◆短編小説◆

 『 T E A 』




隣近所の犬が吠え立てていた

宅急便の車が止まったのであろう





間もなくエンジンが切れた

トラックの荷台の大きな扉が開く音がした





ドライバーがインターフォンを鳴らしたのであろう

さっきの犬が更に騒ぎ立てている

きっと黄色い家の犬が吠えているのであろう






わたしはカーテンの隙間から外の様子を伺った

黄色い家の女が玄関のポーチに出て

荷物を受け取っていた




女は腕にタトゥーをしている

どんな絵柄が描かれているのかはっきり見えないが

握りこぶしほどの大きさの黒いかたまりが見えた




女はそれを隠すことなく腕をあらわにしていた

タンクトップと短パン姿で女は荷物を受け取ると

玄関のドアを閉め

中でまだ吠えている犬に

「静かにしなさい!」と大声で叱り付けていた






カーテンから離れると

わたしは戸棚にしまわれている紅茶の缶を取り出した

缶はエメラルドグリーンの綺麗な色柄をしている




春先、旅の途中に降りた大きな駅の地下街で見つけたものだった

缶には『LIPTON'S TEA』と書かれてある




これを見つけたとき

わたしは驚いた



「リプトンティー?!』

リプトンといえば

スーパーでよく売っているのを見かける

黄色いラベルが目印のアレだ




しかも、ティーパックに入っていて

何十袋か入りのお得パックってヤツだ

母がよく買ってきていたっけなぁ〜




大袋入りどころか

お上品に缶入りとして売られている





それにあの黄色いラベルはどこいったっていうのだろう?

全くカケラもない

店の前を通っても、まさかリプトンの

紅茶専門店だとは

気づかないわけである






どこか洒落た

そう、イギリスの街角で見かけた

喫茶店に店構えがよく似ている







わたしはエメラルドグリーン色の缶に惹かれ

しばし足を止めたのだった




地下街の大勢の人が行き交う中を

紅茶缶を食い入るように見つめて手に取った




会計を済ませて店を出ようとしたが

中で談話している客が

ティーポットを斜めに傾けて

紅茶を注いでる



紅茶をなみなみ注がれたカップは溢れそう

彼女は笑って

カップをソーサーに乗せたまま

こぼさまいとすぼめた口を

カップに近づけて飲んだ




同時にわたしの喉はゴクリとなった

わたしはこの店で紅茶が飲みたくなった




「やっぱり、店内で飲んでいきます」

わたしは店員にそう告げた






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< つづく >