これまで観たノーラン作品の中で最も難解な作品であった。

いや、大筋は単純明快なものだが、そこに至る過程で登場人物が何をやってるのかいまいちよくわからんというんですかね。『メメント』をより難解にわかりにくくした感じ。

それでも、細かいところは???ではあるが、見終わってみると、訳わかんないけどなんかそれなりに分かったような気分になる映画ではある。

 

なんだかんだ時間逆行の映像とか、ヘンテコな感じで151分と言う長尺をもたせる力業はあったね。

タイトルも上から読んでも山本山、下から読んでも山本山の回文というあたりが凝っている。

これが日本語のカタカナにするとなんのこっちゃかになるのが残念ね。

 

細かい理屈とか、シーンによって何が起こっているのか、時を逆行する上での理論とか、よくわからないけど、わからないまま無理矢理その理屈を飲み込まされながら進む感じではあるが、全体として見ればいつものローラン節という感じ。

それほどたいしたシーンとも思えないところで無駄に音楽で緊張感を煽ってくるあたりもノーラン節が相変わらず炸裂していたな。

特に『ダンケルク』はひたすら起伏のない緊張感を煽り続ける演出が顕著だったが、ずっとこのトーンが続くとすごく疲れるのよねー。時々「そこ、そんなに緊張感煽る必要ある?」って気持ちが冷める瞬間あるのよねー。

 

何度か観るといろいろ発見がありそうで、好きな人はきっと何度も観てはまるのだろうなーという感じの映画。

私は確かにもう一度観ればさらに謎や伏線や仕掛けが見えてくるかもしれないけど、とりあえず一回観ればいいかなーという気分です。

でも面白くないことはなかったですよ。

 

それはともかく、TENET観たら『インセプション』再見したくなった。ノーランの作品の中では一番好きなんだな、『インセプション』。

 

 

ネタばれ

 

とにかく癌で余命が少ないから世界を滅ぼすって言う発想がぶっとんでるよね。

その為の仕掛けがやたら手が込んでいて大袈裟っていうか。

この辺の動機が『新ドラキュラ/悪魔の儀式』を思い出すというか、自分の書いたレビューを引用するならば「ドラキュラが永遠に生きる自分にうんざりして、人間滅ぼす→食料となる血がなくなる→すなわち吸血鬼も滅びるという甚だ迷惑な自殺計画を企てるというもので、そのためにイギリスの高官や学者を黒魔術教団みたいな組織に取り込み、影で暗躍しつつ、細菌テロをもくろむという、なんだか訳のわからない変化球を投げまくります。」と通じるものを感じるというか。

 

故に黒幕の動機はなんじゃそりゃ!って感じではあるんだけど、これもまたノーランの力業でねじふせられるというか。

世界を自分の寿命にあわせて滅ぼそうとするのは、自分と世界を同一視する究極のエゴイストと言うことかしら。

 

時間を逆行する時は酸素ボンベしなくちゃならないという理屈もわかるようなわからんような。

室内に入るとしなくてもいいみたいだし、すべてが逆に動き、逆に作用するということを突き詰めると、いろいろ他にも問題ありそうなんだけど、そこは深く考えさせずにやっぱり力業でねじふせられる感じ。

もう「いんだよ細けぇことは」と松田さん状態だけど、とにかくノーランの決めたルールをただただ飲み込むしかない訳で。

 

でも熱冷が逆転するあたりとか、自分同士が触れると消滅するとか、そのあたりもうちょっと物語の要として見せて欲しかった気がするのよね。結局言葉だけで自分同士の接触による消滅は観られなかったし、自分と接触しそうになる危機も特に描かれなかったし。

 

主演のジョン・デヴィッド・ワシントンデンゼル・ワシントンの息子か。

お父さんと比べると見た目にそれほど華はないが、まあ、地味によい俳優って感じかな。『ブラック・クランズマン』でも主役やってたけど俳優としての力量はともかく割と記憶に残らない顔立ちなのよねー。際だった個性もないし割とどこにでもいそうな黒人って風体だし。

ロバート・パティンソンは個人的に好きな俳優ではないが、今回の役柄は割と良かった。途中で謎の男と格闘してマスクを剥いだ途端見逃すあたりで、実は戦っていた相手が自分だとわかったので見逃したのかなーと思ったけど、後にそれが実は相棒だったというあたりは当たらずとも遠からずであった。

ケネス・ブラナーは存在自体がムカつく感じで黒幕にはぴったりだね。このケネス・ブラナーのつねに自分にちょっと酔いしれてる感じが役柄にはまっていた。前回の『ダンケルク』といい監督、ケネス・ブラナー気に入ってるのかなー。

エリザベス・デビッキは身長が191cmもあるのね。なかなか魅力的な女優さん。彼女が憧れた飛び込みをする女性が彼女自身だったというオチは好きだな。感情的になって予定より早く夫を殺しちゃダメでしょうとは思うけど、人間理屈でわかっても我慢の限界があるってことなのかしらね。

そして彼女の息子こそが、主人公の相棒となるニールだったと言う仕掛けも悪くないね。顔をマスクで覆ってしまうと誰が誰だかわかりにくくて、この肝心のオチがちょっと一瞬飲み込めなかったけど。

そんな感じでちょこちょこいいシーンあります。