ややネタバレあり

 

1997年にカンヌ国際映画祭でパルム・ドール賞を受賞し、話題になった作品ですが、当時気になりながらもいまいち観る気になれなくて、ここまできてしまいました。

というか、ここにきてやっと観ようと言う気分いなったというか。

 

原作は吉村昭『闇にひらめく』だったんですね。『闇にひらめく』は読んだことがないですが、吉村昭『羆嵐』『破船』は読んだことがあります。かなり読み応えのある作品を書く作家です。

今村昌平監督の作品は『ええじゃないか』『楢山節考』『ゆきゆきて、神軍』あたりを観てるけど、割と性描写がどぎつい印象。

この作品も性描写がやっぱりどぎつい印象でした。

 

さて、この作品に関しては、観る前に想像してた感じとは違っていました。心温まるヒューマンドラマを想定してたんだけど、どっちかと言うとなんだか奇妙な物語。

奇しくも先に観た『すばらしき世界』の対となる作品のようにも感じます。

どちらも、殺人という罪を犯した人間がいかに社会復帰していくかというお話で(刑務所における主人公の歩き方がまったく同じ描写だったりする)、どちらの主人公も社会復帰することに非常に前向きです。

この物語の主人公も刑務所で床屋の資格をとって、きちんと社会復帰する準備をしています。

 

ただ、この主人公が妻を殺す動機が、どうもぴんとこない。

というか、妻を殺す流れが殆どホラー映画のようでした。

少し昔の時代を描いているので、痴情のもつれから殺人が起こるというのは珍しくないことだったのかもしれませんが、嫉妬で相手を殺してしまうという心理はなかなか分かりがたいもので、それに関して主人公が反省していないあたりも不気味です。

 

そんな危なっかしい主人公を、恐れもせずに好きになってしまう清水美砂もやっぱりどっか不安定な存在で、映画だからちょっといい話しっぽくまとまっているけど、実際こんなふたりがつきあったら先行きの不安しか覚えません。

主人公にお弁当を作っては無視され続けているのに、めげないメンタルの強さはすごいというか、自分だったらそんなことされたらすぐに心折れますけどね。

そんな清水美砂の元恋人を演じるのが田口トモロヲだったりします。

 

市原悦子がぶっとんだ母親を楽しげに演じ、主人公の後継人を演じる日本昔話コンビの常田富士男共演のあたりは、もしかして狙ってるのか?と思わせるものがあります。

 

『すばらしき世界』同様、主人公を取り囲む人々が皆さんいい人なんですよねー。

ホラーっぽくもあり、ヒューマンドラマっぽくもあり、最後の方はコメディっぽくもある不思議なテイストの作品ですが、そのちょっと不思議な感じが意外に面白いなーと思える作品でした。

そして原作はどんな感じなんだろうっとちょっと気になります。