松山千春の曲といえば、1に『旅立ち』、2に『銀の雨』・・・というのが個人的な好みでした。それはずーっと変わらず現在に至ります。不思議と飽きないんですよね。
 もちろん最近の彼の曲もいいのですが、これら初期の曲がどうしても沁みて沁みて仕方がない。おそらく楽曲のよさもさることながら、'70年代のサウンドというのが大きく作用してるのではないかと私は思っている。
 しかし、彼に限らず「初期の曲」には新曲は出せない。では'70年代のサウンドは技術的には出せるのだろうか? それを再現しようとするものはいくつか聴いたことはあるけど、やっぱりどこか違うように感じる。なので「新たなる当時の曲」を求めることは諦めるしかない。せいぜい、いっぺんにぜんぶ聴くのではなく、ちょっとずつちょっとずつ小出しにして聴くようにすることくらいか。

 

 ところがこのたび、偶然にもYouTubeで未知の初期曲に遭遇することができた。

青春の坂道』。

 これはまだ松山千春がビッグになる前に歌われたものであるが、レコード化されてない曲なんだそうだ。


 聴いてみて、まぁ沁みること沁みること! そうそうコレですよ、こういうのが聴きたかったんですよ! ・・・と、いささか興奮してしまいました。なんというか・・・その当時の空気に包まれてしまうような錯覚とでもいいましょうか、その当時の情景が目に浮かぶとでもいいましょうか・・・。
 あのね、わかる人だけでいいです。わかんない人はわかんないですから、この感覚は。

 

 

 調べてみたところ同曲は、北海道ローカルのラジオバラエティー番組『サンデージャンボスペシャル』のなかに設けられ、'76年4月から'77年10月まで放送されていた「千春のひとりうた」という15分程度のコーナー内で演奏されたもののひとつであることがわかった。
 これは松山千春の芸能界における事実上のデビュー番組とのことで、'75年の全国フォーク音楽祭北海道大会に出場し落選した松山千春のために、このコンテストを担当していたSTVラジオのディレクターが設けたコーナーだったんだとかで。
 このコーナーにおいて松山千春はディレクターから毎週2曲の新曲を作ってくるように課題を与えられていたが、それはオリジナル曲のストックを増やすことが主な目的であるとともに、彼が人前で歌うための訓練の場でもあったそうだ。
 演奏された曲には、その後レコード化されたものもあるが、この番組内でのみ発表され、非レコード化曲で終わっている曲も多いという。そのひとつが『青春の坂道』であった。'77年9月18日に公開されたものとのこと。

 

 たぶんこれ、いまアレンジして現代風のサウンドにしてCD化しても伝わらないんだろうね。

 やっぱり、せつないわ。

 

 

 

 松山千春の歌唱については、いまさらここで語ってもしょうがない。あえて言えば、フォークシンガーであることにこだわりを持つ彼ではあるが、演歌を歌わせても魅了できるのが個人的には驚きであろうか。
 しかも見方によっては本家を凌いでいるようにも聞こえるのもあったりで、歌われた本家としては少々ツラい部分もあるかもしれない。
 ということで、こちらの動画を再生していただきたい。

 

 

 この動画では端折られているが、北島三郎の前で『風雪ながれ旅』を歌う松山千春は「気分がいいので2番もいきます!」とやり始めた。
 表面的にはニコニコしていたサブちゃんであるが、内心は冷や汗モノだったのではないだろうか(笑)?

 


 ところで、筆者の知人にくまのふうぞうという人がいるんだが、この人はプロなのかアマなのかは知らないが音楽もやってるらしい。
 あるとき、この通称フウ氏と雑談していて「歌手のトークは総じてつまらない」とこぼしてたことがあった。
 そこで私が「じゃあ、トークが面白い歌手で思いつくのは?」と訊いてみたところ、松山千春の名前で一致したものだ。ちょっと彼のキャラは突出しているからね。
 むかしはフォーク・ロック系のアーティストはテレビに出ない風潮があり、松山千春にしてもテレビ出演のオファーを断わりつづけた時期があった。
 この「テレビに出ない」というのは吉田拓郎のしょうもない感情が作ったものだったと聞いてますが(笑)、結果的にアーティストの幻想を保つのには効果的だったと思います。
 それが後年、その拓郎をはじめ多くのアーティストが堰を切ったかのように露出を増やしはじめました。それで幻想が崩れ、つまらなくなったと言われる例も少なくはなかったようです。
 そこらへん松山千春の場合、歌とキャラのあまりのギャップに、レコードでしか知らなかった層には幻想崩壊を招いてしまった向きも当然あったのだろうと思われます。キャラに拒絶反応を示す向きもいたはずです。
 しかし、あのキャラが歌以上に好きだという層がいるのも事実のようで、彼の場合は露出することによって新たなるファンを獲得した好例であるとはいえると思います。
 いつだったか、さだまさしと衛星生中継で会話していた松山千春が「おまえのほうがキてるなぁ」といった、フォーク界御三毛ネタを臭わせるアンタッチャブルな
発言をしてしまったことがありましたが、このときはアンチですら爆笑の渦に突き落としてしまったものです。あれでこの男のタダモノじゃなさっぷりが決定的なものになったと痛感させられました。
 それを思うと、彼がテレビに出なかった期間というのがもったいなかったと思うこともあります。

 

 

 最後に。
 私はとても好きなんだけど、なぜかそんなに売れなかった『燃える日々』を置くことで今回の記事を終わらせていただきます。

 

 

 

 

 

 

 

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