昨年、ここのブログではお馴染みの伴大介さんも出演された舞台『オクトの樹』。私が観劇に行ったのは千秋楽の5月5日のことでした。
 その『オクト~』関連の記事をめぐり、いろんなサイトを見てまわっておりましたら、前日(5月4日)に私が観劇したひとつ前の席(最前列ど真ん中)で観ていたと思われる方が書いた記事を発見したのです。
 なんでも、その方は前々日(5月3日)も観劇されていて、しかもその両日とも同じ席だったんだとか。けっこう大きな会場だったのに2度も同じ席になったというのにも驚きましたけどね。
 べつに伴さんをご存知だったわけではないみたい。他にお知り合いの方が多数出演されてたらしい。
 これをきっかけに、ときどきツイッターでやりとりさせていただいておりました。たまたまですけど、この方も役者さんらしいのです。名前は大畑香菜さん。広島県出身の女優さんとのこと。

 

 

 その大畑さんが、このたび出演される舞台で初のヒロイン役に抜擢されたそうなんですわ。“お初”っていう役名で。だから観に行ってあげたいなーと思ってて。

 しかし私のスケジュール的なものもありますが、この6月の時期は金欠でして。入場料が高かったら観劇は厳しく・・・。
 どうやらこのお芝居、出演者が30名近い大人数らしい。一瞬、こりゃあ4000円以上するだろうなーなんて思いましたが、見ると2500円という低価格。4000円とかのものだったら厳しかったですが、それなら行ったほうがいいと判断した次第。
 こういうお芝居の料金って様々なんですけど、どういう基準で設定してるのか私はよく知りません。ただ今回は、会場がいつも稽古で使ってる自前の場所とのことなので安くできたのかもしれませんね。
 で、前日になってチケットの予約しようと思ったんですよ。あまりにも急に私が申し込んだものですから、当日の昼間まで慌てさせちゃったみたい。
 同作品はキャスティングを変えつつ2パターンの形式で公演されるようなのですが、この日(6月22日)は大畑さんが“お初”として活躍する回の最終日。それを思うと少々焦ってきたりもします。
 大畑さんから担当の中野さんという方に繋いでもらい、何度かメールでやりとりして席の予約は確保。夕方から出かけることに。会場は小竹向原の駅から徒歩で行ける場所だとか。

 最寄りの駅へ向かう最中のこと。駅前で人だかりができてて、マイクで 「1・2・3、ダー! (^O^)/」の声が聞こえる。どうやら「維新の会」からの選挙演説をやってたようだ。
「それをやるのは猪木さんだけにしてよ」と思ってたら、走り去る車の窓から手を振る、本物の猪木さんの笑顔が見えた・・・。

 電車に乗ってるうちに雨が降ってきました。傘は持ってきてません。私はいつもどこかで傘を忘れてしまうので傘は専ら100円ショップでしか買わないのですが、駅前にはコンビニしか見当たらず、仕方なく500円くらいの超高級品の傘を購入することに。
 その際、店員さんに、舞台会場となる
スターダス・21アトリエの住所を念のため確認してみました。そしたら、これから向かおうとしていた方向とは違っていたことが判明。訊いといてよかった。
 店員さんの言われたとおりに歩きました。なかなか見つかりません。たしかに番地の数字を見ると近づいてはいるはずなのですが、それらしき建物がまったく見えてこないのです。それどころか、ずいぶん閑静な住宅街へ入ってゆき、だんだん「こんなところにお芝居やる会場なんかあるのか?」と不安が募るばかりです。はたして開演時間に間に合うのでしょうか?

 路地をぐるっとまわって・・・あっ、ありました! ホントに静かそうな民家が建ち並ぶなか、あやうく見落としそうになるほどさりげない佇まいで(笑)。
 こりゃあ、この日が雨降りになったのはラッキーだったのかもしれません。もし雨が降らなくてコンビニで傘を買わなかったら、遅刻していたか会場にたどり着けなかった可能性があるのです。雨でヨカッタ、ヨカッタ。

 中へ入りましたら受付のところに、チケット手配の件で応対してくださった中野さんがおられましたのでご挨拶。そして舞台をおこなう会場の地下へ下りたところ、空調の利きが悪いという案内を告げられる。
 てっきり私は「稽古場だから、もともと大人数用の空調をつけてないのかな?」と思ってたのですが、本番前日に壊れてしまってたみたい。6月ですからね、メーカーに修理を頼んでも業者の手配が追いつかず、すぐには直してもらえない事情もあったのかもしれないです。
 多少の息苦しさはないこともなかったですが、しかし今回の舞台は『曾根崎心中』を題材にした時代モノのようです。であるならば時代設定は元禄16年(1703年)になりますので。
 元禄16年にはエアコンなんかそんなにないですよ、たぶん。なので、まーったく問題ないのであります! ヾ(@^▽^@)ノ

