アニメに詳しい人からすると「なにをいまさら」な話で恐縮ですが、無知だったがゆえに最近になって驚いたことを今回の記事にしたいと思います。
 
 世界名作劇場の第7作目に『家族ロビンソン漂流記 ふしぎな島のフローネ』というアニメ番組がある。有名な番組ではあります。ロビンソン一家5人が漂流先の無人島でサバイバル生活を送るお話。私はそんなに興味があったわけではないので真面目に見てはいません。テレビに映っていたものをときどき見かけた程度の頻度。それが再放送だったのか、CSで放送されてたものだったのかも憶えていない。それでも「ああ、そういえばこんなことを感じながら見ていたなー」というのが何点かある。
 この手の番組では、登場人物(とくに主人公クラス)は美形に描かれる。仮に実際にあった出来事をもとにしたお話だとすると、本当はどこにでもいるブサイクな人のお話だとしても、絵にするときはハンサムだったり美人だったりと大幅にデフォルメして安易な視聴率稼ぎに走りがちだ。実写モノなら美形の役者やタレントを使う。それがウソくさくてリアリティに欠ける要因になってると感じることは多々ある。
 しかし、この番組のヒロイン=フローネはブサイクであった。絵に描いてもこれなんだから、もしこの話が実話だとしたら本当のフローネは相当なブサイクだったんだろう――そう思わずにはいられない。
 制作側にどんな意図があってこうしたのかは知らないが、他ではありがちな描き方をやらなかったということで、ひとまず私に向けられたものとしては「ひっかかり」の効果があったとはいえる。

 だが私にとってこの番組で最も興味を抱いたのは、ヒロインの容姿でもドラマの内容でもなかった。
 歌、なのだ。というか、歌声。「これのOP曲とED曲を歌ってる人は何者なのか?」という疑問。母に「これ歌いよる人は子ども?」って訊いたら「これは大人じゃけど・・・」と言われた記憶があるのだが、そのときは納得できなかったものだ。だって声の響きが子どもとしか思えなかったから。かといって歌唱そのものは子どもとは思えぬ技術の高さを感じたものであった。だからなおさら「どんな人が歌っているんだろう?」という興味に繋がったのであります。
 ついでにいえば、あのとき母がこれを「大人の声」と即答できた理由はいまだに謎。


「子どもの声」といっても『あなた』を歌っていた小坂明子さんのように、中高生くらいの歌手という例もある。この歌手も、たぶんそれくらいの年代の人なのではないかと。というか、最初は本当に小坂明子さんが歌ってるんじゃないかとも思ったのです。ファルセットを多用する歌い方に共通点がありましたので。
 でもEDの映像で紹介されてる歌い手の名前は違う人の名前になってる。そのときは字が読めませんでした。ただ、見たことも聞いたこともない人の名前でした。

 いまなら調べることは簡単ですが、この疑問を抱いた当時には調べるすべがなかったのでどうしようもなかったのです。それがつい先日、ツイッターで『フローネ』の動画が流れてきまして。この機会に少し調べてみることにしたのです。
 歌声の主は潘恵子さんとおっしゃる方。1953年生まれ(クロマティ
と同年生まれ!)とのことなので、計算してみると『フローネ』の放送に合わせてレコーディングされたのは27歳くらいのときと予想されます。
 27歳でこの声なのかぁ。子どもっぽい声をずっと維持してるタイプだろうか?

 しまざき由理さんという歌手がいる。あの方は『Gメン'75』のエンディング曲『面影』を大ヒットさせているが、あの大人っぽい雰囲気で歌っていた時点で19歳だったと聞く。
 しかしです。しまざきさんが『ハクション大魔王の歌』を歌ったのは13歳だったようだが、私はずっと「どこかのオバちゃんが歌っているのだろう」と思っていた。
 しまざきさんは年々、声が若くなっていくタイプだったのだろうか? だとすると今年の12月で63歳になる(少し前まで年齢は非公開だった)しまざきさんは、いまごろ赤ちゃんの声になってるのかもしれない。

 話を潘さんに戻します。
 プロフィールを見ました。すると重大な事実が判明したのです! この方は『フローネ』においては歌を歌っただけでしたが、本業は声優さんだったらしいのです! それも、もともとは内海賢二さんの劇団で舞台に立っていた役者さん。
 近年では最初から声優を目指す人は少なくないようですが、かの山田康雄さんに言わせれば「“声優”という商売はない。声優というのは、役者がやっているいろんなジャンルの一部分なんです」というスタンスを徹底的に守っていて、声優志望の人がやってきても「声優になりたいと思うのならやめなさい。でも役者になりたいのなら、やってみれば?」と答えていたのだとか。そういえば私の知り合いにもベテランの声優さんがいますが、もともとは役者さんです。本人いわく「なぜか声の仕事が多くなって・・・」と言ってて、決して自分から積極的に声優を志したわけじゃなさそうだったもんなぁ。
 潘さんは、この手順をちゃんと通過している方だったのですね。
 クイズ番組やテレビドラマなどに出演していたこともあるそうで、アイドル声優としても高い支持を獲得していたらしい。1980年代には女性声優の人気投票で、たびたび1位だったとか。
 超有名人じゃん! みんな知ってたの? ぜんぜん知らなかったよ。モグリもいいところだよ。
 私は声優の人気投票は半世紀以上、男性部門も女性部門も野沢雅子さんがトップを独占しているものと思っていた。

