1996年に起きたエベレスト遭難事故を描いた2015年公開のアメリカ映画。3Dとあるけど私はアマプラで観たので普通に2Dだった。
なんだかにわかにはまっている実際の事故を元にした遭難映画マイブーム。
もっとも、洞窟の閉塞感に比べると山頂で死ぬ方が開放感があるだけマシな感じはする。まあ、寒いし、息が苦しいし、なんだったら高地肺水腫で溺れ死ぬような苦しさあるけどね。自分は高所恐怖症でもあるけど、閉所恐怖症なところもあるから、やっぱり、暗くて狭いところで死ぬよりは、まだ山で死ぬ方がましな気がする。いや、どっちで死ぬのもやだけど。
この遭難事故はそもそもYoutubeで事故の概要を知って、映画化にもなっているということで観たという流れ。
Youtubeの方が事故の経緯が詳しく説明されていたから良かったけど、映画だけだと分からん部分も多々ある。
なぜ山に登るのか? そこに山があるから。
というやりとりはあまりによく耳にするが、自分は旭岳、高尾山から陣馬山くらいしか制覇したことはないし、気力、体力共に脆弱なので、おそらく一生エベレストに行くことはないと思われる。エベレストに行く途中の吊り橋だけで高所恐怖症には無理だし、登山中も梯子みたいな橋で谷を渡る場面は恐怖のあまり落ちる自信がある。
映画はエベレストでロケしただけあって、そんな私が絶対に目にすることのない美しい光景を堪能することが出来る。
勿論肉眼で観るには及ばないかもしれないが、それでもネパールから段階を追って登山してく様子を描写してくれるのでバーチャル登山感がある。自分はネパールという国をよく知らないが、近所にネパール料理屋があって、殆どインド料理と同じなので、文化的にはかなり近い印象。挨拶もナマステって言ってたしね。エベレストは大体ネパールから登山することが多いようだが、チベットからの登山コースもあるようだ。
しかし、これほど美しい光景も、ゴミと回収されない遺体だらけという現状は残念である。映画でも描かれていたが1996年時点でベースキャンプのあたりはゴミだらけで、大変汚らしい。
せっかくの美しい光景を後世に残す為にも最低限のマナーだけは守ればいいのにと、とても残念な気分になる。
余談だけど、その昔、K2と言う登山のボードゲームをやったことがあるのだが、あれがなかなかリアルで、酸素量とか体力とか天候とかでライフが削られて、山頂目前でベースキャンプに戻ったり、下山を余儀なくされたりするあたりは、本当に登山している気分になる。登頂成功しても無事下山出来ないと点数にならないので、とにかく生きて戻ることが重要なのだ。
しかし、あと少しで山頂と思うと無理してでもなんとか登頂したいと言う気分になる。ゲームでこれなのだから、実際の登山でも、危険とわかっていてもすぐ側に山頂があるとなると無茶したくなる気持ちもわからんでもない。ゲームだと如実にリスクが数値として視覚化されるが、現実はそこに個人差があったり、天候が読み切れなかったりで、明確化しにくかったりするものだから、実感が伴いにくいのかもしれない。
ここよりネタバレ
本来、そこをきちんと誘導するのがガイドの仕事なのだろうが、高額のお金を支払ってやってくる登山客に対するプレッシャーと、ツアーとしては登頂率を上げた方が次のツアー客を呼べるという商売上の事情、また、一度目に登頂出来なくてリベンジに来ているツアー客への負い目など、ガイド自身も追い詰められた状況にあったりする。
また、アマチュア登山客の対応に追われるガイドの疲弊で山頂までのルート工作が間に合わないなどの杜撰さも気になる。予備の酸素ボンベも実際は酸素があったのに、点検したガイドが高山病になっていて、判断力を失うなどの問題も起こっている。
体長の悪くなった登山客を下山させたりと、往復を繰り返すジェイク・ギレンホール演じるガイドスコット・フィッシャーも結局調整が不十分のまま登頂し遭難する羽目になる。映画では腹の調子も悪かったようだが、自分自身体調不良なのに中止出来ない状況だったというのもなんともはやである。しかも「まだいける」と思っても突然限界がくるあたりが怖いところだ。
ギレンホールがベースキャンプで裸で日光浴しているシーンがあるのだが、既に結構な標高で寒いだろうに、さすがアメリカ人って感じがする。
映画では描かれなかったが、この事故には台湾チームが別日に登頂する約束をしていながら、何故か翻意にしたという経緯があって、余計に山頂付近の混雑を招き、登頂時間の大幅な遅れを招いたようでもある。当初南アフリカのチームにも日付をずらして登ろうと提案するも、「自分たちのタイミングで登る」と突っぱねられる描写がある。何故、各チームが話し合って、譲り合って安全に登ろうと考えなかったのか、まったく理解出来ない状況だ。
今はそのあたりは改善されたのだろうか?
