映画『クレヨンしんちゃん 嵐を呼ぶ モーレツ! オトナ帝国の逆襲』。
いまさら語るまでもない大傑作映画であり、強烈なメッセージ性と粋な演出が秀逸。あまりの完成度の高さに「子どもの観客を無視したのか」と、心配する声も少なくなかった。宮崎アニメ嫌いや『クレヨンしんちゃん』に偏見を持つ者ですら号泣させる説得力を持つ。
日本一の日本映画ファンであるとともに辛口コメントで知られる快楽亭ブラック氏に、アニメでありながら「21世紀に入ってからの日本映画で断トツのベストワン!」といわしめた。
これほど有名な作品を当ブログで扱うのもどうかとも思うのですが、しかしながらこの映画にまつわるちょっとしたエピソードを思い出したのであえて記事にしてみようと思った次第。
その前に、2008年11月に某掲示板へ日記風に書き込んだものを掲載いたします。その掲示板はもうなくなってしまってるんですが、消滅直前にコピーしといたものがあるので、それをほぼ丸写しすることになるんですが。
きのう、上野山功一さんが福島から上京してこられました。お誘いを受けて、浅草木馬亭まで行ってきたんです。唐沢俊一さん&快楽亭ブラックさんとのトークショーがあるとのことなので。上野山さんは、唐沢&ブラック両名とは長い付き合いなのだとか。
ブラックさんは立川談志の門下であるとともに日本一の日本映画ファンで有名な方。この方が雑誌「TVタロウ」で執筆されていたコラムがとてもおもしろくて、個人的に映画を観る目を肥えさせていただきました。いっぽうの唐沢さんは頻繁にテレビに出ているのでご存知と思いますが、初めてこの方の話を聞いたときは感激し、「ああ、このひとは、こっちのひとなんだな」と勝手に自分らの仲間にしてしまったものです。
今回はブラックさんに興味があるという知人=Oさんを連れて、一緒に浅草へ。プライベートで浅草に行くのは初めて。日ごろからお祭りのような町の風景は、やはり非常に新鮮だ。
木馬亭に着き、受付の、見た目も味わいのあるおじいさんとおばあさんに上野山さんからの紹介でやってきたことを説明していると、奥からブラックさんが。笑顔で軽くご挨拶。上野山さんはまだお越しでないとのことなので、表でしばらく待つことにしました。開場まで、まだ余裕もありましたし。
そこで、会場入りが早すぎたのか、さっきからそこらへんをプラプラしていた唐沢さんにご挨拶。テレビのときと同じように、たいへん気さくな方でした。
やがて上野山さんが到着。開場時間前ですが、一緒に木馬亭のなかへ。落語自体は中学校の文化祭で見たことはあるけれど、それ専門の場所へ行くのは初めてなうえ、いかにも歴史のありそうな木馬館の造りは、どっちを見てもおもしろいものに映りました。
ありがたいことに、楽屋のなかまで失礼させていただくことに。ほうほう、これが話に聞く芸人さんの楽屋というやつか。なんだかおそれ多いものを見せてもらったような気分。ここで上野山さんと唐沢さんは、落語のは別の、これからやろうとしている企画の話をされている。まさに、ザ・業界です。
緒形拳さんをはじめとする相次ぐベテラン俳優さんたちの逝去を惜しむ話題、逆に長門勇さんは役者としても健在であるとの話題、唐沢さんがB級映画特集を企画しているという話題に食いついていく私ら・・・そんな情景でした。なお、唐沢さんのラジオ番組でゲスト出演し、歳不相応の昭和ツウぶりを遺憾なく発揮して意気投合していた半田健人さんのことを振ると、ちょっとニコッとした唐沢さんの表情が印象的でした。
いっぽうでブラックさんはまったく絡んでこようとはせず。じつはとてもシャイな方なのだとお見受け(後日、上野山さんからも「少し前にブラックさんは重い病気にかかっていた。助かったけど、あれからいっそうシャイになった」というようなエピソードを聞く)。
危険な芸風のわりにおとなしいブラックさんと、テレビのまんまな唐沢さん。このあたりのコントラストもおもしろい。
さて、いざ開演。 トークショーだと聞いていたのですが、ふつうに寄席が始まりました(笑)。上野山さんも出演するのかと思っていたのですけど私のとなりの席に。はい、すなわち、Oさんを含む私ら3人、並んで落語を見たわけです(笑)。
もっとも、それが不満だったわけではありません。落語は落語で好きですから。なんと唐沢さんまでふつうに落語をやってしまいました(驚)。
休憩のときに上野山さんが、私に見せるために持ってきてくれたという1982年当時の全日本プロレスのパンフレットを見せてくれたんです。すごいです、若手を除く全出場選手の直筆サインが書かれていました! これは上野山さんが中野でやってた飲食店にジャイアント馬場さん率いる全日本プロレスの選手たちがよく遊びにきていたことで実現した奇跡なんだそうで。
当時の選手は超豪華なスターばかり。しかも当日のスタンプによると、メインがドリー・ファンク・ジュニア&テリー・ファンクvsスタン・ハンセン&ブルーザー・ブロディ! あまりのお宝ぶりに、ひっくり返りそうになりました(※このパンフレットについては上野山さんのブログでも画像つきで紹介されています)。
また、タイガー・ジェット・シンが上野山さんのお店に来店したときの貴重なエピソードも話してくださいました。おお、ありがたや、ありがたや~。
