そーいえば、このブログでは『サスペリアPART2』の感想書いてなかった。

『インフェルノ』を再見した流れでこちらも再見したのでついでにあげておく。

 

『サスペリアPART2』が伊題『PROFONDO ROSSO』英題『DEEP RED』で、『サスペリア』とは全然つながりがないし、そもそも『サスペリア』よりも先に公開された作品だけど、配給会社が『サスペリア』のヒットにあやかって『サスペリアPART2』としたとか、そのあたりのくだりは別にもういらんじゃろ、素人じゃあるまいし(だから私も多分読者も素人だっちゅーの!)と思うけど、一応書いておく。

 

個人的にはこの作品がダリオ・アルジェントの最高傑作だと思う。

本人のインタビュー映像を見ても、一番世界中に愛された作品だと言っている。

 

ちなみにこの映画で印象的な薄気味悪い子供の歌声。

はじめて子供の頃この映画を観た翌日友達となんとかこの歌声のメロディを思い出そうとして、「森の音楽家」の曲に似ていた、最後のメロディがマイナーになっていたという記憶を手がかりに再現したなーなんてことを懐かしく思う。

 

 

 

ネタばれ

 

私が所持しているblu-rayは完全版と劇場公開版は入っており、劇場公開版は月曜ロードショー放映時の吹き替えが入っている。

昔録画したのが月曜ロードショー放映時の吹き替え版だったので、どうしてもこの吹き替えになじみがあって、完全版の吹き替えはしっくりこないのよねー。

あと、月曜ロードショー版は独自の効果音も入っていて、なんだったらオリジナルより好きだったりする。

例えば、最初に主人公マークが犯人に襲われる際、窓から去って行く犯人の姿を見る際にかかる衝撃音とか、ジョルダーニ教授が殺されたアマンダのダイイングメッセージに気がつく場面でかかる衝撃音など、自分はこの演出が気に入ってるので、オリジナル版を観るとその音がなくて物足りなく感じてしまう。

さらに、衝撃的ラストのあとに、メインテーマがかかるタイミングもテレビ版の方が好きなんだな。

 

また、月曜ロードショーでカットされたのは、ほぼマークとジャンナのコメディチックなシーンなので、それらをばっさりカットしたテレビ版はテンポが抜群によく、怖さに集中出来る。

マークとジャンナのほのぼのシーンも悪くはないのだけど、どうしても緊張感がそがれてしまうのだ。

これは完全版になるともっと長くなるので、かなりくどいかなーという気がする。

 

謎の歌声と悲鳴からはじまるオープニング、そして超心霊学会でテレパシーで犯人の感情を感知してしまうヘルガという流れが抜群で、完全版のマークがジャス仲間と打ち合わせシーンからの超心霊学会になるのは非常にテンポが悪いと感じる。

犯人がなぜこの超心霊学会に行って、ぎらぎらの殺意をヘルガに向けたのかはちょっと謎。過去に殺人を犯したとはいえ、その後は平穏に暮らしていただろうし、あそこで殺意を向ける理由がわからない。そのために却って過去を感知されたようにも見えるのだけど。

とにかくこの一件が悲劇の幕開けとなる。

(もしかして犯人はもともと精神に異常をきたしているので、常日頃から誰彼かまわず殺意を向けているのかもしれない。それがたまたまヘルガには感知されてしまって、ついでに過去も知られてしまったので実際に殺人まで及んだと考えると納得)

 

ところで、私、ずっと昔にこの『サスペリアPART2』の特番を観たことがあって、そのとき、ヘルガが犯人にテーブルの角で口をがしがしされるシーンを観たような気がするのだ。後に、ジョルダーニも家具の角で口をがしがしされるのだが、どちらも嫌なシーンで怖いなーと思っていたので記憶に残っている。

しかし、テレビ版にはそんなシーンはなく、公開版にも完全版にもそんなシーンはない。

ただ、いつだったか深夜にノーカットで放映された『サスペリアPART2』にはそのシーンがあって、「やっぱりあったんだ!」と思ったので、公開版、完全版以外に別のバージョンがあるのかと調べたがさっぱりわからない。それどころか、ヘルガのそのシーンについて言及している人は誰もいない。かなりコアなダリオ・アルジェントマニアのサイトもチェックしたがやっぱり誰もふれていなかった。

あれは、私の記憶違いなんだろうか?