過度期ということもあったのかもしれないが、それにしてもかつてはベテランの登山家のみが攻略出来るはずの山が、アマチュア登山家でもお金さえ出せば上れるとなったいかにも弊害という感じの話だ。
やっぱ、山はなめちゃいかんってことだね。
そんな中、ジョシュ・ブローリン演じるベック・ウェザーズの奇跡がすごい。映画では詳しくは描かれなかったが、もともとコンタクトが山頂で凍らないようにレーシック手術をした直後の登山で、まだキズが癒えない状態で日光にさらされた結果一時的に失明する。ガイドを待って止まるも、途中別のチーム客に下山を勧められるが断ってしまう。おかげで遭難し、手が凍り付いた状態で発見され、救助出来ないと判断され見捨てられるも、自力でベースキャンプまで下山。その後も低体温症で何度も意識を失い、誰もいないテントでひとり風になびくテントが顔にかかり窒息しかかる。ベースキャンプの人間も彼を下山させることは無理と判断し置いて行くつもりが、なんと翌朝には本人自ら起き上がって下山準備。
さらに、彼の妻がすごい。大統領に陳情してなんと彼を救出する為にヘリまで飛ばす。映画でも非常に危険な高度を飛ぶ描写があったが、救助側も大変だ。
さらに、映画では描かれなかったが、この時台湾チームのガイドの方が重傷ということでそちらが優先されるなんてエピソードもある。元々台湾チームが翻意したという経緯があるだけにこの流れは納得出来ないものがあるが、そもそも何故台湾チームが翻意したのかは謎。調べたけどよくわからなかった。
ちなみに登山って例え遭難して助かっても、凍傷で手足を失いがちなのだが、素人考えだともっと防寒を徹底するとかホッカイロとか持って行ってなんとかならないのかなーとか考えてしまう。映画でも結構帽子から耳が出ていて、耳当てとかしないんだなーと思った。
映画では3つのバイトを掛け持ちして登山費を稼いでいたダグ・ハンセンとガイドのジェイソン・クラーク演じるロブ・ホールだけが最後に登頂したような流れになっているが、他のチームもだらだらと登頂していたようで、14時下山予定を2時間以上も超過している。
ダグはたとえ死んでも登頂成功させたことである意味満足かもしれないし、日本人女性としてはエベレスト登頂成功二人目である難破康子も、七大陸最高峰を制覇して死ねたのだからある意味本望と言えるのかもしれない。
しかし、妻の出産を控えたロブ・ホールは気の毒としかいいようがない。勿論ガイドとして彼の判断が甘かった部分も大きいが、助からないとわかってから妻と衛星電話でやりとりする姿は切ないものがある。最初からロブ・ホールが死ぬとわかって観ていたから空港での妻との別れも切なかった。
ロブ・ホールは最年少記録としては一番最初に七大陸最高峰を成功させた人で、かなり強者だったのだが、そこに過信もあったのかもしれない。映画でも登山客がひいひい言いながら登山しているのに、余裕で何度も山頂に行っている雰囲気があったもんね。
ちなみに七大陸最高峰ってwikiから転載だけど、
アジア大陸:エベレスト(中華人民共和国・ネパール、8848m)
ヨーロッパ大陸:エルブルス山(ロシア連邦、5642m)
北アメリカ大陸:デナリ(アメリカ合衆国、6190m)
南アメリカ大陸:アコンカグア(アルゼンチン、6962m)
アフリカ大陸:キリマンジャロ(タンザニア、5895m)
オーストラリア大陸:コジオスコ(オーストラリア、2228m)
南極大陸:ヴィンソン・マシフ(南極半島付近、4892m)
なんですね。やっぱりエベレストは断トツ高い。
ついでに言うと旭岳は標高2291 m。エベレストはその4倍の高さだ。そして高尾山標高599m。陣馬山標高855mと実に可愛いものである。
七大陸最高峰で一番低いオーストラリア大陸のコジオスコが2228mなので、実は旭岳の方が高いということになる。
つまり、旭岳を制覇した私。旭岳はユジオスコより高い。だから私は七大陸最高峰のひとつを制覇したようなもんだという三段論法が成り立つ。←成り立つのか?
映画でもそうだったがロブ・ホールは面倒見が良い優しい性格でもあったようだ。
別チームのガイドアナトリ・ブクレーエフのように「山は自己責任」「大半をガイドの助けによらなければ登頂できないような人間は参加するべきではない」というドライな性格だったら良かったのかもしれないが、ブクレーエフはブクレーエフで登山客を置いて下山したことや、体調不良者の介助や下山の付き添いには参加しなかったことなど、その後ひとりで3人を救出したにも関わらず批判が大きく、最終的にはその数年後別の登山で雪崩にあって亡くなったそうな。