今回のそんなに陽のあたらない名曲では、わりと近年になって知ったお気に入りの曲を薄~く紹介したいと思います。
 想い入れは一つひとつにあり、それぞれを記事にしたいとは前々から考えていたのです。しかし、ただふつうにレビューするだけではよそのブログと同じになってしまいます。ですが当ブログでやるとなりますと単品では記事として弱くなるかなーと困っていたものを、特集記事にしちゃえば楽しくなるのではないか――? そんな狙いのもと企画したのが、このたびの記事なんであります。
 そして今回はテーマを「せつない」に絞ってみました。

 


石川ひとみ『さよならの理由』<作詞:竜真知子/作曲:林哲司>


 1983年8月に発売されたオリジナルアルバム『プライベート』1曲目の収録曲。
 あのね、この曲にはシビれました! それもイントロの時点で。
 石川ひとみといえば『まちぶせ』だという方が多いかと思います。実際『まちぶせ』は元祖である三木聖子のほか、作曲者である荒井由実をはじめ多くの歌手がカバーしていますが、私の知るかぎりでは石川版のものが群を抜いてせつない。そりゃーヒットするのも順当な名曲であろうと思う。
 が、この『さよならの理由』はそれをも凌ぐインパクトとなって私のなかに入ってきた。

 序盤でフランソワーズ・アルディの『さよならを教えて』を意識して作られたのかと思わせる箇所がありますが、伝わってくる雰囲気はちょっと違うかな?

 この感覚はいま聴くからそう思うもので、もしかしたらリリースされた当時に聴いたのなら違う感じ方をしたのかもしれません。いかにも「昭和歌謡が光ってた時代の末期」を思わすサウンドが、どうしようもなくせつない。
 あとで林哲司作品であることを知り、そうなるのも納得した次第なんである。

 また、石川ひとみがこれを歌ってからもう30年以上経ってしまっていることを考えてもせつない。
 そういえば彼女は『まちぶせ』でブレイクした時点で二十歳を超えており、アイドルとしては中途半端な位置づけだったのかもしれない。しかし、歌はしっかりしている。アイドルではなく、もっとふつうに「歌手」として正当な評価をしてあげてもよかったのではないかと思う。その意味でも、せつない。

 

 


伝書鳩『目覚めた時には晴れていた』<作詞:阿久悠/作曲:坂田晃一>


 この曲については「なう」やツイッターで流したものの拡大版でお送りする。

 同曲は先日の記事でも扱ったとおり、朝倉理恵が歌ったものが存在する。だがもともとは1971年放送の土曜グランド劇場『2丁目3番地』の主題歌として赤い鳥が歌いオンエアされたものであった。
 その後は1974年3月にビリーバンバンがシングルとして、また同年6月に朝倉理恵が出すLP収録曲のひとつとしてリリースされることになる。
 そして1976年。この曲を主題歌として再び使おうと考えた『2丁目3番地」の演出家が伝書鳩を起用し、土曜グランド劇場『二丁目の未亡人は、やせダンプといわれる凄い子連れママ』の主題歌として制作されたのである。
 朝倉版とはアレンジが違うが甲乙つけ難く、何れも誠実でクセのない歌声ということで、坂田晃一作品の持つ神々しさを淀みなく表現していると思うのです。こういう歌い方をする歌手と坂田作品は相性がよさそうですね。でも、あんまり知ってる人がいないのがせつないわ。

 なお、赤い鳥版は未だに音源がレコード及びCD化されていないとのこと。

 



 

二葉あき子『水色のワルツ』<作詞:藤浦洸作詞/作曲:高木東六>

 