 


 さて開演です。 タイトルは『この世のなごり、夜もなごり ~当世近松情死考~』。時代モノです。スターダス・21というプロダクションの俳優養成学校卒業生が中心となって参加するカンパニー公演とのこと。大畑さんは、まだ在校生なのかな?
 ここのアトリエという会場は、いつもそうなのか、それともこのお芝居だけのために設営したのか、あまり他では見ない造りになってまして、主に展開される場所が下手(しもて。客席から見て左側)中心になっていました。
 最初に、このお芝居についての前口上が語られます。心中についての説明や、出演者はいっさいカツラを使ってないことなど。
 この「カツラを使ってない」というのが個人的には興味を惹きました。先日の『ならぬことはならぬ』でも時代劇でありながらカツラを使わない方が多数いたのですが、こんどのは本当に全員が自分の髪を結ってるとかで。男の人は簡単そうな髪型でいいのでしょうが、女の人は大変だったでしょうね。
 お話が動きます。舞台設定が女郎屋らしく、奥のほうから女郎の格好をした出演者が会話をしながらゾロゾロと出てきます。その会話のなかに「お初ちゃんが・・・」という台詞が聞こえました。
 しばらくして、その「お初ちゃん」が現れました。いつも小ちゃくてなんだかわかんない画像でしか知らなかった大畑さんでしたが、初めて拝見することになる本物のご登場です(笑)。声も聞けます。なにしろヒロインですから。
 また、空調が利いていないことで和服を着た女優陣の首には汗が光っていたのが印象的でした。

 物語につきましては『曾根崎心中』とほぼ同じですので、ここで私が説明するよりそっちのサイトをご覧いただきたいと思います。ただ、サブタイトルの後ろに「曾根崎心中・他より」とついてるので、おそらく他作品の要素も盛り込まれてたのではないかと思います。
 要するにこれは、3組の男女が心中を遂げるまでの経緯がメインのお話なんでありますね。3組にはそれぞれの事情があって、そこに至るわけですよ。
 これを観ていて思ったのは、どうしても男性側に感情移入をしてしまう仕組みの物語であると。だいたい女性は心中という儀式(?)に美しいものという幻想を抱いているのか、わりと死ぬことに前向きなんですよね。
 これに対し男性はというと、そこに至るまでにかなり回り道をしていると言いますか・・・。人の好さにつけ込まれて騙される者、良心の呵責に苛まれながらも不倫に走る者・・・お金の問題も多々あったりして。腹をくくるまでは考え、迷い、葛藤します。そこの描かれ方が濃い目でしたので、観るほうとすればどうしても男性側のほうに心が動くことになるんですわ。

 それにしても人間社会を生きていくのは大変なことですね。物事に筋を通さなければいけないのは当たり前のこととはいえ、生きていれば様々な弊害も起こりうる。筋を通すことが困難に陥るケースもあるわけで。
 では過ちを犯した者がろくでなしなのかというと、心情的にそれを責めることには躊躇したくなったりもして。そうかと思えば何も悪くないのに生き地獄を味わうハメになることもあったりで。いちばん面倒くさいのはお金の問題ですかね。あれは本当に人を苦しめますよね。
 ・・・まぁ、そんなことを考えながら観ていくお話だったでしょうか。

 じつはこの3組の他に、心中しようとはするのですが未遂に終わった男女が1組だけありました。女性のほうは「早よう死のう!」と急かすのですが、その相手である男性には死ぬほどのことではないようで、何度となく「これ、やめたほうがいいんじゃないの?」的な態度でコミカルに笑わせてくれます。
 結局この男女、かなり強引に男が海に突き落とされた直後、朗報を聞いた女が心変わりして帰って行き、死んだと思わせた男もなんか生きていたというギャグマンガ的なオチでした。
 暗いお話のなかにあって、こういう笑いの要素を入れておくのは重要ですね。それも、同じ「心中」というテーマに沿っていながら他とは違う結果を出すというのがナイスでした。

 最終的に、メインの3組が同時に心中を遂げて物語は終わります。その様は美しく・・・いや、そうでもありません。ひとり、凄いと思う人がいました。3組のなかの男性ですが、それまでの展開では最も情けない雰囲気を出していた人です。
 先に相手の女性を殺して後追いするわけですが、死への恐怖心は捨てきれずにいる様子。それを振り払って実践していきます。
 まず紐で自らの首を吊る体勢にし、さらにその首を刀で掻っさばくというもの。
「南無、三宝ーーーーーー!」
 これはなかなか壮絶でした。
 思わず映画『あゝ決戦航空隊』にて、鶴田浩二さんが見せた生々しい割腹シーンを思い出してしまいましたよ。
 自分の手で首をさばくのって、どうなるんだろう? これを演じた役者さんは相当に考えたでしょうし、さらに公演のたびにそれをやるわけですからね。これは精神的に、かなり消耗したんでしょうね。私が言うのもなんですが、アッパレでした。 \(゜□゜)/


