――スターへの道は細くて長い。

今週もスーパースターの座を目指して熾烈な戦いが繰り広げられる。

お笑いスター誕生!!――

 

 

 日本テレビ系列局で放送されていた歌手オーディション番組『スター誕生!』の兄弟番組で、お笑い版のオーディション番組として人気を博していた『お笑いスター誕生!!』。同番組では山田康雄中尾ミエが司会を務めたことでも知られている。
 私がよく見たのは「厳しい予選を勝ち抜いた挑戦者が、厳正な審査により10週勝ち抜きグランプリを目指す」という形式で進められていた時期のもの。グランプリ獲得者にはB&B、おぼん・こぼん、とんねるず、シティボーイズ、大木こだま・ひかり・・・などがいたようだが、個人的に馴染みがあるのはでんでんミスター梅介イッセー尾形あたり。当ブログでときどき登場することもある赤星昇一郎さんが怪物ランドとしてグランプリを獲得されていたのを知ったのはわりと最近のことですから、私はこの番組のことをそれほど詳しいわけではありません。たぶん、見てない回のほうが多いと思いますんで。

 

 そんななか、断トツで好きな漫才コンビがいた。それが象さんのポットだった。
 彼らの芸風は脱力的な雰囲気や、わざと咬み合わないことで生み出すシュールな笑い。たぶん現代なら似た感じの芸人もいるんだとは思うが、当時としてはそれまでの漫才には見られない斬新なスタイル。ボケて突っ込んでドッカーンと爆笑・・・といったものではなく、「ボケても突っ込まない」「ボケたら相方は、さらにボケ(厳密にはボケなのか、それとも違う何かなのかよくわからない微妙なリアクション)で返す」というパターンが多くて。これに対し客も、少し遅れて笑い出す(それも、どよめきのような笑い)という、変~な空気になるところが面白かった。業界的にもかなり注目を集めていたらしい。

 

 ところが、である。彼らの芸風は大御所審査員へのウケがあまり芳しくなかったのか、なんべんやってもせいぜい7週止まりで敗退してしまうのである。カタチを崩したスタイルが受け容れられなかったのだろうか。
 メンバーのとしゆき氏(向かって左側が立ち位置)いわく「小さいころからコントとか、あんまりそういうのは見てなかった。ドリフよりはキカイダーとかデビルマン。『○○派』というのはなくて・・・まして欽ちゃん派は絶対なくて。お笑いの影響はあんまりなかった」とのこと。あえて挙げればSFとか漫画くらいで、とくに目標とするスター芸人はいなかったそうだ。ゆえに、あの独創的なスタイルが誕生したのかもしれない。

 

 

 

 ところで。

 知り合いに若手芸人が何人かいる。そのうちのひとり=Aさんから聞いた話。
 彼にはもともと芸人の知人=B氏がいて、なぜか「事務所の社長に会わせてやる」とAさんを誘い、ついていったところ、その社長さんと密室で二人きりにされたと。
「絶対にやめるなよ」
 なんのことだかわからなかったAさんだったが、つい「はい」と返事してしまい、B氏とコンビを組むことになったんだとか。
 ところがある日のこと。いつものようにライブの最中、Aさんが台詞につまってしまった瞬間があった。5秒くらいだったとか。その場はナニゴトもなくやり過ごしたものの、あとで社長さんから痛烈なダメ出しをされることになった。台詞が出なくなったAさんにではなく、それを拾うでもなく上手く活かせなかったB氏に対してだ。
 この件で自信を失ったB氏は芸人の世界から足を洗うことに。逆に、もともと芸人を目指してるわけでもなく、はじめは嫌々やってたAさんは相方を変えつつ現在も続けている。次第に成功したときの快感に目覚めていったらしい。
 ふつう芸人を目指す人は、それなりに自信があってこの道に進むのが大半だと思う。みんなからは散々「面白い人だ」とチヤホヤされてきた自負があってのことで。でもAさんは、そういうプライド高き芸人の卵たちが、次々にハナをへし折られる場面を見てきたのだと言う。ところが彼の場合、笑いに関しては積み上げていく「足し算」しかないため、傷つくようなプライドがない。それが、いい方向へ作用してるのかもしれない。
 もっとも、そんなAさんでも本業だけで生活できるほど稼いでいるわけではない。むしろそっちの仕事が忙しくなれば、ギャラが安すぎて生活が苦しくなる事態に陥ってしまうわけで(苦笑)。

 

 

 話を象さんのポットに戻します。
 これも『お笑いスタ誕』での出来事。ネタの最中で突然、ひとし氏(向かって右側)がフリーズしてしまったことがあった。10秒・・・20秒・・・と、いつまで経ってもしゃべろうとしないのである。しかしその間、ギャラリーは面白がっている。
 この事態に相方のとしゆき氏は、なんと、ひとし氏に顔を近づけ「ゴニョゴニョゴニョ・・・」と耳打ちしたんである!
 この身もフタもない所作に、客も審査員も大ウケしていたものだ。AさんとB氏の件と同じような場面であると想像するが、このときのとしゆき氏は表情ひとつ変えぬ毅然とした態度であり、その顔には「まぁダメならダメで、しょうがないや」と書いてあるようでもあった。
 ネタ終了後、大御所審査員に「あれは本当に台詞を忘れたの?」と訊かれたひとし氏は「忘れたわけじゃないんだけど、きっかけが掴めなかった」と供述。また、としゆき氏は「そんなことは絶対にないとは思いましたが、でも、もしかして・・・と思って(耳打ちした)」と答えていた。このやりとりにも場内からは笑い声が上がり、そこには「彼ららしい」という空気に包まれていた。
 要は緊急事態を逆手にとってホームランにしてしまった事例なのであるが、B氏の場合はこういうアドリブ力が欠けていたことを突かれたということなのだろう。

 

 なお、ふだんのAさんは真面目で低姿勢な好青年。どちらかというとイケメン俳優風です。動画で拝見したかぎり、コンビの芸風は昔ながらのオーソドックスなスタイル。ツッコミ担当です。
 まぁなんにせよ、人を楽しませることに多大なエネルギーを費やせる人というのは偉いと思いますよ。応援したいですね。

 

 

――スターへの道のりは自分との長い戦いである。

その戦いに勝ってこそ栄光をつかむことができるのだ。

未来を目指す者はいつもくじけることを知らない。

目指せ、スーパースター。

偉大なるスーパースターとしてスポットを浴びるその日まで、飽くなき戦いがあるのみだ――