文章の書き出しには麗らかな午後と表現したかったが、あいにく今日の天気は曇りだ。薄い雲が線を引くように幾つも空に描かれていて、今にも降りだしてきそうであった。
私はテラスを設けたカフェで大好きなコーヒーを傾けていた。職場にはあと30分もしたら戻らなくてはいけなかったが、会社の待合室で飲む缶コーヒーより、喫茶店の割高なコーヒーを好んだ。
香ばしい豆の香りが満ちて、温かな液体が流れていく。
午後も夕方に差し掛かった時間だというのに、通りに人の姿は多い。
修学旅行生だろうか、制服を着た少女たちが集団で通り過ぎていく。居酒屋の前掛けをしたお兄ちゃんはスーパーの袋を抱えて駆けていった。落語帰りの老夫婦がパンフレットを広げながら談笑して歩き、サラリーマンが携帯電話に謝りながら足早に歩いていく。
いつも通りの光景があった。
ふと、通りの向こうから女性が歩いてきた。トレンチコートの前を開け、レースのトップスはまるで花びらを縫い付けたかのようなデザインをしていた。デニムのスカートは人形のように裾が広がり、首もとには明るいピンクのストールが巻かれている。足下のヒールは高さはあるが、慣れているようでぐらつきは感じない。
女性の栗色の髪が、まるで馬が後ろ足を跳ねあげるかのように揺れるのを見届けて、私は静かに温くなったコーヒーを飲み干した。
手帳の予定が空欄になっているのを確認して、週末はヒールの靴を買いにいこうかと思い描いた。
さて、そろそろ職場へ戻ろう。
薄暗い曇り空に幾分か白い光が滲み出したのを眺めながら、麗らかな午後を歩き出した。
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30分SS第2弾!
小説は変化を描かなくてはならない。細やかでいいので、ちょっとした変化。今日はティーブレイク中のOL。制約は「無駄な形容詞は省く」でした。タイトル、「麗らかな午後」にしてもよかったけどあまりにくどい気がしたので、こちらで♪
さて、いってきます。