 全体的には予想を超える面白さ。上演時間は2時間半くらいあったんではないかと思いますが、ちっとも長くは感じませんでした。見たところ若い役者さんばかりのようでしたけど、よくこういうお話をやろうと思ったなーという驚き。大人数ゆえ当初は観ていて混乱するのではないかと危惧していましたが、それもなく上手くまとまっていたと思います。そして、原作がいいのか脚本がいいのか、聞いてて「おお、なるほど!」と感じるような台詞が多かったように思います。
 バッドエンド好きな全温度チアーさんではありますが、舞台でそれを見たのは初めてでした。それも“心中”ですから。ほどよく絶望的なお話ですから。
 ホントにね、いいことしかないですよ。ビックリじゃ。観にいってよかったです。「これで2500円? けしからん、安すぎる!」とクレームが入りはしないかと心配するくらいであります(笑)。

 


 さて閉幕後。最初に受付がおこなわれていたスペースで出演者が来客を 見送ったり話をしたりしている隅っこのほうで、来るときにご挨拶した中野さんと、しばらく雑談。聞くところによるとスターダス・21さんは、まだ歴史の浅 い芸能事務所だそうで、こうして新規で足を運ばれるのがとても嬉しいのだそうです。
 お話を聞きながらも、私はこのまま帰ろうかどうしようかと迷っていました。と申しますのも、大畑さん側からすると、私が来るのを知っていながら、その姿を確認することなく終わったとなると「何者だったんだぁ?」と気になって仕方なくなることでしょう。
 それって、面白いじゃないですか(笑)。
 そういうのが好きなんですよ。悪趣味ですかね? どれどころか、当初は大畑さんにはいっさい内緒で、こっそり来てこっそり帰ろうと思ってましたから。でも、それだとチケットの予約の仕方がわからなかったので大畑さん経由で観劇に至ったわけですけど。

 結局、中野さんのお計らいで大畑さんと対面することに。大畑さんからすれば、全温度チアーさんは想像していた人と違っていて残念だった可能性が非常に高い。ちょっと申しわけなかったりもするのですけれども、これが現実なので諦めてください(笑)。
 はじめましてのご挨拶。自毛を結った頭も、近くで拝見させてもらいました。いかにも大変そう。その髪型にするために、朝早くから会場入りするんだそうです。
「今回みたいな役は初めてだったんです」
「いつもはどんな役どころなんですか?」
「(今日の舞台でいえば)ひとりだけ助かった・・・」
「えーっ、あれっていちばんオイしいポジションじゃないですか! ひとりだけ違うことやってたんですからね」
 あと、家を出る前に調べててわかったことなんですが、同じ事務所には石川ひとみさんも所属しているらしい。私が石川さんの動画を見ることがあると話しましたところ、石川さんはたまに観劇に訪れることもあるとのことでした。
 大畑さんはツイッターだとテンションやや高めなのに、このときは控え目な話し方をされてました(笑)。またね、お初さん。 (*^o^*)/~


●舞台とはまったく関係ないのですが、“女郎”繋がりということで『必殺仕置人』のBGM『女郎花』をお聴きください・・・といきたいのですが、YouTubeで動画が非公開扱いになってました(涙)。なので代わりにコレをどうぞ。おそらく同じメロディのアレンジ違いのものだと思います。 <音楽:平尾昌晃>


 あとは家に帰るだけ。しかし小竹向原駅のホームで、いままさに発車するところだった電車に飛び乗ったのが災いした。逆方面行きの電車だったのだ。しかも急行のため途中の駅は次々と通り過ぎてゆき、和光市まで飛ばされるハメに。
 さらに引き返すつもりで乗った電車ですが、なんだか違和感を感じて車内放送で行き先を聞いていたら、それは池袋へ向かっているという。どういうわけか東武線に乗ってしもうたらしい。わしは西武の練馬方面へ行きたいの!
 またもや和光市へ戻り、こんどこそはと慎重に乗り場を確認する。ところが、どれに乗ったらいいのか本当にわからない。結局、駅員の人に訊いてみて解明しましたが、私が向かおうとする経路は複雑でわかりにくいものだったみたい。来るときは簡単そうに見えるのですが(だって本人にその気がないのに吸い寄せられるように来ちゃいましたし)、戻るには東京駅や新宿駅よりもずっと難解な手順を踏まねばならぬようだ。おそるべし和光市駅!


 1時間後、再び小竹向原のホームに立ってる全温度チアーさん。残念な方向へミラクル。 (><;)