【問題】
昆虫の王様=カブトムシが人間に捕まったときの気持ちを代弁してください。
 
①キャーッ、やってしまったのだあああ!
 おかしいと思ってたのだ、こんなところへキレイにカットされたスイカが置いてあるなんて。
 ああ、これでワシの人生は終わったのだ。もう我が愛する大正山脈の土の香りともお別れか。美しい蝶たちの羽根を眺めながらクヌギの蜜をナメナメすることもできない。さらば諸君・・・。
 
②離せ無礼者、ワラワを誰だと心得るか!
 ・・・まてよ。この人間がもし心ある者ならば、ペットになるともう食に困ることはなくなるかもしれぬ。そうなれば噂に聞くコンニャクゼリーなるご馳走にもありつけるだろうか。これは案外、ラッキーだったかも。
 
③たしかボクが小学校2年生くらいのときに起こった出来事だったと思います。当時のボクは近所に住んでいる同級生と、それよりも小さい幼稚園児たちというメンバーでいつも遊んでいる子どもでした。
 ある日、いつも遊んでいるメンバーがあまり揃わず、集まったのがボクと、歳下のメンバーが数人だけという構成になった日がありました。
「オレ、王様! おまえら、歩兵!」
 ・・・と、いかにも子どもの遊びにはありがちな王政を当てはめる。それも君主制主義の国家です。ボクは少しばかりの優越感に浸っていました。
 何をして遊ぶかを自分中心に決めていき楽しく遊んでいる最中、ボクは急にガムが食べたくなりました。下僕どもには「皆の者、余はこれより少しいなくなるが、楽しくやっていてくれたまえ」的なことを言い残し、ひとりで近所のコンビニへ向かいました。
 コンビニに入るとボクは真っ先に10円ガムのコーナーへ行きました。そして買うガムが決まった瞬間、大事なことに気づきました。
「お金が無い。王様なのに」
 歩兵たちがいる場所からコンビニまでは歩いてもせいぜい2分ぐらいの距離。しかし、いちど戻って歩兵から金を借りるのは王様としてのプライドが許しません。王様は尊敬されなければならないのですから。
 そこで仕方なく、ガムをもらうことに決めました。
 ちょうどレジとガムのコーナーは向かい合う位置にあったので、レジに背中を向ける格好でしゃがみ込みながらガムを選んでいるフリをしました。
 数分後、ボクは少し大きめの声で「いいガムがないなあ」と言いながら素早く1個10円のガムをポケットに入れ出口へ向かいました。
 次の瞬間、ボクはレジに座っていた愚民・・・いや、おばちゃんに呼び止められました。
「キミ、まだお金払ってないでしょ?」
 バレていました。頭がパニックになったボクは思い切って走って逃げてしまいました。後ろから「待ちなさーい!」という声が聞こえてきましたが、振り返らずに全力で走りました。
「振り向くな、振り向くな、後ろには夢がない」
「若さ、若さってなんだ? 振り向かないことさ」
 この場面にMCやテーマ曲をあてるとするならば、おそらくそのような文言やら歌詞の歌が使われてたことでしょう。
 さいわい愚民はそれほどしつこく追ってきませんでしたので、ホッとして歩兵たちのいるところへ戻ることができました。
「いやー、すまぬすまぬ。ちょっとガムを買ってきたのだ」
 そう言いながらガムの包み紙を開けるボク。なにしろ王様ですから、歩兵の前では堂々とした姿でいなければなりません。
 ガムはアタリでした。クジつきのガムだったのです。
 なんという神の悪戯でしょうか。アタリが出た瞬間、ボクはその10円ガムが盗品ということを一気に忘れてしまったのです。
「すっげーだろ、当たりだぜ! すっげーだろ! いいだろ!」
 ほかに何の取柄もないボクですが・・・いや、そんなボクだからこそ、このときばかりは大いに自慢していました。なにしろアタリを引いたのはボクの実力なのですから。
「すごい、すごい」
 歩兵たちも目を輝かせながら尊敬してくれたので、王様気分が前にも増してアップしたボクは高らかにこう宣言します。
「オッケー、いまから交換しに行きまーす!」
 そしてボクは盗みを働いたコンビニへ戻りました。しかも国民総動員で。ぜんぜんオッケーではありません。
 その後のことはよく憶えてませんが、わずかに残っている記憶があります。コンビニから家へ向かう途中で号泣しているボクと、その隣で憤怒しながら歩いているマザーのシルエット。
 そしてもうひとつは鮮明に焼きついている記憶。泣いている余の顔を無言で見つめる歩兵たちの目、目、目・・・。目が、目が、昆虫採集の際、昆虫に打ちつけられる釘のごとくボクの胸をグサグサと突き刺してくるのです。
 なんだ、その目は! なんだ、その虫けらを見るような視線は! なんだ、その・・・憐れみを帯びたような視線は! 余を誰だと思っているのだ! つい1時間ほど前まではプライド高き王様だったのに! キングだったのに!
 消えて無くなってしまいたい。
 
さて、何番?

 

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