今回は大好きなテレビドラマの記事です。
 

 

図々しい奴柴田錬三郎の原作で、1963年(昭和38年)の番組。極貧のなかで育った主人公が、持ち前の図々しさとバイタリティーで商人としてのし上がっていく根性モノ。
 まだ白黒時代の番組ということもあり、おそらく再放送には恵まれてないと思います。そのため最高視聴率45.1%を記録した大ヒット番組ではあるのですが、まだ観たことがないという方も多いと思われ、ですが是非とも頭に入れておいてほしい作品ということで今回の記事に至りました。

 



 谷啓の「頭はわるいし 金もない~♪」という主題歌は以前から知っていた。青島幸男の作詞による元気ソングで、いかにもクレージーキャッツの世界(映画でいうところの無責任シリーズや日本一シリーズ)を思わすサウンドから、てっきりドラマのほうもドタバタ喜劇かと思いきや、実際は喜劇的な要素だけでなく重い展開もある、一筋縄ではいかない凄みのある内容でした。

 

 主人公は大正8年、岡山市郊外の馬小屋で生まれた。父は備前焼の職人、母はその。出生の条件がキリストとまったく同じだったため、戸田切人(きりひと)と命名される。

 もうね、この設定だけで私のハートは完全に持っていかれてしまいます。たぶん現代においてはアウトです。
 さらに登場人物のなかに「キ●ガイのさあちゃん」と呼ばれ、ボロ小屋でひとりで暮らす障害持ちの娼婦がいたりなんかする。それも本当にキ●ガイとして描いているところがスゴい。
 しかもボロ小屋は火事になり、さあちゃんはあっさりと焼け死んでしまう! が、切人は、さあちゃんが生んだばかりと思われる女の子(もちろん父親が誰なのかは不明)を助け出し麻理耶と名づけて将来の嫁にすると宣言。
 やがて彼と運命をともにするであろうお荷物(麻理耶)を持って旧藩主・伊勢田直政のもとに駆けこみ、その威光で中学へ入る。だが落第のうき目にあって上京、宮廷御用の菓子舗黒屋に奉公する。
 持ち前の図々しさで羊羹屋を独立開業するが失敗して軍隊に入り、やがて暗い世相に奔弄されつつ太平洋戦争に巻き込まれる。敗戦で蘇生した人生をでっかくふくらませて、図々しくも日本一の城作りを目論む――といった展開。

 

 私が見たところ、主人公は「頭がわるい」という設定であるが、とんでもないですよ。下層階級出身者でありながら人の心を動かす話術や行動力に長けるキレ者でして、演じる丸井太郎からも気品を感じさせる。
 さらに上品さを窺わせる人物としては
杉浦直樹演じる旧藩主・伊勢田直政がいるが、若様と呼ばれる彼は分別を弁えた好人物ではあるものの、その地位は時代の移り変わりとともに衰退してゆく。このへんは切人とは逆で物悲しくもある。だがそこには「いつまでも生まれた家柄だけで人の人生を決められてたまるか」という反差別的な風潮がいよいよ具現化し始めた様を描いているようでもあり、見る人が見ればこれを含めて痛快に映ったのかもしれない。

 

 

 なお中盤には原作者・柴田錬三郎本人も出演する場面もあった。また、それとは別に「柴田錬三郎」という登場人物も出てくるのだが、これは別の俳優が演じている。

 テレビ創生期の作品であると同時に初期のフィルムドラマ。ゆえに戦前戦後の空気がまだ残っており、当時の下級生活者の家屋などがリアルなのが目を引く。例えば住む家の狭さもさることながら、内壁が新聞紙らしきもので貼り固められてるところを見ても「そうだ、昔はこんな家があったんだよな」「たぶん番組が作られた当時は下層民とされる人たちの住居はいっぱい残ってたんだろうな」という気分になる。実際に大正から昭和初期を知っているスタッフによって作られていることもあり、いちいち映像が生々しいのだ。
 現代で描くことはぜったいに許されない内容も盛りだくさんで、あらためてこの時代の作品のありがたみを実感したドラマでした。

 

 

  主役の丸井太郎さんは大映の大部屋俳優だったそうですが同番組の主役に抜擢され大ブレイク。ところがその後は仕事に恵まれず(といわれている)、ブレイクからわずか数年後の1967年に自殺で他界されている。
 そういえば当ブログでおなじみの
上野山功一さんからいただいたDVDで『大魔神怒る』を観てましたら、上野山さんとともに丸井さんが共演されてるのを発見。そのことで上野山さんにメールしましたところ、丸井さんについて少しだけですがコメントをいただいたことがあります。
 当時の状況下において不運なことだったとは思いますが、じつに惜しい役者さんが早世されてしまったことを残念に思います。

 

 ちなみに同作品は1961年に松竹配給で映画化されたものがあり、そのときの主演は杉浦直樹さんでありました。
 また1964年には東映の製作・配給で『続・図々しい奴』という続編が公開され、ここでの杉浦直樹さんはテレビ版と同様に伊勢田直政役を演じ、主演はテレビドラマ版で主題歌を歌っていた谷啓さんが務めておられます。

 当ブログの
テレビ/映画をテーマとした記事では必ずしもオススメとする作品を書くとはかぎらないことで読者さんを困惑させてしまうこともあるのですが、これは面白いと思います。だって差別だのキ●ガイだの、そういうのがふつうに出てくるんですから。

 









 

 

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