ネタバレあり

 

2014年、埼玉県川口市で起こった孫による祖父母殺害事件は印象深い。

事件は孫が祖父母にお金を無心に行き、拒否されたので殺害したというものだった。

たったそれだけで孫が祖父母を殺すというのはなんだかショックで、とても悲しい気持ちになった。

ただ、その後、事件の詳細を追うことはなかった。

 

この映画はその事件をベースに描かれている。

事実そのままかどうかはさておき、このような異常な環境にあったら、異常な事件が起こっても不思議はないと思わせるものだ。

やはり、通常の感覚からはかけ離れた世界なのである。

 

個人的に、救いようのない家族崩壊の話は観ていてつらい。本来なら家族が一番よりどころとなる場所なのに、そこが油断ならない場所となったら、この世界はどこに身の置き場を見いだせば良いのだろう。

 

映画は最初から結末がわかっているので、祖父母と娘の会話の時点から辛かった。

『ヘレディタリー/継承』を観ているような嫌な気持ちがする。

この母親は何故こんな毒親になってしまったのか。妹へのコンプレックスがうっすら示唆されるが、それだけなのだろうか。

祖父母の育て方の問題なのか、もともと本人が持っている資質なのかは謎だ。

 

学校にも行かず、世界が母親だけになってしまった息子には、母親の指示に抗うことも出来なかった。

映画では、久しぶりに訊ねてきた孫に祖父母が優しく接し、祖母は「ごはんを食べていきなさい」などと優しい言葉をかけているし、祖父も孫の妹に会いたいと、気遣いを見せているので、その直後に殺される描写は本当に観ていてつらい。

実際の事件では、お金の無心をする孫を祖父が平手打ちにしたらしいので、映画ほど優しい感じでもなかったのかもしれないが。

演出的にも直接殺す描写はないが、なんだか妙なリアリティがあって、実際に殺す描写以上に凄惨さを覚える。

よもや孫が自分たちを殺すなどこの祖父母は夢にも思わなかったのだろう。そういう意味では秘めたる殺意を持った孫と対峙する祖父母と言う構図はホラー映画のように恐ろしい。

 

12年後、刑期を終えて出所する息子はその後どういう人生を送っていくのだろう。

また、刑期を終えた母親は今どうしているのだろう。

こうした映画がある事実を知っているのだろうか。もしこの映画を観ることがあったらどういう気持ちがするのだろうか。

 

私の中ではこの映画は一種のリアル『ヘレディタリー/継承』だと思うし、あの映画のようにとにかく嫌な後味が残る。

これも一種のホラーと言えるのかもしれない。

 

それにしても長澤まさみはよくこの役を引き受けたな。