 では潘さんが声優としてどんな役をやってこられたのかを見てみましょう。
 んー・・・、んー・・・・・・。
 作品としてなら知ってるものもあります。かなり多数の作品に出ておられます。だから出演回も見たことはあるんだと思います。しかし、役名を見てもピンとくるものがあんまりない。
 そんななか、唯一わかったのがどちて坊やでした。
 どちて坊やなら当ブログの「しりとりライブラリー <拾参>」でも扱ったことがありますが、一休さんのとんちがことごとく通用しない最強人物として強烈なインパクトを放っていたキャラクター。あれが潘さんだったのですね。
 

 ただ、どちて坊や以外は潘さんの声優としてのサンプルが私のなかにはあまりない。どちて坊やにしろ「まぁ大人が子どもの声を演るんなら、だいたいこんなカンジなんだろうな」程度の認識しかなく・・・他の役を見てみたら違った印象を受ける可能性もありますが。つまり、よくわからんのですな。
 ところがです。他にも潘さんの歌を何曲か聴いてみました。そして思いました。この人は歌手としては相当イケてるぞ! これは上手い人の歌い方だ! ・・・と。単に声の質だけではなく、テクニックも持っている。歌手が本業ではないところがおそろしいというかモッタイナイ。

 なので動画を載っけておきます。

音譜『ペチカの灯り』<作詞:井上かつお/作曲:井上かつお>
※アニメスペシャル『小さなラブレター まり子とねむの木の子供達たち』主題歌、およびテレビ朝日系「心の輪をひろげよう」チャリティ・キャンペーンソング『さよならイエスタデイ』のB面曲

 なお潘さんは潘杏蘭(はん・きょうらん)というペンネームで西洋占星術師としての活動もされているもよう。なんか、ずいぶんと働き者な方だなぁ(笑)。
 そっち系のことはさっぱりわかりませんが、ドロロンえん魔くんみたいな恰好してる人のことですかね?


 ところで『ふしぎな島のフローネ』というアニメの原作は1812年出版という、世界名作劇場シリーズで扱われたもののなかでも最も古い作品であったそうだ。時代設定も1800年前後だったらしい。
 原作となったのは『スイスのロビンソン』という児童文学作品・・・と、ここでまた見過ごせない事実が判明しました。この『スイスのロビンソン』では、メインとなる登場人物は父親と母親の他では4人兄弟であったというのです。
 4人の男の子たち。すなわち、アニメ『フローネ』においては1人足りないどころか主人公であるフローネ・ロビンソンはもともと存在しなかった、完全に後づけのキャラクターだったのであります!
 嫌な設定です。アニメ作品のクオリティはともかく、作者の思わくを捻じ曲げて作品化したということでしょうか。しかも原作者=ヨハン・ダビット・ウィースさんが亡くなったのは1818年。アニメが放送される163年も前です。死人に口なしではありませんが、これは本人の意向を思い切り無視して作ってしまってるではありませんか。 ヾ(*`Д´*)ノ"彡
 せめて、最終回は「フローネは女の子が欲しくてたまらなかった母親が描いた幻の娘で、目覚めたら娘がいたことも無人島生活もすべて夢のなかでの出来事でした」ってオチになってればね。
 現実にいる自分の子どもは男の子4人。絶望した母親は下から2番目までの息子に殺意を抱いたところでエンディング――それくらいのことはやってほしいもんです。
 

 そろそろお開きの時間となりました。最後は、おなじく世界名作劇場のアニソンをご紹介。でもヒネクレ者の筆者がセレクトするわけですから、ここは当然、変化球をお楽しみいただきたいと思ったのです・・・が。
 新田恵利が歌っていたものなんですけど、視聴者から「あまりにも下手クソすぎる!」との苦情が殺到し、1年間のシリーズなのにわずか15話で別の曲と差し替えられてしまったという『愛の若草物語』主題歌の動画を貼って有終の美を飾りたいと思ったのですが、実際に聴いてみたら本当に不快にさせるだけの歌声だったのでボツにします。 (゚Д゚=)ノ⌒゚ ポイッ