ネタバレあり
『若草物語』は何度となく映画化、ドラマ化、アニメかされている作品である。
自分も1994年のウィノナ・ライダー主演の映画を観たり、世界名作劇場の『愛の若草物語』をチラ見したり(この『愛の若草物語』ではエイミーが非常に幼く描かれていることが印象深い)、ちょいちょい目にすることがあったし、今更なんでまた映画化なの?と正直思ったが、第92回アカデミー賞で数多くの賞にノミネートされ、そんなに出来が良いのかとずっと気にはなっていた。
実際観ると、確かにこの作品では今までの映像化にない興味深い切り口を感じる。
ただ、これまで原作も未読で、原作にそった映像化も未見の人にはお勧め出来ない作品。
まず、この映画では『若草物語』と続編『愛の四姉妹』を平行に描く手法で描かれていて、最初は「これって、『愛の四姉妹』を描いた作品なの? 『若草物語』を知らないと全然話しに入れないよねー」なんて思って観てたのだが、仕掛けを知ってなるほどと感心した。
私が原作の『若草物語』『愛の四姉妹』を読んだのは小学生の時だったと思うが、ジョーとローリーの関係性がよかったので、このふたりが結ばれなかったことが非常に残念に思えた。そのせいかいまいちこの作品が好きになりきれなかったように思う。
ただ、この映画を観た後、作者がアセクシャルだったのではないかという説を読んで、ちょっと納得したような。
ジョーが作者ルイーザ・メイ・オルコットの分身であること、『若草物語』自体がの自伝的小説である事は言うまでもないが、作者はジョーと違って生涯独身であった。映画ではメタ的に、ジョーが最後に結婚するくだりは、編集者に言われて、商業的成功を望んだ作者がいたしかたなく、読者ウケする「結婚」という結末を描いたとされている。
その為、ジョーとベアが結ばれるシーンは、映画の中では空々しいものとなってしまった。所詮はこの場面は虚構なのだと。勿論物語とはそもそも虚構ではあるが、作品の中ではっきり虚構と名言されるのとは意味が違う。
確かに結婚=ハッピーエンドという時代ではないのかもしれないが、実に現代的で皮肉めいた結末だ。ロマンスを台無しにしたという意味では物語としては破綻してしまったが、まあ、これはこれで、面白い試みとは思う。
ただ、『ブリジットジョーンズの日記』もそうだが、現代女性を描いていても、結局最後は結婚とか、妊娠とか、保守的な価値観が今も息づいていて、女性は結局のところなかなかそういったロマンスからは抜け出せないのだなーという気がする。
自分もなんだかんだ、やっぱりローリーとジョーが結ばれないことにどこか未練が残るし、ベアと結ばれて良かった思いたかった。
とはいえ、思いっきり物語りのロマンスの部分をぶっ壊した映画にも関わらず、意外に映画の評価が高いのは現代女性の意識もかなり変わったことの現れなのかな?
ちなみにジョーがやっぱりローリーを好きだと気づいて手紙を書き、その後、エイミーとの結婚を知るという痛い展開のあと、すぐにベアへの恋愛感情に気づくという展開はちょっと安易に見えたかなー。原作はあまり覚えてないが確か1994年の『若草物語』ではそのあたりはもう少し納得出来るものだったように思うのだが。
もっとも実際ベアとは結ばれないを前提に考えればこのあたりの安易に思える展開もあえてのものかもしれない。
ちなみにベアに作品を批評され、ジョーが怒りまくる場面がかなりきつくて、ここまで言われてベアはよくめげずにジョーの実家を訪ねたなーという気がする。あれはもう絶縁レベルだよなーと思う。ジョーがそういう態度をとったことをベアにわびる場面もないしねー。
この物語で涙をそそるのはやはりベスの存在。原作を読んだ時は、『若草物語』で猩紅熱で死にかけ、『愛の四姉妹』で結局死ぬという、同じようなシチュエーションが繰り返されることがなんだかお涙ちょうだい目的なのかなーと思っていたが、実際に亡くなった作者の妹がモデルである事を知って納得した。
この猩紅熱で助かったベスと、その後猩紅熱の後遺症で亡くなるベスの姿を平行に描く事によって、片やベスが助かったバージョンと、片やベスが助からなかったバージョンが続き、その損失感が際立つ。
ここはやっぱり涙腺にきたねー。
あと、原作読んでる時から思ったけど、南北戦争に行った父親の帰還を家族心待ちにされている割には、このお父さん、存在感が薄いなーと思ったら、実際作者と父親とはいろいろ対立する面もありそこまで良好な関係ではなかったようで、それ故に父親の描写がいまいち薄いのかもしれないなーなんて思った。
ラストの製本シーンをやけにじっくり描いていて、その過程が面白かった。
世界名作劇場の『ナンとジョー先生』で、『若草物語』にはさらに『第三若草物語』『第四若草物語』と続きがあることを知ったが、アニメも未見なら、小説も未読。この映画でもラストにベア学園が登場し、その後の続きを予感させる。
