目覚ましのベルを止める。
大きく伸びをふたつ。
階段をおりる。
朝ごはんを食べながらぼんやり窓を見る。
今日は天気がいいようだ。
靴は黒の革靴でいくことにする。
台風が夏を連れ去ってしまった。
家を出て小走りしても汗がでない。
つい最近まで花と戯れていた蝶は姿をみせない。
少し張り切って出社して肩すかしをくらう。
何の味か感じられないまま昼食を食べおえる。
やっている仕事の社会への影響を考えたりしてみる。
本当はそれほどでもないのに大きなリアクションをする。
同じ土俵に乗らないように用心する。
口角が中途半端にあがっている顔をみる。
夕暮れは毎日壮大な物語を織る。
雲や光線の加減に目を奪われる。
信号で止まると無意識に運転していた事に気づく。
心に音楽が流れる。
色が波打って揺れながら消えていく。
妖精の羽根のような音がした。
家について着替え椅子に座りため息をつく。
ため息をつく。
ため息をつく。
今度は息を止めてみる。
止めてみる。
止めてみる。
大きく息を吸い込んだ直後に
ひと筋、ふた筋、
涙がでる。
止まらなくなる。
涙が口にはいってしょっぱい。
嗚咽だけが部屋に響く。
どの場面をとっても、
みっしりとそこに存在する。
涙の跡も髪の一本もこの声もすべて
支配されている。
いや、支配されていると信じたいのだ。
これらを消す方法を
これらを消さない方法を
同時にかんがえている。