ネタバレあり
2009年にユタ州のナッティ・パティ洞窟事故を元に描いた2016年の映画。
事故の経緯や救出作業の流れはほぼほぼ事実通り。登場する人物の名前も実際の事件に関わった人物の名前をそのまま使用しているので、ほぼ再現フィルムと言っていい。
強いて言うなら映画では洞窟に入ったのは兄弟だけのように描かれているが、実際は事故にあったジョンの家族や友人、合計11人が探検に参加していた。映画のシチュエーションだと弟はずっと兄を洞窟探検に誘ったことに責任を感じそうだなー。
というか、毎度思うけどこの種の実話を元にした映画って関係者はどう感じるんだろう。
たまたまこの事故の詳しい経緯をネットで読んだ直後にこの映画がプライムに有ることを知ったので、早速鑑賞した訳だが、正直、ずっと主人公ジョンが穴に挟まった状態の話なので、1時間44分ももつのかと不安ではあった。でもそれなりに観られる作品になっている。
ただ、穴にはまったジョンの過去の回想や幻覚と言った部分が多いのでそのあたりが若干退屈と思われるところかもしれない。話の構造的には身動き出来ない主人公の幻覚というシチュエーションは『ジョニーは戦場に行った』っぽくもある。
ちょっと『127時間』っぽさもあるが、ナッティ・パティ洞窟事故は最終的に助からないので終始観ていて辛い気持ちになる。なかなかの鬱映画というか、閉所恐怖症にはたまらなく怖い映画。自分も狭い岩場に入る夢をたまに観るがとてつもない恐怖感を覚える。
とにかくジョンがはまった穴に行く途中も非常に狭い穴なので、救出に行くのも怖いし一苦労だし、私だったらあんな穴に入って助けに行くのはごめんだと思ってしまうのだが、そこは勇敢な救助員たち。ジョンを助けるために懸命に努力する姿はつくづく大変なお仕事だなーと深い尊敬の念を覚える。
カラビナで怪我をした救助員は何かトラウマを持っているような設定だったが、またひとつトラウマが増えたようでその後が心配になる。
ちなみにジョンと救助員の会話はどこまで事実に即したものなのだろうか。
自分もジョンが落ちた穴の図を見ながら、救出する手段はないものかと考えるが、そもそもどうやってこの穴に落ちたのだというくらい、出るのが困難な構造になっている。
もともとは「バースカナル(産道)」と呼ばれる難所を目指していて、その先に立ち上がれる程度のスペースがあることが知られていたのだが、ジョンが道を誤り、行き止まりの穴の先に立ち上がれるスペースがあると勘違いして自らその穴に入ったのではないかと言う気さえする。それくらい構造的に滑り落ちて入るような穴には見えないのだが。
少し手前の穴を掘って広げるとかは出来ないかなーと思ったが、何しろあんな狭い穴だし、掘るための道具も入らなそう。リミットを考えても難しいかなー。
それにしてももともと同じような事故が起こっていた穴だったので、何故この穴に柵を設けるなどしなかったのだろうという感じではある。
医学生である彼は自分の状態から自分が助からないということも薄々わかっている。そんな絶望的なシチュエーションでじわじわ死んでいくのは本当にたまらない。ほぼ逆さづりの状態で死んでいく苦しさは見ていてほんとうに辛い気持ちになる。映画を見終わった後、リアルに穴にはまる自分を想像してなんだか心臓がどきどきしてしまった。
無線で妻と会話するシーンも切ない。結末をあらかじめ知っていたので、車で妻とお別れするシーンが妻とふれあう最後の時なのだなーと言う思いで最初からとにかく切ないのだ。彼としてはさくっと探検してあとは家族と楽しい休日を送るつもりだっただろうに。
このように救いのない話だが、新たに生まれる赤ん坊が彼の幻想の中にずっと現れ、最終的に希望を残すあたりは、後味の悪さをいくらか軽減してくれる。幻想の中の謎の男がどんどん若返り実は生まれてくる赤ん坊だったという仕掛けはちょっと面白い。
ジョンの遺体は今も回収されず、洞窟はコンクリートで塞がれ、ジョンの祈念碑が残されている。
今なら骨となったジョンの遺体は回収出来るのかもしれないが、冒険家らしい最後として、洞窟に永遠に残された遺体というのはある種神秘的な結末と言えるのかもしれない。洞窟まるまる自分のお墓に出来たという意味では贅沢とも言えるかも。
でも自分が遺族だとしたら、あんな洞窟の穴深くに身内が取り残されていると思うとやっぱり切ないので、出来れば回収したいところだ。
ところで洞窟がユタ州ということで、ユタ州というとモルモン教のイメージなんだけど、やっぱりジョンもモルモン教徒なのね。
ちなみにこの映画を見終わった後この事故を扱ったYoutubeも見たのだけど、何故かYoutubeの方が気が滅入ったなー。