『東京裁判』を観た流れから、そういえば、東條秀樹ってA級戦犯として名高いけど、あんまり良く知らないなーと思って、彼の伝記映画とかあるのかなーと思い、手にしました。
もともとは戦犯の無罪を主張したインドのラダ・ビノード・パール判事が主人公だったらしいのですが、日本映画なので主役を日本人にと言うことで東條秀樹が主役となった経緯があるようです。
そのせいか、中途半端にインドの独立戦争の絡みが出てきて、なんかこう、食い足りない印象の残る映画です。
私が調べた範囲ではラダ・ビノード・パール判事は公正に判断した結果、戦犯の無罪を主張したのであって、特にインド独立に日本の貢献があったから、日本に肩入れしたという感じではないようなのですが、この映画ではそういう印象になるよう作られている気がします。
実際インド政府からはこの見解は認められなかったようですね。
ホテルを水浸しにする描写は甚だ迷惑な感じですが、あれは実話ですか?
大鶴義丹などは独白も含め、なんとも刺さらない役でした。
この映画は公開当時「右翼映画」として左派系に批判も浴びたようです。
太平洋戦争には、自衛の部分や、結果的にアジアが開放された側面もあったかもしれないのですが、やはりそこだけを打ち出すと偏った印象にはなりますね。
軍部は日清、日露、日中と大きな犠牲を払って中国に侵攻したというのもあるので、連合国側に中国から撤退しろと言われても引くに引けない、あるいはもし引けば軍部において危うい立場にたたされる危険があったことが、太平洋戦争に駆り立てた要因とも思うので、そういう部分も描いて欲しかったですね。
また、東條が天皇をかばうために、独断で戦争を進めたとすることに葛藤する場面なども、東條はかつて「勤皇には狭義と広義二種類がある。狭義は君命にこれ従い、和平せよとの勅命があれば直ちに従う。広義は国家永遠のことを考え、たとえ勅命があっても、まず諌め、度々諫言しても聴許されねば、陛下を強制しても初心を断行する。私は後者をとる」などと発言してた人なので、そこまで葛藤があるものかと疑問を感じます。
なんで、この映画だけを観て東條秀樹ってこういう人だったんだーと思うのは違うかなーと思います。
どうしたって作り手の意図が入る以上、正確な人物像にはならない訳ですから。
ただ、津川雅彦は良い演技をしていたし、東條秀樹の孫も「東條があの世から帰ってきたみたいです」と賞賛していたそうで、私も映像などで観る東條秀樹しか知らないのですが、雰囲気的にはよく似ていると感じました。津川雅彦はこの映画で第22回日本アカデミー賞・優秀主演男優賞を受けたようで、それくらいの熱演はあったと思います。
『東京裁判』を観た直後だったので、東京裁判の再現率の高さも見所ではありました。大川周明が東條秀樹頭を叩く場面の再現率も高かったです。まあ、この映画にあのシーンいるか?って感じではありますが、個人的にはあって良かったです。
東條秀樹は「国内に対する敗戦の責任を言うのであって、対外的に、なんら間違った事はしていない」と言い切った人物ですから、彼には彼の信念があったのでしょうが、やはり、妻や家族との描写など感傷的に描きすぎているかなーと言う気がします。
とにかく日本のプライドを守るため裁判で戦った英雄として上げすぎかなーというのは感じますね。
パールハーバーの聞き間違いで笑うシーンなども、パールハーバーをいつまでも恨んでいるアメリカ人がしつこい的な発言などは、アウトだなーと言う気がします。
南京大虐殺も全貌が正確にわからない事件なだけにナーヴァスな問題です。
東條秀樹の前で割腹自殺する女性などもフィクションかな? それだけ国民が怒りを覚えているということを表現したかったのでしょうが、ちょっと嘘くさかったですね。
とにかく、東條秀樹を含めて、あの戦争を検証するというのは、いろいろな情報があって、陰謀論まで含むと正確に把握するのが難しく、一筋縄ではいかないものです。