黒人刑事がKKKに潜入捜査すると聞いて、エディ・マーフィーばりに白人メイクをして潜入するのかと勝手に思い込んでいたが、思い込みが過ぎたようだ。
1979年の実話を基にってあったし、黒人が白人メイクでKKKに潜入なんてものすごい無茶をさせたんだなーと思ってたんだけど、さすがにそんな無茶しないか。でもそういう話しだったら面白かったのになー。
ようするに、ジョン・デヴィッド・ワシントン演じるアメリカ初の黒人警官ロン・ストールワース(原作者)がKKKと交渉し、実際潜入するのはアダム・ドライバー演じるユダヤ系アメリカ人フリップ・ジマーマン刑事の方なのね。
いや、なんで、電話のロンと潜入するフリップってわざわざ役割分担してるのか謎というか、そんなリスキーなことしなくてもロンが作戦をたて、フリップが電話も潜入も一緒にやればいいのに思うのだが。
それにしても『マルコムX』で主演を務めたデンゼル・ワシントンの息子が今回主演を演じるとは親子揃ってスパイク・リーとご縁があるのね。
アダム・ドライバーは最初気づかなかった。あんな特徴的な顔立ちなのにね。カイロ・レンより全然いい感じに見えたよ。
『グリーンブック』とは対照的にスクリーンからボーリングの玉を胸に向かって投げつけられるみたいなズーンとくる映画。途中途中コミカルに描かれている場面もあるけど後味はとにかく重い。
こういう視点で差別問題を考えているスパイク・リーには『グリーンブック』はさぞぬるい映画に思えるでしょうね。
ブリッジス署長を演じる俳優(ロバート・ジョン・バーク)がちょっと好き系と思ったら、『ロボコップ3』でピーター・ウェラーの代わりにロボコップを演じた人か!
ネタばれ
のっけから、映画『風と共に去りぬ』の引用からはじまる。(昨今では差別的として批判を高まる映画だが、当時の南部白人から観た南北戦争という視点ではひとつのサンプル的意味があるかなーという気がするし、ある意味南部の人間の意識がリアルにわかる)
アレック・ボールドウィン演じるボーリガード医師がレイシストむき出しで黒人差別をアジる。
この映画のもっとも興味を引かれる部分は、KKKの内部に踏み込むと言った点であり、KKKの内部でも過激な者から、比較的穏健な者など様々。普段はちょっとしたサークル活動みたいな雰囲気で、こうしたコミュニティに自分の居場所を確保することに満足しているようにも感じる。
KKKは黒人のみならず、ユダヤ、ヒスパニック、カトリック、同性愛、フェミニズムなど多岐に渡って否定的であり、プロテスタント、アングロ・サクソン人を至上とする団体だっとは(早い話プロテスタント、アングロ・サクソン以外は認めんって集団)。
KKKの象徴でもある白装束と三角白頭巾をかぶって十字架を燃やし集会する様はもはや悪魔崇拝の集会みたい。
この映画の過激なKKKメンバーとして登場するフェリックスが夫婦共々かなりやばい感じで、演じる俳優も上手(ヤスペル・ペーコネン&アシュリー・アトキンソン)。
フリップがフェリックスに正体を突き止められそうになるあたりがこの映画で一番はらはらするところ。ロンの家にフェリックスが訪ねて来た時は「オワタ」と思ったけど、よくあのごまかしでなんとかなったもんだ。
さらに、フリップを知る囚人から、彼が警官であることを知らされたフェリックスが、デュークの護衛で来ているロンと、フリップの繋がりを当然疑い、彼が潜入捜査官であることを確信してもいいはずなのに、そこをふわっとさせたまま、パトリスの家を爆破する計画に向かうあたりは不思議だった。
フリップが潜入捜査官なら、その計画自体既にばれている可能性だってあるのに、そこに考えが及ばなかったのか。
(それにしてもKKKの集会の護衛に黒人刑事をあてがうとは、署長も何考えてんだ?)
まあ、この夫婦の末路にはやっぱり溜飲下がるのだけど、なんとなくこのくだりは不自然なので、フィクションなのかなーと思う(というか、この物語自体殆どフィクションらしい)。
もうひとつ興味深いのは、黒人側の過激組織ブラックパンサー党と、KKKの集会が交互に写る様は、最終的にはどちらも同じに見えてくるという。そして双方共通の敵がピッグ(警官)だったりする。
KKKの最高幹部だったデービッド・デュークなどはうっかりすると好人物のようにさえ思えてしまう。実際のところ演じたトファー・グレイスはしばらく鬱になってしまうほどで、グレイス自体がいい人なんだろうなー。
実物のデービッド・デュークも最後に写るが、見た目は悪い人に見えないところがある意味恐ろしい所。
しゃべり方で黒人を見抜けると豪語するデュークをロンが最後にやりこめる様は痛快。
最後に2017年のシャーロッツビルの実際の事件映像を映し出され、今も続く複雑に絡みあった差別や偏見の流れが重く心にのしかかる。
個人的にはKKKのような過激派も、行きすぎたポリコレもどちらも危険に思えるのだが、トランプ政権の最中、激震に揺れるアメリカの行き着く先は果たしてどこなのだろうか。