落語は全5組でしたが、ブラックさんが2番目で唐沢さんは3番目。なんでこの順番なのかなーと思っていたら、トリを務めた方曰く「早く会場に着いた順」とのこと。まるでネタのように話していたけど、あとのほうに出た方は私らが楽屋にいたときには見なかった顔なのでホントのようだ。
それにしても噂には聞いていましたが、ブラックさんの芸のアブナイことアブナイこと・・・いや、ブラックさんだけでなく、この日のぜんぶが危険に満ち満ちたネタで溢れていました(笑)。リアルに命がけの芸です。内容は、とてもここでは書けません。あえて書けることといえば・・・・・・泰葉はすごい、ということくらいか(苦)。
予告編
なんでこんな日記(?)を引っぱり出してきたのかというと理由がありまして。
ブラックさんと唐沢さんの共通点で思いつくのは、お二方とも映画『オトナ帝国』の熱烈なファンであるからなのです。ブラックさんはTVタロウで作品を絶賛し、唐沢さんはテレビ番組『BSアニメ夜話』にて絶賛しておられたのを私が知ってたからなのです。
もともとこの両者の関係が『オトナ帝国』をきっかけとしたものなのかどうかは存じかねるところ。しかし『オトナ帝国』を題材としたコラムと番組の両方を見ていた私にとっては、ブラックさん&唐沢さん両氏と繋がった気分になれる重要なツールだと勝手に思ったのでありました。
さて、その唐沢さんが出演され、2005年3月に放送された『BSアニメ夜話』の映像が動画サイトにありましたので丸ごと載っけておこうと思います。
これは私の感覚ですが、映画本編よりもおもしろいくらいです。
ですが1時間近くある動画です。そんなに時間ないよというお忙しい方のために、重要なポイントだけちょこっと書いておきますので参照を。でも興味がわきましたら是非とも再生してみてください。
ということで、ここは“イエスタデイ・ワンスモア”について述べさせていただこう。これは同映画に登場する「ケンちゃんチャコちゃん」をリーダーとする秘密結社の名称なんであります。
古き良き昭和を再現した20世紀博のタワーから発せられる「懐かしいにおい」でオトナたちを虜にして子どもにもどし、未来を放棄さすという恐るべき「オトナ帝国」化計画を企てるのだ。
彼らの築こうとしたオトナ帝国は「自分がいいと思うものは、みんなもいいと思うに違いない」という危険な思想から来ており、よかれと思ってやった計画だった。
作品を観る側には彼らに共感する者は多い。とりわけ唐沢氏のイエスタデイ・ワンスモアへの思い入れは半端ではなく、「あれは、オレだ!」「この映画は誰にも語らせたくない!」などと取り乱したかのようなコメントをしている。
21世紀という現実と、そして未来に絶望するケンちゃんとチャコちゃん。希望に満ちていた昭和。あのころはよかった・・・オトナたちは家事や仕事を忘れ、子どもたちを無視し、ひたすら童心に返ってゆく。だけどそれは、いまの子どもたちには通用しないものなのだ。
自分たちからどんどん離れてゆく父=ヒロシと母=ミサエをとりもどそうと、しんのすけは「昔のにおいじゃなくて、いまのにおいだゾ!」と、あるショック療法でヒロシを正気づかせる。少年時代に見た父の背中→就職→結婚→子どもの誕生・・・いまにして思えば、自身の人生はけっこう捨てたものではないと気づき号泣するヒロシ。
「オレのしあわせを馬鹿にするな!」
過去に浸るのではなく、いまを、そして未来をつかむことを選んだのだ。それまでとは一転、怒りに火がついたヒロシ。そして家族を引き連れ、この町=20世紀博からの脱出を決意する・・・が!
きれいな夕焼け、カレーライスのにおい・・・涙が止まらない。
「ちっきしょー、なんだってここはこんなに懐かしいんだ!」
「おい、出口はどこだ! 早く出ねーと懐かしくてアタマおかしくなりそうなんだよ!」
葛藤。心の底で、どうしてもノスタルジーを捨てきれない。
では、おかしくなったらヒロシはどうなるのか?
心地よくて、せつなくて、愛おしい「懐かしいにおい」に負けてしまったら・・・そのとき、ヒロシは家族を捨てるのです。
それは困る。しんのすけにとって、ヒロシとミサエは“大好きな”とうちゃんとかあちゃん以外の何者でもない。置き去りにされては、たまったものではないのだ。
だが、生まれてこのかた5年という歴史しか持たないしんのすけには「懐かしい」の意味すら理解できない。歴史のない者が歴史を持つ者に打ち克つことは、至難の業である。
この危機を何とか免れるため、気つけとして靴下の臭いを必死で嗅ぎつづけるヒロシ・・・。
イエスタデイ・ワンスモアの「オトナ帝国」化計画が最終段階を迎えようとしていた。と、そこへ立ちはだかったのが我らが野原しんのすけであった。
しんのすけは、ケンちゃんとチャコちゃんに宣言をする。「オラ、オトナになりたい!」と。
もはや、まばたきすることすら惜しくなるクライマックス。その迫力の前に、劇場内の観客は圧倒っされっぱなしであろう。ところが、この「オトナになりたい」動機が少々不純(?)だったことで「あ、そういえばこれ『クレしん』だったんだっけ」ということを思い出し、マジになっていることに苦笑するのである――。 (^o^;)
映画をご存知の方にも、そうでない方にもオススメできます。
イエスタデイ・ワンスモアは一応ヒールのポジションではあるが、観る者の共感を呼び、強烈な問題提起を突きつけたという点で、長くその名を歴史に残すことだろう。
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