彼は、帰る前になると、
いつもどこか帰りたがらない様子を見せました。
そして決まって、体調の不良を訴えていました。
「頭が痛いんだよね。」
「帰るとき、吐いちゃったんだよ。」
そんなふうに話す彼を見て、
私はただこう思っていました。
——離れるのが嫌だから、
——帰る時は、誰だってしんどくなるよね。
遠距離だったし、
楽しい時間のあとに別れるのは、
心も体も疲れてしまうもの。
そう、自然に受け止めていました。
でも——
今振り返ると、
ひとつ、引っかかる気持ちもありました。
体は大きくて、
見た目にはとても屈強で、
弱そうには見えない人だったのに、
どうしてこんなにも体調が悪くなるのだろう?
そんな疑問が、
ふと心をよぎることが、
実は何度もありました。
それでも私は、
深くは聞かなかった。
理由を突き詰めようとはしなかった。
なぜ、あの時、
もう少しだけ踏み込まなかったのだろう。
なぜ、
「本当はどうしたの?」と
ちゃんと聞いてあげなかったのだろう。
それは今でも、
私が自分を責めてしまうことのひとつ です。
あの時は、
「大丈夫」という言葉を
そのまま信じてしまった。
でも、
信じたかったのかもしれません。
問いかけることで、
何かが壊れてしまうのが、
怖かったのかもしれません。
宙の便 COCORO舎