まあ、ネタばれなのかなー。

 

近頃ゴッホの伝記をちょっと読んだので、その昔最後の方だけチラ見したこの映画をちゃんと再見することに。

 

人の一生をわずか122分で描くのだから、当然描かれない部分はたくさんあるし、かなり要約された物となるのは仕方ないとして、この映画は要所要所の出来事をクローズアップしつつゴッホの人生をわかりやすくまとめているなーという感じはある。

 

それにしても芸術家とは変人でなければ成り立たない部分はあるのだが、ゴッホも例に漏れず実に気難しい人物である。

あまり関わりたくないタイプの人物だが、こんな不安定な兄をひたすら送金して支えた弟テオは本当に偉いなーと思う。

 

また、ゴッホのために絵の具やデッサン用の石膏像を与えるオランダ写実主義・ハーグ派のモーヴも実にいい人だ。

彼は映画で描かれる以上に親身になってゴッホの面倒をみていたようだ。

 

未亡人のいとこに入れ込んで、半ばストーカーチックに迫るあたりは、女の立場からしたら恐怖でしかない。

勿論思いが報われないゴッホも気の毒ではあるのだが、いや、しかし、相手が引いてるのに一方的にがんがん迫るのはよろしくない。

そういうのを情熱的と喜ぶ女性もいないとも限らないが、大概は嫌われる。

 

映画では描かれていないがゴッホは娼館にもよく通っていたようで、淋病になったりもしている。

ちなみに弟テオも梅毒にかかったりしている。テオは結婚して子供もいるのにおいおいである。

テオはゴッホが亡くなった翌年に兄を追うように亡くなったとか。仲の良い兄弟と言えるのか、何やら弟が兄の人生にエネルギーを吸い取られたようにも感じる。

死後になってゴッホの絵が世に知れ渡ったのは偏に、画商だったテオ、その妻ヨーの力あってものだったらしい。

生前は不遇だったかもしれないが、結果的には恵まれた画家とも言えるかもしれない。

 

カーク・ダグラス演じるゴッホも、アンソニー・クインが演じるポール・ゴーギャンもよくはまっていた。

同じ芸術家同士だからといってわかりあえる訳でもなく、孤独を埋めることも出来ないというあたりはなんだか胸が痛かった。

この映画からは芸術家の孤独がとにかくひしひしと伝わってくる。

 

ゴッホは食生活があまりよろしくなく、そういう栄養状態の悪さものちの狂気に関係しているんじゃないかなーと思う。

 

ゴッホがテオに言う最後の言葉は映画では「おうちに帰りたい」と言うものだったが、実際は「このまま死んでいけたらいいのだが」と言う言葉だったらしい。どちらにせよ孤独故に、安らげる家を求め、あるいは、孤独故に、生きるより死の安らぎを得たいと欲する、どちらにせよ救い用のない孤独を現す言葉だ。

個人的には「おうちに帰りたい」というゴッホの言葉に号泣してしまった。

それは今施設にいる私の母が「おうちに帰りたい」ともらした言葉と重なるから。心安らげる場所、家族のもとに帰れるものなら帰りたい、帰してあげたい、そんな人生の最後に味わう寂しさを思って胸がしめつけられる。

 

この映画ではゴッホのモチーフとなった建物や風景や人物が再現されているのもよかった。タンギー爺さんなんて出てきた瞬間「あ!タンギー爺さん!」ってすぐにぴんとくるくらい寄せてたもんね。伝記映画ならやっぱりこういうところが観たいよね。