もう、ずいぶん前のことになる。どうしても見たいアニメがあってJ・COMへ加入することにした。
 それからは目当てだったアニメのみならず、いろんなジャンル・いろんな年代の映画やドラマを積極的に観るようになった。BSやCSはビデオ屋には置かれていない珍しいものも放送される。とくに連続ドラマのようにビデオ化されていてもいちいち借りるのが大変なものを見たい場合も、わりと簡単に視聴できてしまう。これを機にレンタルビデオへ通うことはなくなってしまう。
 そんな時期にめぐり会った作品だった。そして心に突き刺さるような作品を挙げるとすれば、どうしても外せないのがコレである。

若者たち』三部作。1960年代半ばの高度経済成長期に放映されたTVドラマの劇場版。主題歌『
若者たち -空にまた陽が昇るとき-』は教科書へ掲載されるほど有名だが、映像まで見たことのある人はどれくらいいるだろうか?
 若者たちが本気で怒っていた時代にて、境遇も人生観も違う者たちが互いをぶつけ合う(イデオロギーの対立)という青春ドラマにして問題作。メッセージ性の高さもさることながら、なんといっても田中邦衛をはじめとする出演者の“役者力”が凄まじい。腰が抜けるような迫力だった。

 

映画1968年公開若者たち


映画1969年公開若者はゆく -続若者たち-


映画1970年公開若者の旗

 

 それからだいぶ経ってからだ。日本映画専門チャンネルでドラマ版のほうを見たのは。
 ドラマ版は1966年、全34回にわたって放送されたものだった。だから私はてっきり、ドラマ版のハイライトをつなげたものが劇場版なんだと思っていました。
 ところが実際にドラマ版を見てビックリ。あれれ? 劇場版と被る場面も含まれてるんだけど、まるっきり一緒じゃない。撮り直してるぞ!目
 ハイライト場面がおなじになるとしても、そこまでのつなぎを違うお話にしてドラマ版との差別化を図っていたようだ。つまり、劇場版にはドラマ版にはなかったエピソードがベースになっていることに気づいたのです。
 いっぽうでドラマ版では、ロケだけじゃなくスタジオで撮影されたと思われる箇所があり、不自然なライティングが気になったり、明らかに絵で描かれた背景の前で演技してたりで、モヤっとすることもありました。だけどそうした手づくり感も、笑って許せる。デジタルに頼った映像にはない工夫を感じられるから。そしてなにより、作り手の熱量がビンビン伝わってくることには変わりありませんでしたので。

 あと、むかしのブラウン管のサイズに合わせて撮影されたものということもあるが、画面が正方形に近い比率になっていました。

 



 映画でもドラマでも、現代ではどれも美形重視のキャスティングだ。出演者の力量も問われないためか「この役は、この人じゃなくてもいいよね」的な印象しか残らないことも多く、加えてコンプラに忖度する内容になってしまってる事情もあって見終えたあとの余韻は薄い。
 それがこの当時の作品では、かならずしも美形俳優だけではなく、フツーであったり、だいぶクセのある外見の方々も多数いた。いかにもスターにはなれなさそうな方々も、生き生きと活躍していなさる。大部屋俳優大集合だ。でも、このほうが生々しくてイイ。伝えるべきものも伝わっている。実生活で苦労しているのが演技にも出ているのだろうか。イイ。とてもイイのだ。グッド!

 なかには後にスター俳優となる方々も参加されてますよ。東野孝彦(東野英心)さんは何度も脇役で登場しましたし、樫山文枝さんとか、井川比佐志さんとか、江守徹さんとか大滝秀治さんとか佐藤友美さんとか露口茂さんとか・・・よく見たら未来の豪華なメンバーもいて楽しいです。
 劇場版のほうではモジャモジャになる前の石立鉄男さんがナイーブな被爆者青年を演じておられ、あの人はコメディより本当はシリアスの人なんだという声があったのにも納得した次第でありました。
 


