しばらくの練習を経て、「練り(飴のボール形成)」と「練った飴のボールを棒につける」という最低限の基本ができるようになれば、次のステップは、「鍋で飴を融かす」「和鋏を使ってうさぎをつくる」となる。
その第一関門が、練りと棒付けの師匠チェックだ。練って丸めた飴玉と、棒に付けた飴の2枚の写真を撮って、メールで師匠に送るのである。
師匠のOKが出るまでには、左手の親指、右手の親指・人差し指・中指に何度も火ぶくれができた。火ぶくれそのものはもちろん痛いが、その火ぶくれが破けた後も、指の薄皮が飴にくっついて強制的にむけるのがかなり辛い。
その辛みに耐え、ひたすら飴を練って丸めていると、火傷をしにくい飴の融け具合、つまみ方・練り方が分かるようになってくる。そうなると、途端に飴玉の形が良くなり、棒にもバランスよく付くようになり、師匠からOKが出るのだ。
OKが出れば、いよいようさぎづくりである。DVDで師匠の言葉少なめな説明と見本動作を確認し、いざつくってみる。
もちろん、思い通りにいくわけがなく、試行錯誤と、基本の繰り返しである。飴が良いのは、一度作っても、鍋に入れれば「材料」に戻るということ。製品として販売する場合にはそうもいかないが、販売するわけでも、自分で食べるわけでもないので、失敗も衛生も気にすることなく繰り返し練習できるのである。
失敗作。失敗する主な原因は、
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飴の温度管理できていない
飴の温度が高く柔らかすぎる/低く硬すぎる
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練り不足
温度が一定でないため成形がうまくできない
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丸く棒につけられていない
バランス悪く成型がうまくできない
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ハサミを入れる角度と深さが間違っている
仕事から帰ってきたら台所に立ち、飴を鍋で溶かし、練習する。気になった部分は、DVDの師匠の動きをスローモーションにしたり、拡大して確認しながら、検討と試作を繰り返して写真とメモを残す。そんな日々が何日も続いた。
1か月もすると、何羽かに1羽、自分のなかで60点(甘めにおまけ付)がつけられるようなうさぎがでてくるようになった。もちろん、ちょっと気を許すと、生まれたての子豚みたいな形になる。この時は、全羽が60点を超えるようになるために、まだまだ何百、何千羽とつくろうと思ったものだ。
飴細工の練習にも気を付けなければいけない。というより、むしろ和鋏の方が危険度は高い。鋏の刃は鋭利で、刃先も鋭く尖っているため、人の皮膚や肉などたやすく刺さり切断する。
もちろん、普通に作業していれば、鋏で手を刺したり切ったりすような動きにはならないが、仕事後の注意力散漫な状態だったり、気が焦って慌てたりすると、手元が狂って指を切ったり、あらぬところを刺したりするのだ。
一度あったのは、
- 飴を持つ左手は「あ、ここの形をなおさないと」と考え
- 鋏を持つ右手は「あ、鍋の飴を戻さないと固まる」と考え
それぞれが別に動いた結果、何の躊躇もなく見事に左手に鋏をぶっ刺したのだ。
刺さった瞬間、血糊をつめた水風船に穴が開いたように、ぴゅっと血が噴き出し、その後は血の雫がぼたぼたっと床に落ちたのであるが。不思議なもので、ささった瞬間に感じた鋭い痛みは次の瞬間には消えていて、「オレ、アホ?」と「血ってこんなに勢いよく吹き出すのか」と「床と飴に血を垂らさないようにしなきゃ」の3つで頭がいっぱいになったのを記憶している。
そんな「あるある」なトラブルを経験しながらも、「練り」と「うさぎづくり」の練習を、地道に、楽しみながら続けた。
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