ネタばれあり
1992年公開の黒沢清監督作品。アマプラ無料だったし、松重豊が出演しているので見てみることに。
舞台がバブル期とあって、のっけから主人公のメイク、ファッションがもろバブル期って感じで古くささが漂う。
バブルの最中とあって、彼女が務める商社ではセクハラ横行しまくり。大杉漣演じる上司の発言や行動がことごとくやばい。
お話は至ってシンプルだ。
過去に殺人を犯し、精神鑑定で無罪になった相撲取りが、とある商社の警備員となって、なぜかそこの社員を殺しまくるというだけのお話。
まあ、シンプルなのはいい。ちゃんとそこに恐怖を盛り上げる手腕があれば。
しかし、なんというか、シンプルな都市伝説的怖い話しなのに、何故かあまり怖くない。
いや、雰囲気作りはばっちりなのよ。警備員の薄気味悪い雰囲気とか、体格の大きさからくる怖さとか、会社の地下の描写など、会社のビルの中がどことなく迷宮っぽい感じは面白いと思う。
しかし、元相撲取りという設定がさほど生かされず、単に体格の大きい殺人鬼というビジュアルのために相撲取りという設定にしただけのように感じてしまう。
でもって、演じる松重豊が全然元相撲取りに見えないのだよ。確かに長身なんでそれだけで迫力はあるんだけどねー。
松重豊がとにかく若い。私が松重豊を知った時はもう結構年齢が上だったので、こんな若い時期があったのねーという新鮮さはある。
単純に異常者、サイコパスってことなのかもしれないが、この警備員が殺人をしまくる動機もいまいちようわからん。
最初は同僚の警備員が借金でゆすられているのを助ける為に殺人を行ったのかと思いきや、そういう訳でもない。
ヒロインが登場したことによって、彼女に惚れたから殺人を行ったのか?と示唆するような部分もあるが、彼女に近づく男性に嫉妬して殺人を行っているのかと言えばそういう訳でもない。ということで動機はありそでなさそうでなさそでありそうと言う中途半端さで、例によってみなまで説明しないから皆さんで想像力を膨らませてねっという清さんの丸投げ状態という、ほんと、私、清さんのそういうところが嫌いよ!
警備員の住処や、殺し方などが、ちょっと『悪魔のいけにえ』なんかを思い起こさせるんだけど、『悪魔のいけにえ』は殺人の動機とか考える必要もないというか、そんなことを考える余地もないほど完全にクレイジーというか、有無も言わせぬ怒濤の迫力があるんだけど、この映画はそこまでのパワーがないもんだから、いろんなことがただノイズとなって気になってくる。
まず、主人公の女性な。
時代が時代と言うこともあるが、上司とふたりきりの時に露出狂みたいな行為をされて、それを誰にも言わずに黙っていたり、いや、それ、もう警察に訴えるか、会社辞めるレベルだよってことを我慢しちゃう。
さらに、そんな上司がいる会社に無防備にもひとりで残業する。この主人公の緊張感のなさが、終始「バカなの?」と言う気分にさせられる。
資料室に閉じ込められた時も、警備員の異常な行動を見ているのに、それに対して有効な手段をとろうとしないし、とにかく行動が暢気なのだ。
さらに警備員の殺人を目撃しても、その直後に別の社員とその殺人現場に確認に来るとか、どんだけ肝っ玉が据わっているのか。
危険な警備員のいるビルに閉じ込められて逃げ場がないというのに、同僚を探しに無防備にふらふら出歩いたりね。
しまいには、最後の最後では警備員と直接口論までしてたもんね…。いや、なんかもうあり得ないというか、この女性が強すぎちゃって、どんどん恐怖感が薄まるのよ。
この女性に限らず、長谷川初範演じる人事部の兵藤というキャラもいまいち不可解で、殺人犯と思える警備員と出会っても、暢気に鍵を渡すように話しをするあたり、やっぱり緊迫感がない。催涙スプレーを所持してたから余裕のある演技をしていたのかもしれないけど、いろいろ超越し過ぎちゃって、まったく恐怖感がもりあがらない。
なんか中途半端なキャラ立ちが物語をさらに中途半端にさせている。
さらに、主人公の同僚の女性がひどくて、兵藤の部屋が唯一鍵がかけられて安全ということで、ひとり残されることになるのだが、主人公が
「私たちが戻ったら3回ノックするからその時は鍵を開けてね」と言い残し、その後ドアをがんがん叩く音が聞こえると「ノックは3回って言ったじゃない!」と即行得たいの知れない相手にルールをばらす。「あんたバカァ?」と某アニメヒロインの台詞が頭に浮かぶわ。
その言葉に、今度は3回ノックを繰り返す謎の人物。いや、もうどう考えても警備員以外あり得ないので、同僚の女性もさすがにドアを開けたりはしない、と思いきや、ノックがやんだとたん「いかないで!」とさっさとドアを開けてしまう。ここでも再び「あんたバカァ?」と某アニメヒロインの台詞が頭に浮かぶ。
案の定ドアの向こうに待ち構えているのは警備員で、彼女はロッカーに入れられてぺしゃんこにされる訳だが、この一連の流れが余りにまぬけ過ぎて、怖いというよりただただ白けた気分。
そんなこんなで、最後の最後でドレミファ娘が突然登場するが、ここにきて、ああ、兵藤って妻と子供がいたんだーという情報以外に特に意味も感じないシーンで終了。
『ドレミファ娘の血は騒ぐ』も現代版『不思議な国のアリス』なんて言われているが、主人公が商社のビルで遭遇する奇妙な出来事や、異様な空間もちょっとそのあたりの雰囲気を彷彿とさせ、そういう意味ではやはり清節の映画だなーという感じではある。