大友克洋の『童夢』にオマージュしたという北欧サイキックスリラー?
団地、子供、超能力と言う共通点はあるけど、別物という感じ。
もう少し『童夢』の派手なクライマックスの映像化を期待したが、そこはやっぱ北欧というか、そこまで予算はなかったのかなーという感じ。
でも『童夢』で描かれた超能力のリアリティみたいなものは表現されていたかな。
『童夢』が画期的だったのはその超能力表現のリアリティにあると思っている。
それまで自分が観てきた超能力の漫画的表現って『幻魔大戦』『地球へ』『超人ロック』『バビル2世』『機動戦士ガンダム』などなど、なんかオーラーが体から発散されたり、電気エネルギーみたいなものがばりばり放出されたり、シュッとか音を立てて体が半分透けたままテレポーションする感じ。
でも『童夢』ではそこにいたはずの少女が次のコマで音もなく消えていたり、超能力も壁が凹むなどの物理的表現がリアルで、実際超能力を目の当たりにしたら、こう見えるんだろうなーというリアリズムが新鮮だった。
そういう意味ではこの『イノセンツ』もそのあたりのリアリティは悪くない。悪くないけど、やっぱ予算の都合か、地味すぎる。
『童夢』の団地という舞台をいかして、空中戦となったときの構図の迫力とか、そういうのを再現してくれることを期待したのだけど、北欧予算の限界なのかなー。
超能力表現を派手にやりすぎると『X-MEN』みたいになっちゃうのも難しいところではある。
この映画は悪くはないが、やっぱり『童夢』ほどの面白さはないかなーという感想。
ネタバレ
『童夢』では子供に返った老人と、子供の姿をしているが、物事の道理がわかっている少女との対決となる(この少女が決して美少女でないところが良い)。
霊媒師が途中「子供に気をつけなさい」と忠告するが、本当に危険なのは、子供ではなく、子供のように分別をもてなくなった存在なのだ。
老人は本来賢者のような存在とされているが、所詮人間は老いることで子供に返って行くと言う意味では、老人こそが子供だったという皮肉が面白い。
この映画においては、4人の子供がメインとなるが、自閉症の姉を持つ妹がポスターのメインとなっているので主役は妹なのだろう。
しかし、自閉症の姉と、尋常性白斑の少女の交流が微笑ましく、こっちの方がメインに感じられるので、途中妹の陰が薄くなる。
引っ越ししたばかりの妹に声をかけるのが、おそらく移民の子であろうインド系?の少年。すぐに新参者に声をかけるあたりも、団地内に他に友達がいないのかもしれない。年長の男の子たちからはいじめにもあっている。そういう意味では孤立した存在であり、親の愛情不全もあってか、猫を虐待するなどの残虐性や、すぐに怒りを爆発させる不安定さを抱えている。
そんな少年が超能力など手に入れたらろくなことにはならない。このあたりの暴走は『クロニクル』を思わせる。
またアンガーコントロールが未熟な少年がつい一時の感情で母親を殺してしまい、後から母親を思って泣くあたりも、この少年の哀れさを感じる。せっかくの力も決して少年を幸せにはしてくれない。
その少年の力に対抗出来るのは自閉症の姉と言うところが良い。
最初は妹にとって姉の存在がストレスであったが、姉が尋常性白斑の少女との交流でコミュニケーション能力が高まり、いざとなれば守ってくれる頼もしさも発揮することで、姉を疎ましく思い密かに意地悪を重ねていた妹も姉に対して愛情を覚えるようになる。
観ている側も妹視点で観ているので、姉にストレスを覚えるが、次第に姉がかわいいと感じられる。このあたりの演出はうまいかも。
特殊な能力を持つ姉と、能力を持たない妹の葛藤というと、ディズニーの『アナと雪の女王』を思い出す。
この映画では姉の名前がアナだったりするんだけど、特に関係はないだろう。
尋常性白斑の少女があっさり殺されたのは残念だった。もともと不安定な母親であったが、このあたりは『童夢』同様、大人が他人に操られやすい要因となっている。
超能力のない妹が超能力のある少年と対決するという展開は『童夢』にはないものだ。このあたりはなかなかはらはらさせる。
そして、この妹は最終的には超能力が覚醒する。姉を守るために力を発揮するという点では、これまたディズニーの『アナと雪の女王』を思い出す。
ラストバトルはまんま『童夢』と言った感じで、子供以外はその静かな戦いに気がつかない。少年はブランコでひとり息絶える。
しかし、『童夢』では子供返りして身勝手な老害と化した老人が最終的に死ぬのは、仕方ないといった感覚を受けるが、この少年に関してはそこまでのすっきり感はない。
こんな風に人知れず少年が死んでいって、平和が取り戻せて良かったのかと、もやりとした後味が残る。
超能力によって身を滅ぼすというお話自体は決して新しくもないので、そこにどこまで新鮮な表現が出来るのかと期待したが、そういう点ではやはり物足りないかなー。