 これは1950年の大ヒット曲なので当コーナーで扱うのはどうかと躊躇していたのですが、筆者の周りで話題になったことがないので、ひょっとしてご存知ない向きもいるのかと思い、あえて採り上げてみる。ついでに言うと今年は二葉あき子生誕100年にあたるので、いい機会だとも思うので。
 この曲の場合、その重々しい旋律には「せつない」を通り越して、ただならぬ悲哀さがズシンと伝わってくる。それもそのはずで、同曲はレコードのリリースこそ戦後ではありますが、高木東六がこの曲を作ったのはさらに遡って戦時中とのことなのですから。
 しかも歌っている二葉あき子は1945年8月6日、広島から芸備線の汽車に乗っている最中に原子爆弾を投下された被爆者でもある(たまたまトンネルをくぐっているときだったため一命を取り留めた)。
 ちょうど被爆70年の時期とも重なるタイミングでもあるので、しみじみと聴き直してみるのもいいかもしれない。


 


川田あつ子『秘密のオルゴール』<作詞:松本隆/作曲:財津和夫>

 

 川田あつ子はまあまあ売れたアイドルなのでご存知な人も多いと思う。ただ個人的に、この方の歌が伝説になるほどの破壊力を誇っていたという事実を知ったのは近年のことであり、あらためて目の当たりにしたときはけっこうな衝撃だったので記事に値すると判断した次第。

 基本的に私は、歌手がアイドルもやるのはいいのだが、アイドルが歌手をやるのはどちらかといえば嫌いなほうなんです。その点、川田あつ子は後者に属するので本来なら却下しなければならない。
 しかし、例外もある。
 歌唱力が素人並みであれば当然ながら✘。ところが素人どころではなくアレだったり、想定外の歌声・歌い方を見せつけられた場合(過去記事=大場久美子の回を参照のこと)はこの限りではないのだ。川田あつ子の場合、その何れにも該当するので文句ナシに合格なんである。
 私なりに分析してみた。彼女の歌い方は非常に健気である(ように見える)。フレーズの一つひとつを噛みしめるように歌おうとする姿勢は悪くない(単に首を上下に動かしてるだけかもしれませんが)。だが悲しいかな、どうやら音程のコントロールが致命的なまでに利かないタイプらしい。 そして、フニャフニャである。
『秘密のオルゴール』は、楽曲そのものはいい。そこへ彼女のノーコン歌唱法(?)が加わることにより、おそらく作り手すら計算しえなかったであろう副産物=不思議な「せつなさ」が生まれていることに私は気づいてしまった。なぜだか泣けてくるんである。 o(;△;)o
 それはノーコン歌唱法の魔法によるせつなさなのか、それとも「この8月で50代に突入する川田あつ子は現在でもこの歌い方なのだろうか?」という妄想からくるせつなさなのか・・・?

 近年、音痴な歌手はあまり見かけなくなった。でもそれはデジタル技術などで音程を補正してるかららしい。ゆえに、面白くない。あれでは伝わってこないんだと思う。何度も言うが、上手けりゃいいものでもないし価値のある下手もあるんです。
 川田あつ子の歌声には、それ(デジタル技術に頼ること)が当たり前になってしまっている現代の窮屈さから一瞬、開放させてくれる優しさがある。

 

 


ほんこん(?)『駆けろ!スパイダーマン』<作詞:八手三郎/作曲:渡辺宙明>


 パチソンにハマりかけてます(泣)。あの無理やり感が、たまらなくせつなくて。
 アニメ・特ソンの場合、これを買ってこられた子どもの気持ちは志村けんじゃない人が歌ってる『東村山音頭』のレコードを買ってこられるのと同じくらいショックなことだろうと思うと、せつなくてせつなくて。

 で、あの『スパイダーマン』の主題歌なんですが。
 もうね、説明はいらんでしょ。聴けばわかるって。

 でも最高にせつないところだけは書いておこうかな。
 これってサビに入るとき「チェンジ・レオパルドン!」って言うじゃん。あそこ大事だよね、この歌イチバンの聞かせどころだもんね。もちろんこれだって言うんですよ、パチソンとはいえ歌詞は同じなんで。

 でも3番だけ「チェンジ・オルパルドン!」になってしまっているのです。 (/TДT)/

 オルパルドンって、なに?


 


 以上5曲。読者の皆さん、お気に入りはありましたか?