ある意味、先に『リダクテッド 真実の価値』を観たのはタイムリーだったかも。
この映画とセットで観ると、余計にイラク戦争の空しさが際立つぜ。
『マネー・ショート 華麗なる大逆転』のアダム・マッケイは、クリスチャン・ベイルとスティーブ・カレルがお気に入りか? さらにサム・ロックウェルと配役が魅力的。
ゴールデングローブ賞ではミュージカル・コメディ部門の作品賞にノミネートされていたが、コメディなのか?ってくらい笑えないというか、むしろ怖さを覚える。
勿論、軽妙な語り口だったり、面白い演出もあるのだけど、全体のトーンはいわゆるコメディタッチとは言いがたいような。
クリスチャン・ベイルはこれまでも激やせしたり激太りしながら役者根性を見せていたが、今回はまた円熟した怪演っぷりをみせる。この人、どこか心に闇を抱えている感じがあって、それがディック・チェイニーの闇とぴったりはまる感じ。
対して、ジョージ・W・ブッシュ演じるサム・ロックウェルの無能感がまた際立つ作りで、そこに加わるスティーブ・カレルとエイミー・アダムスなど俳優の演技合戦も見所。
イラク戦争の大義名分である大量破壊兵器がいかにねつ造されたかという過程が興味深く、権力というのは油断するといつでも暴走する素因を秘めている危険を感じる。そういう意味では権力は盲信してはならんものだなとつくづく痛感。
ネタばれ
冒頭、「無口な男には気を付けろ」的な文章が出てくるんだけど、まさにディック・チェイニーを表している。
彼が最後に私は選挙によって選ばれたのだとしたり顔で言う。選んだ国民は長時間労働に疲弊して、普段は娯楽に溺れる。目の前で喧嘩が起こっても「ワイルドスピード」が楽しみ♪と刹那を享受する。
こんなところは、日本人も一緒だなと感じる。
311の衝撃と恐怖心を利用して、まんまとイラク戦争に持っていく手腕。なんつーか、国を動かす人間は庶民とは感覚違うよね。
ディック・チェイニー存命の内にこういう映画を作れるってところがアメリカの風通しのよさというか、救いなのかなーなんて思う面白い国。
この映画の語り手が実はディック・チェイニーの心臓移植のドナーだったというオチはなかなかブラック。
個人的には途中でエンドロールがかかるあたりは前代未聞な演出で面白かったけど。
あと、ブッシュを自分の意のままに引き寄せる描写が釣りと被る演出とか。
それにしても、若いころは大学中退して酒や喧嘩に溺れるクズ野郎が、妻の一言であそこまで上り詰めるとは…。チェイニーと妻の関係はすこしふわっとした印象だったな。なんだかんだ妻が彼に及ぼす影響が大きい事は確かなのだけど。
そしてゲイの娘を持ち、意外に娘のカミングアウトを受け入れもするのだが、しかし、長女の上院議員出馬の為に同性婚否定を促す描写など、このあたりのエピソードはどう受け止めたらいいのかわからん感じではあった。
あとね、本当のところディック・チェイニーって人が何を目的としていたのかよくわからないという感じもあるんですよ。
いわゆる金の為って言うほど、金を欲しているようにも見えないしね。強い権力志向があるようにも見えなかった。
なんていうか、一種のゲーム感覚に近いような感じも見受けられる。大きな魚を釣り上げる快感だけが行動原理のような。ゲーム感覚にしては世界に及ぼす影響大きすぎですけどね。でも、人間社会にはこういう何かが欠けた得たいのしれない怪物が潜んでいるというのもまた事実。
それにしても、いろいろ歪んでしまったアメリカがオバマの登場で補正されたのか、トランプの登場で悪化したのか、トランプはある意味わかりやすい人だけど、一番厄介なのはやっぱりチェイニーみたいな影の支配者ですね。
