ネタバレ?もあるかも。
役所広司、内野聖陽、黒木華、大貫勇輔と誰得? 俺得映画でございました。
ずっと楽しみにしてたし、その期待を損なわない出来だったと思います。
原作山田風太郎なのね。忍法帖のイメージが強いので、こういう人間ドラマも描けるんだーと驚きました。
もともと幼少の頃より南総里見八犬伝は物語のフォーマットがとてもツボにくるんですよね。
だから、角川映画の『里見八犬伝』も、東映の『宇宙からのメッセージ』も捨て置けないのですよ。
とにかく伏姫が放った八つの玉を持つ犬士を集めるという設定がたまりません。これだけでわくわくしちゃいます。こんなわくわくする設定を考えた馬琴は素晴らしいと思います。この物語はその導入だけでとてつもなく先の物語を期待させます。
しかし、私が幼少の頃見ていたNHK人形劇『新八犬伝』は最初にふたり玉を持つ犬士が現れてからなかなか次の犬士が現れず、それがつまらなくなって、結局最後まで見なかった記憶があります。
その点、この映画ではさくさく八犬士が集まるので爽快でした。やっぱり八人全員が集合するあたりは胸熱です。
ただ、最後になって死んだ人間が実は生きていたとか、甦るとか、こんなにご都合主義の展開だったのだとちょっとあっけにとられました。
この映画では、南総里見八犬伝だけで一本の映画になるところを、作者滝沢馬琴のエピソードと絡めて、尺が足りないんじゃないかと心配しましたが、ちゃんと149分にまとまってました。
八犬伝パートはダイジェストではありましたが、間に馬琴パートを挟みつつ、先がどうなるのか気になる展開になっていて、引きつけられました。
ただ、馬琴パートはしっかりした役者を揃えて安定してたけど、八犬伝パートは若手が多く、演技の力量に差があるのはご愛敬と言ったところでしょうか。時折学芸会チックになるのは虚を表現する上であえてでしょうかね? ちょっともったいない気がします。役者の発声もよくないので、低い声がわざとらしくて、剣豪の迫力が不足しちゃっています。
また、敵の殿様がなんだかヤンキー風味なのもいただけません。
玉梓を演じる栗山千明は悪くなかったです。船虫演じる真飛聖も良かった。あと、犬坂毛野演じる板垣李光人は本当に女性と見紛う感じで良かったです。
そうそう、八房がめっちゃホルスタイン柄で牛のようでした。歌川貞秀の描いた八犬伝の絵も八房が黒ブチなのでそこから来てるのかな。
八犬士の剣の打ち合いは結構迫力あって悪くなかったです。特に城の屋根での打ち合いが良かったです。
一方、クライマックスはちょっと迫力不足というか安っぽい印象です。改めて、八犬士がただ玉を授かって生まれたという因縁だけで、ここまで忠義を果たす理由がよくわからんというか、そこはダイジェスト故の薄さというか。だから八犬士が死んでも痛みが薄いし、八犬士が甦っても感動が薄い結果に。
しかも、この八犬士だけで、戦がどうにかなっちゃうというのが、スケールが大きいんだか、小さいんだか、って感じはあるんですよね。
この映画で私がもっともお気に入りの場面は、馬琴と北斎が東海道四谷怪談を見に行くところですね。東海道四谷怪談は長らく私が歌舞伎デビューする際に観たいと思っていた演目で、数年前についに坂東玉三郎がお岩を演じるバージョンを観劇出来たんですが、この映画でも江戸末期に上演されていた当時の雰囲気が感じられて大変良かったです。当時、忠臣蔵の間に上演されていた事情などもはじめて知りました。
また、立川談春演じる鶴屋南北と馬琴の奈落でのやりとりも大変見応えがありました。立川談春がどこか化け物じみていて演出も最高でした。このシーンが観られただけでもこの映画は高評価です。
もっと馬琴と北斎の関係性を中心に描くのかと思ったら、そっちの方は最後の方は尻つぼみ的に終わったような気がしてちょっと物足りなかったです。
北斎が馬琴の描く八犬伝の絵をもらえずにいることに、何かオチがあるのかなーと思ったのですが、あまりたいしたオチがなかったような気がします。実際北斎が八犬伝の挿絵を描いたという事実がないので、ここは絶対馬琴の手元に絵が残らない仕掛けなのですが、少なからず焦燥感が募ったので、オチですっきりさせてほしかったです。
ちなみに北斎演じる内野さんはとてもいい味出てました。
物語の終盤は失明した馬琴と黒木華演じるお路との関係性がメインとなります。華ちゃんはこういう健気な役がはまりますね。
漢字のわからないお路が口述筆記したというのは奇跡のようなお話でしたが、お路さんは映画で描かれるよりは漢字をわかっていたようですね。
寺島しのぶ演じるお百も良かったです。夫の世界に最後まで入ることが出来ず、嫁に嫉妬しながら「畜生」と言って息絶えるあたり、その「畜生」にすべてが込められた妻の寂しさを感じました。
大貫勇輔は出演していることを知らなかったので、ずっと「どっかで観たことがあるけど誰だっけ?」って思って観てました。時代劇の扮装も意外に似合うし、『ルパンの娘』のちょっとコミカルなダンサーイメージだったので、そういうのを抜きにしてもいい演技をするなーという感じでした。
馬琴パートは江戸末期の作家の暮らしぶりとか、出版事情などが垣間見られたのは興味深かったです。
役所さんはなんだか『銀河鉄道の父』といい、息子に先立たれる父親ずいています。この映画でも息子が死ぬ場面に既視感覚えちゃうというか。ただ、今回はどことなく父親の犠牲になったようにも見える息子が切ないです。
役所さんは安定の演技というか、演技の上手さは今更言うに及ばずですが、今回も観ていて気持ちのいい演技でした。
ただ、役所さんの問題ではないけど、最後に馬琴が八犬士と共に旅立つシーンは、ちょっといかがなものかなーという演出で、ここも引っかかるものがありました。
ちょっと笑っちゃう感じっていうのかなー。
なんだか頭の中を「ランランラーランランラー」とフランダースの犬のテーマが流れてきちゃうというか…。
物語の中で浄化するというのは、まんま『銀河鉄道の父』とパターンが一緒というのも既視感ありです。
そういう意味では最後をもっとうまく落とせていたらとこれまた少し残念な気がしますが、まあ、全体的には気に入ったので、DVDになったらもう一度観ようと思います。
ところで、この物語では馬琴は正義が報われる世界を描きたいとしていましが、玉梓が里見義実の二言による恨みで怨霊と化した事を考えると、正義ってなんだろうねーという気は致します。