田中泯が老年の北斎を演じると知って、観てみることに。
北斎と言うと映画では『北斎漫画』しか見たことないけど、あちらはややシュールな映画なのに対して、こちらは、一応伝記っぽい雰囲気がある。
丁度上野国立博物館で『蔦屋重三郎展』を観たばかりだし、大河ドラマ『べらぼう』も観ているので、時代的にも興味深い。
どっちかと言うと実在の人物を描く場合、フィクションより、なるべく史実に沿ったものが観たいと思うので、そういう意味ではこの映画は自分的にはいまいち物足りないかな。『北斎漫画』も殆どフィクションっぽかったけど、あっちの方がヘンテコすぎるという意味で面白かった。
俳優陣は豪華だし、映像もお金がかかっていて、雰囲気は悪くはないのだけどねー。
ネタバレあり
映画は四章に分かれている。
壱の章
北斎と蔦屋重三郎、歌麿、写楽との出会い。
阿部寛演じる蔦屋重三郎が大河とはまたちょっと違う印象で面白い。大河ドラマよりももっと年のいった蔦重だからというのもあるけど、めちゃめちゃ審美眼のあるやり手感がある。
若い頃の北斎は柳楽優弥が演じている。未だに『誰も知らない』の子役かーという気持ちで観てしまうけど、ドラマ『アオイノホノ』の焔モユルの役も印象深い。というか、あれでは漫画家を目指す若者、こちらでは絵師と、なんとなく絵描きづいている。とにかく目力が強い俳優だ。
喜多川歌麿演じるのが玉木宏。歌麿の映画と言うと昔岸田森が歌麿を演じた『歌麿 夢と知りせば』くらいしか観たことがないけど、『歌麿 夢と知りせば』もどこかぼやっとした映画で、歌麿が最後に手鎖をつけられるところだけが印象深い。
この映画ではバチバチとした北斎、歌麿、写楽のライバル感が面白かった。
映画的にはこの壱の章が一番面白いかな。
弐の章
北斎と滝沢馬琴がメイン。
『八犬伝』を観たばかりなので、役所広司の滝沢馬琴と、内野聖陽の北斎と比べると、この映画の馬琴、北斎は演じる俳優が随分若い気がする。北斎が馬琴の家に寄宿していたのが、47歳頃だから、映画のふたりはやっぱりちょっと若すぎるような。
歌麿の手鎖の件も台詞だけであっさり片付けられる。
参の章
ここから、いきなり田中泯演じる老年の北斎に話しが飛ぶ。柳楽優弥といまいちつながらなくて、急に別人の話みたいだ。
北斎が脳梗塞を起こすという展開になるのだが、私が調べる限り北斎が脳梗塞を起こしたという史実はないような。ここはフィクションなのか?
そして脳梗塞を起こしてその後遺症で絵筆が以前のように握れなくなっているのに、そこから有名な富嶽三十六景を描くというのは無理があるような。
こっからは北斎の人生があまりにはしょりすぎだし、殆どフィクションっぽいので、伝記としての面白みはなくなった。
田中泯は鬼気迫る演技で悪くないのだけどね。
四の章
柳亭種彦のエピソードがメイン。
正直柳亭種彦という人物のことは全然知らなかった。
この映画ではやけに壮絶な死を迎えるが、実際は病死説と自殺説があるようで、自殺説には根拠がなく、病死が妥当とされているようだ。
なので、天保の改革の弊害、表現の自由が許されない時代の悲劇として強調し過ぎかなーと言う印象を受ける。