”という、世田谷区在住・君仁菌太郎さんの語録が掲載されており、その下には小文字で「紙のプロレスは(五流のブランド品より)一流のバッタもんを応援します!」と書いてある。
 この“バッタもん”というのは、石川雄規というプロレスラーを表すには重要なキーワードといえるのだ。彼は先月に引退したアントニオ猪木を崇拝する男だ。その想いが強いせいで、試合中に猪木の顔になったり、猪木的な動きを見せることが多い。技も猪木のものを好んで使う。とくに延髄斬りのフォームはジャンプしたときにつま先より頭の位置が低くならないなど、完成度も高い。ゆえに「一流のバッタもん」と呼ぶに相応しい男であるといえよう。

 そうそう、先ほどにも書いた、パンフレットに挟んであった紙。
 本日の対戦カードが印刷されてます。以下のとおりです。

 

<メインイベント>池田大輔vs石川雄規
<第5試合>アレクサンダー大塚vsビクター・クルーガー
<第4試合>臼田勝美vs松永光弘
<第3試合>田中稔vs望月成晃(武輝道場)
<第2試合>小野武志&日高郁人vsモハメッド・ヨネ&本間朋晃(大日本プロレス)
<第1試合>カール・グレコ&マッハ純二vs竹村豪氏&土方隆司

・試合はすべて30分1本勝負。
・池田大輔vs石川雄規戦のみレフェリーストップなし。
・岡本衛選手が負傷のため欠場、代わりに大日本プロレスの本間選手が参戦。

 

 

 客席が埋まりました。超満員(観衆:2050人)です。では試合開始。
 やはりここは面白いです。派手な大技はあまり出しませんが、感情をむき出しにして相手を徹底的にぶん殴り、蹴りまくって、関節を決める――といった、本来プロレスが持っている根本的なものをしっかり見せてくれます。ゆえに彼らのスタイルは「バチバチプロレス」と呼ばれるのです。
 唯一、毛色の違うものがありました。松永光弘が凶器を使い出したのです。「松永ー、ここはW★INGじゃないぞー」と野次が飛ぶ。これにはベタで野暮な印象を受けた。松永は所属選手ではないですが(主戦場はW★ING)、彼をリングに上げる以上、彼が得意とするスタイルである凶器攻撃は避けられないでしょう。松永目当てに来場したファンも多かったようですし。
 ただし対戦相手である臼田とは遺恨があったっけ? それもないのに凶器を使う必然性は・・・と、唐突感は否めなかったかな。

 いよいよ、なにはともあれメイン。これがいちばんの目当てで来た。バトラーツのトップ2によるシングルマッチだ。
 石川を指導したのはカール・ゴッチとボリス・マレンコ。彼の憧れるアントニオ猪木の“燃える闘魂”にちなみ、キャッチフレーズを“燃える情念”としている。
 対する池田は藤原喜明のほかでは山本小鉄にも指導を受けており、やはりバチバチファイトを信条とする。得意技は大ちゃんボンバー(顔面めがけて思い切り腕をぶち込むラリアット)。たしか何かのインタビューで、ホームレスやるのにも抵抗がない思考を持ち、肉体づくりのためにストイックな食事をするよりはアンパンと牛乳を食べたうえで最強になりたいとか、そんな話をしてたような気がする。面白い人だ。
 これまでの両者の対戦は五分。いざ、決戦のゴングが鳴る。



 序盤から石川の猪木的な動きに、客席から「いいぞ、バッタもん!」と野次が飛ぶ。この場合の「バッタもん」はホメことばと捉えていい。みんなニヤニヤしながら、それでいてこのあとの展開にちゃんと期待しながらの観戦であった。さすが後楽園の客だ、わかってるねぇ。
 試合は、とにかく互いが「ぶちのめしてやる!」と野性的な本能を全面に出しながらぶつかり合う展開。グランドの攻防もあれば、当たりの強いバチバチな打撃もある。しっかりと痛みの伝わるプロレスをしてくれていた。
 聞くところによるとバトラーツはメンバー同士の仲が悪いらしい(笑)。まぁ、プロレスラーはそれくらいでなければ。
 いいものを見せてもらいました。この団体は伸びる。ぜひとも世界征服を果たしてほしいものだ。また来よう。

クリップ
この日の試合結果


 帰りは階段で下まで降りる。おお、これが後楽園名物の落書きか! 壁じゅうにビッシリじゃ。 (゚Д゚;)
 バトラーツのメンバーよりも先に藤原組を離脱した船木誠勝と鈴木みのるらが旗揚げさせたパンクラスの悪口とか、けっこう辛辣なことも書かれてあるぞ。おい、いいのか、あれ? (;゚Д゚)

 

 

――1998年5月27日水曜日