『若者たち』は田中邦衛、橋本功、佐藤オリエ、山本圭、松山省二らによる佐藤5兄妹を軸に展開していく青春ドラマであったが、とくに確執や差別を題材とする重々しい物語となる回が目立つ。社会派ドラマとしての側面が大きかった。
 そのためか当時の視聴率は芳しくなかったと聞いているが、いっさい媚びず、作り手が作りたいものを発信していこうとするパワーが、ものすごく感じられる作品ということで私としては超がつくほどツボであったのです。

 

 

 最初の放送から今年で56年。けっこうな月日が経ってしまった。佐藤兄妹の次男=次郎役の橋本功さんは2000年に亡くなっていた。長男=太郎役の田中邦衛さんは昨年に亡くなったばかり。
 そしてこのたび、三男=三郎役の山本圭さんが逝ってしまわれた。

 

 

 山本圭さん演ずる佐藤三郎は、いかにも男くさくてガテン系な長男や次男らと違って大学へ通っており、かなり弁の立つインテリ系。猪突猛進型の兄貴に対し、知識の量も思考の柔軟性にも長けている。
 物語の核となることも多く、実質、この作品の主役級の存在といってもよい人物であった。だけど兄貴たちとは似ても似つかぬキレイな顔立ちではある。しかもサラサラヘアーがトレードマーク(笑)。この時代においては「新しい時代の若者」といったところだろうか。

『若者たち』を見ていて山本圭さんの姿に目を奪われない者はいないだろう。私もそのひとり。これで私のなかで山本圭の名前はしっかりと刻まれることになる。
 そして少し前。当ブログで扱った『日本沈没』でも、山本圭さんは邦枝助教授という重要な役どころで現れた。ここでもインテリで弁が立ち、それでいて人間くさい面も併せ持つキャラクターとして。まるで佐藤三郎が成長して帰ってきたかのように(『若者たち』での佐藤三郎はマスコミ志望の学生だったけど)。
 ブログ記事のなかで特撮ファン3名による座談会の動画を貼っているが、このなかでメンバーのひとりが邦枝助教授を絶賛しているくだりがある。その強烈な存在感に心を奪われたようだ。おそらく山本圭さんを知らなかったのだろう。彼らには是非、邦枝助教授のルーツかもしれない『若者たち』も見てほしいものだ。きっと『日本沈没』と同等か、それ以上に心を奪われることだろう。

 

 

 繰り返し書くが、このドラマは互いをぶつけ合う場面が多い作品だった。境遇も人生観も違う者同士が、だ。それは兄と弟のあいだにも生じ、しばしば大バトルに発展する。
 例えば四男の末吉(演:松山省二/兄や姉たちからは「ボン」と呼ばれている)は浪人生である。しかも何回受験しても、なかなか受からないタイプ。それがとうとう耐えかねて受験を諦めるというところまで行くくだりがあった。
 大学へ行くだけがすべてじゃないという考え方もあるが、太郎はそれを頑として認めようとしない。学歴のない自分が、どんなに世間から馬鹿にされてきたか、どんなに悔しい想いをしてきたか、どれほど不利な生き方をさせられるかを知っているから、その苦労を末吉にはさせたくないのである。この兄妹に両親はいない。太郎は幼いころから父代わりとして働いてきた。お金を稼ぐことの大変さは嫌というほど知り尽くしている。そんな太郎だが、末吉を大学へ通わせるためなら、いくらだって稼いできてやるという腹なのだ。
「ボン、大学へ行け! 大学へ行け~!」
 末吉の気持ちもわかるが、太郎の切実な想いも痛いほどわかる。いや、こうして文字で説明したところで「はいはい、そういうことですか」と思われてオシマイかもしれないが、彼らの演じる力はそれぞれの主張を10倍にも100倍にも膨らませて見る者の心を飲み込んでしまう。それほど鬼気迫るものがある。
 結局、末吉は自分で決めた道を進もうとする。これはこれで間違いではないのかもしれない。だがいっぽうで太郎は、その日もみずからの学のなさで辛い場面に遭遇してしまう。学歴、というよりも、学がないことによって生じる思考パターンで負のスパイラルに陥っている状態。これを太郎はあらためて痛感するのであった――。

