かなり久しぶりにNHKの朝ドラを観ています。やなせたかし夫婦がモデルという『あんぱん』。そこでやなせたかしという人物に興味を持ち、彼の自伝を読んだり、彼の作品などを観るようになりました。

彼の代表作である『アンパンマン』は、昔一作目だけ絵本で読んだことがありますが、アニメの方は観ていません。

ただ、それより以前にやなせたかしがNHKの教育テレビで司会をしていた『イラスト入門』を観ていたので、なんとなく好感は持っていました。また彼が編集していた雑誌『詩とメルヘン』も時々読んでました。『手のひらを太陽に』の作詞家であるというのも、印象的でした。

まあ、その程度のうっすい関心ですが、やなせたかしの自伝を読むと、不思議な引き立て運を持った人だなーと非常に面白かったです。

そこで、彼がキャラクターデザインを手がけた手塚プロの『千夜一夜物語』を観てみようと思ったのです。

 

やなせたかしは、手塚治虫より年上で、大人漫画、ナンセンス漫画というジャンルで活躍していました。

手塚治虫はストーリー漫画というジャンルなので、別の世界に住む人という認識だったようです。

その手塚治虫から突然この映画の美術とキャラクターデザインをやってくれと依頼があって、最初は本気にしなかったとか。そもそもやなせたかしはキャラクターデザインなどやったことがなかったそうです。でも、この仕事を引き受けて、意外にキャラクターデザインが自分に向いていると気が付いたようで、それが、あとの『アンパンマン』のような多数のキャラクターデザインにつながったようです。

 

『千夜一夜物語』は手塚プロが大人ものの、エロチズムを含む大衆娯楽作品として作ったもので、大人びたタッチを必要としていたようですが、そもそも手塚治虫自身が結構いろんな絵柄を描ける人なので、何故自分でキャラクターデザインをしなかったのかは謎です。忙しかったのかな。それにしてもそこで突然やなせたかしが抜擢されるというのもなんとも不思議な引き立て運です。というのもその頃、やなせたかしはマルチに活躍はしていましたが、特別な代表作もない状態のようだったので、よく白羽の矢がたったなと。

 

『千夜一夜物語』は大変有名な説話集ですが、自分は実は読んだことがなくて、ひらけゴマとか、シンドバッドとか、アリババと40人の盗賊とか、ワード的には知っているけど、お話は実は良く知らないのです。

この映画も、原作のエッセンスを取り入れつつも、旧約聖書のバベルの塔や、日本に伝わる女護ヶ島伝説などが盛り込まれ、オリジナルな物語になっています。

 

大人向けとあって、確かにエロティックなシーンがちょいちょいあるのだけど、そこはアートな雰囲気で処理しているので、品のいい仕上がりです。それでも女護ヶ島のシーンはなかなかのエロティシズム。

この蛇女たちのキャラクターはやなせたかしというより手塚テイストが強い感じ。実際手塚治虫自身が作画を手がけた部分もあったようです。

そんな感じで映画の雰囲気はやなせたかし手塚治虫のハイブリッド感があります。

 

個人的には、魔神夫婦が面白かったです。

 

海のシーンなどは実写を用いたり、いろいろ実験的な映画でもあり、アートっぽい映画とは思うものの、正直、一般大衆ウケしそうな面白みはそれほど感じられませんでした。しかし、これがなんと、興行成績が配給収入で2億9000万円と当時としては大ヒットだったと言うから驚き。

この成功に気を良くした手塚治虫はポケットマネーでやなせたかしの絵本『やさしいライオン』をアニメ化してくれたと言うのだから、本当にやなせたかしは引き立て運に恵まれた人だなーと言う気がします。

 

声優が青島幸男とか、岸田今日子とか、懐かしい感じ。

どことなく怖いイメージの岸田今日子が可憐なヒロインを演じているのが新鮮なのと、主人公のひょうひょうとした雰囲気が青島幸男とマッチしています。

ただ、台詞の音声が聞き取りづらくて何を言っているのかいまいちわかりにくいのがネックです。