前回までのお話

⇩⇩⇩⇩



◆短編小説◆ ❶ T E A | 鼓動を感じる Anne Joyの短篇小説 
/annejoy/entry-12186152644.html




◆短編小説◆ ❷ TEA | 鼓動を感じる Anne Joyの短篇小説 
/annejoy/entry-12187331256.html




◆短編小説◆ ❸ TEA | 鼓動を感じる Anne Joyの短篇小説 
/annejoy/entry-12187957094.html








『TEA』

 第4話





さっきの声は何だったのだろう?

母の声が聞こえたような気がしたけど…

…母?母かな?

1年前に死んだはずの?




わたしは今までかつて幽霊は見たことないし

もちろん怖いから 信じていないけど



自分の母親なら

母にまた会えるのなら

おばけでもいいし

ぜひ会いたいと切に願う




わたしはリビングの戸を開けて通り抜け

キッチンを覗いたけれど

母の姿はなかった




「そんなわけないかぁ〜」

わたしはクスッと笑った

と、同時に 大きくため息をついた




すると じんわり涙が出てきた


視界がぼやけている





ティッシュの箱を探すが見当たらない




新しくティッシュを出すのには

ここより少し離れた納戸のあるキッチンの端まで

歩かねばならなかった



納戸の扉を開けたとしても

踏み台が必要なくらい高いところに仕舞っているので

とても面倒くさいように感じる




今はそこまでしたくないと思った 



しかし

涙だけでは留まらず

鼻水まで流れ出し

あやうく口にまで届きそうである



仕方がないので

わたしは流し台のそばの手拭きタオルで

涙と鼻水を拭いた




それからわたしはしばらく ぼぉーっと見つめていた

キッチンに大きく陣取った食器棚に並んだティーセットを

しばらく ぼぉーっと見つめていた











ティーセットにはそれぞれ

白地に大きく描かれた紺色の花模様がある



これは母の家系で代々受け継がれてきたアンティークものだ




「これで一緒にお茶をしましょう!」と

母が実家からわざわざ

嫁いだわたしのこの家に

新聞紙を丁寧に包んで持ってきてくれたのだ




重たかっであろうティーセット



母は「割れるといけないから」と

両手に抱えて持ってきてくれた




交通、片道3時間もする電車やバスを乗り継いで

持ってきてくれたのだ






このティーセットには

わたしにとって想いれがある





わたしが物心がつく頃から

この本格的なティーセットを

母はお茶の時間に出してくれていたのだ





ティーポットの注ぎ口は少し欠けているが

またそれが古き良きな雰囲気を出しているようで

わたしも母も気に入っていた





あの頃母は

元気だった





家では

子供の布団干しや洗濯や掃除や炊事、買い物を

毎日笑顔でこなしていた




小さい時に住んでいた家は

お風呂がなかったので

毎日銭湯にも通っていた




父は毎晩帰りが遅かったので

家のことは

ほとんど母に任されていた




幼い子供のお世話やら

何から何まで全部ひとりでこなす母




今思うと大変だったろうなぁ〜と思う



わたしも嫁いで子供が授かり

毎日慌ただしく生活していく中、やっと

親の、母のありがたみがわかった始末である







わたしが結婚してからも

休憩にお茶を出してくれるのは

母の仕事で




「お茶が入ったわよ〜」と

キッチンから声がしたかと思うと




ティーセットを木のトレーに乗せて

焼きたてのスコーンと一緒に

南側のウッドデッキまで運んできてくれる





庭の手入れをしていたわたしは

スコップや草取り用のカゴなど道具はそっちのけで



お茶と一緒に待つ母の元へ

すぐに駆けつけていた




ここは嫁いだわたしの家なんだけど

実家の母の家のような

そんな気にさせてくれた




母はわたしと会ってない日々のあいだに

いろいろ起こった出来事を

面白おかしく話してくれる




嫁いでからもまた以前のように

母とこうして同じティーセットで




お茶の時間を楽しむことができるだけで

とても幸せな気持ちになれたのだ






この白地に紺色の花柄の

ちょっと欠けてるところがあるティーセットを見ているだけで

母とのささやかな思い出が蘇る





わたしはもう一度

大きくため息をつくと




玄関へ向かい歩き出した






玄関はいつもと変わらず

ガランとしている





死んだはずの母から届いた段ボールがひとつ

上り口にあるだけだ





わたしは段ボールに手を置くと

人差し指を立て、カリカリと爪で擦って

ガムテープの端を探した




わたしはガムテープの端をつまんで上に引っ張った



ガムテープはダンボールから

ゆっくり剥がれ出す

…ビビ…ビビビ…と音をたてて



わたしはゴクリと生唾を飲み込んだ

自分の心臓の音だけが聞こえてきた




観音扉のようなダンボール箱の蓋を


わたしは

そうっと開けた











{7F8E1B89-5135-477F-91D5-F884398DFE4C}








< つづく >