まるで、あったはずの絵がなくなったことが気になってしょうがないマークのような気分。

もし、どなたか、この件について情報をお持ちだったら是非教えていただきたい。

 

イタリアはなんとなく治安の悪い国って印象だけど、ヘルガもマークもみんな部屋に鍵をかけてないのね。

特にマークは階下で殺人があって、自分は目撃者だと言うのに、えらい無防備…。

 

この映画で非常に心に残るのはカルロの存在。

特にオチがわかった上で見直すとカルロの苦悩がよくわかる。

陽気にふるまいながらも、母親が父親を殺したという秘密をつねに抱えて生きる孤独なカルロ。

そしてカルロは最初の殺人で犯人の姿を見かけ、それが母親であるこに気がついたに違いない。だからいつも以上に酒を飲み、男娼の元へいき、手がつけられない状態になっていたのだと思うと心が痛む。

カルロが同性愛者なのは、母親のトラウマがあって、女性不信もあったのかなーなんて思ってみたり。

そして、恋愛感情か友情かわからないけど、大好きなマークを家族の秘密を守るために殺さなくてはならない葛藤と、あまりにも悲惨すぎる結末に、この物語の中でもっともかわいそうな人物と思える。

(屋敷でマークを殴って屋敷に火をつけたのもやっぱカルロなのかな。カルロの自宅からあの屋敷までの距離はわからないが、マークがカルロの自宅に電話したとき、母親のクララはそこにいたから、多分クララでないだろう)

カルロの死の直後病院で医者が「丈夫な人だから助かった」的な台詞を言うので、月曜ロードショー吹き替え版で観た人間は一様にカルロが助かったのだと勘違いする。完全版の吹き替えでは「丈夫な女性」という吹き替えになっているので、そんな勘違いを生むことはないのだけど。

 

犯人はヘルガやマーク、アマンダを襲う際は毎度子供の歌声のテープをかけるのだが、ジョルダーニの時は無音なのなんでなんだろう。

その代わり、どっから持ってきたんだって感じの超絶気味悪いからくり人形なんかで相手の意識をそらそうとするのだけどね。

ジョルダーニは犯人から「ジョルダーニ」と呼びかけられた時のびびりっぷりがすごかった。紅茶ぼたぼたこぼしてたし。

 

アマンダは一番苦しい殺され方をされたなーというか、熱湯に顔をつけても致命傷にはならんと思うけど、犯人はなんであんな面倒な殺し方をしたんだろう。犯人にしても熱湯に革手袋をつけたら火傷しそう。

案の定アマンダはすぐに死なずダイイングメッセージを残す余裕があった。

あのダイイングメッセージはなんだったのか物議を醸しているが、結局犯人を見つける手がかりにもならず、なんの伏線にもならない変なシーン。多分湯煙で消えるダイイングメッセージというイメージを撮りたかっただけのシーンなんだろうな。

 

ところで犯人クララは高齢の女性ながらアマンダを熱湯につけたり、ジョルダーニを家具の角に打ち付けたり、驚異的な怪力の持ち主であるが、ジャンナも気絶したマークを屋敷から救い出す驚異的な力を持っている。

女性ひとりの力で男性を屋敷から運び出せるものだろうかと、検証のために職場の男性に横になってもらい引っ張ってみたがまったく動かせる気がしなかったぞ。


内容と関係なくとかげでピンをさす少女の薄気味悪さとか(成長した少女がのちに『デモンズ』で映画館の従業員を演じている)、やっぱりアルジェントは不穏な空気を描くのが上手。

よくわからない途中に挿入されるビー玉とか人形などのイメージカットもたまらんよねー。こういうのが独特で面白い。

マークが訪れる幽霊屋敷、なにげに窓とかアールヌーボー調でオシャレだったりするので見入ってしまう。

 

この映画では「消えた絵」のアイディアがずばぬけて秀逸。このアイディアは何度観ても色あせない。

(にしても、ヘルガはなんであんな怪奇趣味の絵を飾ってるんだろう。あんな絵がいっぱい飾られた部屋に住んだら病みそう)

『歓びの毒牙』も殺人の目撃と記憶というプロットはこの映画とそっくりだけど、『サスペリアPART2』の方が完成されている。

最後のクララの死にっぷりのインパクトもすさまじい。あれが子供の頃テレビで放映されていたとは(なんだったら昼間も放映されてた)、なかなかなすごい時代だったねー。

 

サスペリアPART2』のオリジナルポスターはヒッチコック『めまい』ソール・バス風である。