何しろ前作の『マッドマックス 怒りのデス・ロード』が圧倒的な作品だったので、もうあれを超える作品は無理だろうと言う気がしていた。

今回の作品もやっぱりあれと比べてしまうと、面白くない訳ではないが、物足りなさは残る。

とはいえ、スピンオフと思えばこんなもんかなーという寛容な気分にもなる。もともと自分は前日譚ってあんま好きじゃないし。

 

フュリオサを演じるアニャ・テイラー=ジョイはとにかく大きなぎょろりとした目が印象的で、その目力は迫力あった。

フュリオサの子供時代を演じるアリーラ・ブラウンがこれまた美少女と思ったら、これはアニャ・テイラー=ジョイの顔を合成し、AI処理したものだと言う。AI技術はすごいけど、なんだか俳優としてはちょっと屈辱的な気分にはならないのだろうか。

 

今回の敵役となるディメンタスを演じるクリス・ヘムズワース。あれ? こんな顔だっけ? と違和感があったが、どうやら付け鼻をしていた模様。

クリス・ヘムズワースって根っからの悪人向きじゃないというか、どこかユーモラスな感じもあって、フュリオサが復讐する相手としてはちょっと物足りないという感じ。

 

アクションシーンはジョージ・ミラーらしさ満載で、楽しめるし、相変わらず脇役に至るまでキャラ立ちが素晴らしく、印象に残る作りになっている。

あと、女性の扱いが比較的上品になっているというか、コンプラ厳しい時代になったからなのか、全体に上品になったなーという感じがする。

 

それがいいかどうかはわからんところだけどね。

でも女性でも入りやすい映画にはなっているかもしれない。

 

 

ネタバレ

上品と言う意味では残酷描写も割と少ない。

最初に殺されるフュリオサの母親も、そこまで残酷に殺されることもなく、フュリオサもあの環境下で陵辱されるようなシーンはない。

イモータン・ジョーの嫁候補だったのに、あっさり逃げだし、その後も誰もそのことを問題にしないのが不思議だった。

シタデルの部隊にうまく潜り込んで、男子と思われていたが、成長してからは髪も長く、女性であることを隠してはいない。プロポーションも抜群の美人で、あの環境下で襲われなかったのは奇跡としか言いようがないような…。いや、リアリティはないような…。

また、フュリオサとイモータン・ジョーの間には何か因縁があるのかと思ったが、意外にそれほどの因縁はなかった。あのシチュエーションだとむしろイモータン・ジョーはフュリオサの恩人のようにも見える。

そういえば、イモータン・ジョーの中の人ヒュー・キース=バーンは亡くなってしまったので、今回はラッキー・ヒュームという人が演じているらしいが、殆ど違和感はなかった。

 

ディメンタスは確かフュリオサの敵ではあるのだが、その後の描写がやっぱり憎めない奴だったり、背中に息子の熊のぬいぐるみを背負っているなど、ところどころ可愛らしい。ジョージ・ミラー『ベイブ』『ハッピーフィート』なんて可愛らしい映画も撮ってるから、そういう感性もマッドマックスの世界に入り込んでいるのだろうか。

彼が乗るローマの戦闘用馬車風の複数台のバイクを組み合わせたモンスターマシンなんか、あほっぽくてクリス・ヘムズワースっぽい(いや、一応褒め言葉)。

フュリオサといい感じの関係になるジャックも結局ディメンタスに殺される訳だが、そのあたりの描写も淡泊なので、フュリオサの復讐心にあまり同調することなく、復讐を果たすというカタルシスもあまり感じない。

ディメンタスの殺され方もちょっと滑稽で笑ってしまう。特に磔のポーズが面白すぎた。

木の養分にされるというのはちょっと怖い終わり方だけど、やっぱりそこまでのことをされる人と言う感覚がいまいちないので、すっきりはしない。

そこはジョージ・ミラーが観客を気持ちよくさせない為にわざと外しているという話もあるようだが、その為にアメリカでの興行成績があまりよろしくないようで、下手をすると次の作品を撮れない恐れさえある。

今の時代、殺し合いを見せて高揚させるというのは問題があるという意識なのだろうか。

そういう意味では、今回もウォーボーイズがいい味を出しているが、前作のように彼らをかっこよく描かないよう意識しているという話もあるようだ。ようするに自己犠牲を美化させないというミラーの思いがあるのかもしれない。

気持ちはわかるが、やっぱりこの映画に感じるうっすらとした物足りなさはそういう観客のテンションをはずしにかかっているせいだと思う。次作を作るならもうちょっと観客のテンションに寄り添ってくれるといいなーとは思う。

 

一応、観客のテンションに応える意味で作ったと言われる戦闘タンク車「ウォー・リグ」を巡る中間のアクションシーンはさすがミラーという出来ではあった。

しかし、最終決戦はあっさり終わったのもかなり拍子抜けだった。

これは『デューン 砂の惑星PART2』のクライマックスと通じるものがある。今時はクライマックスの戦いはあっさり終わらせるが主流なのか?

 

でも世界観はいろいろ面白いし、見所もあるので、前作と比べると物足りない気持ちはあっても、出来としては悪くない。

そんじゅそこらの映画よりはやっぱり面白いし、高齢とは思えぬ感性の持ち主だと思う。

だからこそ、御年79歳のミラーさんにはもう少し頑張ってもらって、次のマッドマックスを是非作って欲しいと願う。

 

それにしても、製作・脚本をかねた同監督で続いているシリーズってもしかして『マッドマックス』が最長なんじゃないだろうか。

(ピーター・ジャクソン監督の『ロード・オブ・ザ・リング』という話もあるが、あれは原作があるし、『マッドマックス』のような完全オリジナルではないという意味ではやっぱり『マッドマックス』に軍配があがるかなーという感じ)

そういう意味でもジョージ・ミラーってなかなか特殊な監督だなーと思う。

あと、やっぱり、こんなバイオレンスを描きながら、かわいい豚やペンギンの映画撮っちゃうギャップがすごすぎる…。