テレビドラマ『若者たち』より、名場面動画




 

 先ほど劇場版とドラマ版の比較について書いたくだりがありますが、撮り直しているのがわかる箇所として決定的だったのが、出演者が歳をとってる点であった。ドラマ終了からわずか1年か2年ほどしか経ってないのに、佐藤兄妹の顔つきが総じて変わってきてる。
 なかでも長女=オリエ役の佐藤オリエさんは、ドラマのときはまぎれもなく清純派の佇まいだったのに、劇場版のときには悪役が似合いそうな顔つきになっている。
 思えば佐藤兄妹って・・・そもそもドラマの主役クラスに日本のもっとも平凡な苗字をつけてるところからして現代の感覚からすると新鮮だし、太郎に始まり末吉で終わる名前の構成に捻りがないのも逆に新鮮。
 唯一、長女(上から3番目)の名前だけが一家の法則から外れており、しかも役者の名前そのまんまなのだ。というか、本名。
 そういえばもう10年近く前になると思うが、知り合いに日活で働いていたおっちゃんがいて、雑談のなかで、たまたま佐藤オリエさんの名前が挙がったことがある。
 おっちゃんは「あいつはイイ顔になったな」と言っていた。たぶん、清純派でいるよりは悪女っぽいほうが役者としてはイイよってことなんだろうな。

リサイクル東スポや週プロなどでおなじみの高木圭介記者のブログによると、“ディスカッション・ドラマ”とも呼ばれていたらしい。

 知り合いに、役者をしている方が何人かいる。そのひとりに大畑香菜さんという方がいらっしゃる。大畑さんが8年ほど前に『子供の時間』という舞台へ出演されたときだったか、その取材をしたときだったかに、劇場版三部作を録画したビデオを渡したことがあった。
 後日、感想を伺った。そこで面白かったのは、彼女の感想というよりも、ビデオを見ていたときのエピソード。VHSのテープだったのですが彼女の家にはビデオデッキがない。そこで、何ていうところだったかは忘れましたが行きつけの場所にある視聴覚室のような部屋(?)へ持っていって再生したんだというようなことを仰ってた。役者仲間もゾロゾロと入ってきて一緒に見ていたそうなので、たぶん演劇関係の、そういう場所なんだと思う。
 どちらかというと男子ウケの傾向が強かったそうで。だけどそのなかに『若者たち』と似たような内容の公演へ出演予定の人がいて、演者としての力を見せつけられたと思ったのかヘコんでいた――と、そんなかんじのお話を聞かせていただきました。いや、しょうがないよ。こんなに力のある役者さんたちは昨今ではなかなかいないでしょ。そんなのがいっぱい出てくるんだから。😓

映画
劇場版『若者たち』より、名場面動画


映画
劇場版『若者はゆく -続若者たち-』より、名場面動画



 脚本も素晴らしい。
 カメラワークも素晴らしい。

「ボンとオリエは別な人間なんだぞ、大兄とは。別な人間の生き方にまで口を出すのはよせよ!」


「兄妹だから他人さ! もうじきみんなバラバラになって、みんな見ず知らずの他人と結びつくんだ」


「母さん、死ぬ前の日に『お金が欲しいね』って言ってたよな。『もう少しお金が欲しいね』って言ってたよな。あのとき母さんが欲しがってた金は、父さんや大兄の『カネ』『カネ』『カネ』とは違うんだぞ!」


「仏壇買ったからオレにも5000円出せって言ったな。オレはアルバイトして10000円作ったんだ・・・こんなもんで喜びやしないんだぞ、母さんは。こんなもんで浮かばれるか、母さんの魂が!」


「紙だ、こんなものは! 紙だ! ・・・・・・母さんたちに焼香してるんだ、オレは。働いて死んでいった人たちに焼香してるんだ! カネより強いんだ、人間は。ちっぽけで弱くて汚れてたってな。こんな紙っきれよりは強いんだ、人間!」

 

 これを見て何も感じなかったら、ウソだ。