ネタバレあり

 

成島出というのは、私にとってどうも微妙な監督だ。

これまで監督としては『八日目の蟬』『銀河鉄道の父』、脚本家としては『クライマーズ・ハイ』を観てきたが、特別魅力を覚える監督ではない。

 

この作品も役所広司が主演だからという理由で観たのだが、なんとも微妙な作品だった。いや、役所さんはいいのよ。役所さんは。とにかく役所さんはいつもながらいい演技してるんだけど、なんか映画の出来が微妙。

ちなみに役所広司はなにげにこの監督に気に入られているのか、『銀河鉄道の父』と二作連続主演となっている。

なんとなく、在日外国人たちと国籍を超えた交流を描くヒューマンドラマ系をイメージしてたし、途中までそういう気持ちで観てたのだが、アルジェリアで吉沢亮演じる息子がテロリストによって妊娠中の妻共々殺される展開から雲行きが怪しくなる。

まあ、のっけから在日ブラジル人と半グレのトラブルから雲行きは怪しかったのだが、役所広司がスコップ持ってトラブル解決を図ろうとするあたりで、「そっち系の映画かい!」と思わず笑ってしまった。

 

在日ブラジル人マルコスはジャパンドリームを夢見て日本に来たが、リーマンショックで日本企業に見捨てられ、父親は自殺。自分も進学出来ず、日本を嫌っている。

半グレリーダーはなんか無意味に韓国アイドル系の美形だったりする。ブラジル人の飲酒運転によって自分の家族が事故死した為に、ブラジル人全体に恨みを持っている。

 

どっちも、極端というか、一部をもってその民族全体への恨みに転化するのな。

 

そんな若者の負の連鎖を絶つべく、まるで自己犠牲のように命を張る役所広司

でも、マルコスのためにそこまでする動機がいまいちぴんとこない。

最初からマルコスは主人公の車を盗もうとしたり、ろくに謝罪をしなかったり、主人公に八つ当たりしたり、挙げ句トラブルを持ち込んだりと、自分からしたら厄介な存在でしかない。主人公も中卒という設定で、かつては荒れてもいたようなので、なんとなくマルコスに同情を覚えたのだろうか。

さらに、たまたま息子が亡くなって、主人公が父親に似ているという理由からか、どこか主人公に懐いているマルコスが、息子同様陶芸に興味を持って息子のポジションに収まるかのような結末も釈然としなかった。

そもそも陶芸では食えないし、下手に弟子なんかとってどうすんの?って感じ。

 

とにかくマルコスは最初から最後までなんだか好感が持てなかったので、この結末も釈然としなかったのかも。

そもそも家族に危害が加えると脅され、麻薬押しつけられ、それをヤクザに売ろうとして逆に奪われるという展開もまぬけだし、そのせいで事態がもっと悪い方向に転がっていくのも見ちゃいられない。まあ闇バイトも脅されて深みにはまっていくパターンだし、ありがちと言えばありがちなんだろうけど。

かと思えば唐突に幼なじみの彼女と屋上で行為に及ぶのも「うーん」って感じ。

季節はいつかわかんないけど、屋外でタオル一枚で裸でいるのも寒そうで、何やってんだって感じ。

 

主人公は主人公で思慮深い人間だと思っていたのだが、二千万持って外務省に身代金を支払って人質解放するよう迫ったり、半グレリーダーにひとりで会いに行って交渉するなど、行動が危なっかしくて見てられない。証拠となるボイスレコーダーを持って、のこのこ半グレリーダーに会ったりしたら、その場で殺されたっておかしくないのに、無防備過ぎる。

で、案の定刺される展開になるわけだが、なんか、もう、「あんたばかぁ?」って感情が先立って、すっかりしらけた気持ちになってしまった。

しかも、その直後に警察がやってくるんだけど、あれは最初からそういう打ち合わせでもしてたのか、刑事の方で主人公を尾行していたのか、ようわからんかった。

 

てっきり死んだのかと思った主人公はなんと生きていて、結果マルコスと疑似家族となってめでたしめでたし的になるけど、なんかそういう展開にする為に安易に息子夫婦を殺すというお話にしたような気分の悪さを感じる。大体主人公は妻に先立たれ、息子夫婦も死んで、不幸が過ぎる。

死んだ息子のビデオを観るシーンなんて辛すぎるシーンだけど、あまりに酷すぎる展開になんだか涙腺にもこなかった。なんで息子はすぐに父親に電話で妻の妊娠を知らせなかった? なんでわざわざビデオに撮った? あとでビデオレターとして送るつもりだったのか? と不自然さも感じるし、死んだ後にビデオを観てなげく父親と言う絵面を撮りたかっただけのような、仕掛けられた泣き所という感じがしてしまう。

息子夫婦のやけに綺麗な遺体の映像を映し出すシーンもセンスないなーと感じてしまった。

それにしてもこの息子も妊娠している妻がいるのに食えない陶芸でどうやって生活していくのか、いまいちようわからん奴だった。

 

そんなこんなで、なんか一見社会派っぽい映画だけど、結果心に何も刺さらない映画で終わった。

成島出『銀河鉄道の父』といい、この映画といい、理想の父性を描きたかったのかな、などとどうでもいい分析をしてしまう。

そして、ある意味役所広司は監督にとっての理想の父親像を彷彿とさせる俳優なのかもしれないな。

役所さん出演している映画はあたりが多いけど、私的には今回はハズレの部類だったな。