とってもデ・パルマ監督らしい映画なんですが、なんつーか、『悪魔のシスター』と『殺しのドレス』を足して2で割ったみたいな。いや、元ネタは『殺しのドレス』同様ヒッチコックの『サイコ』なんですけどね。
見せ方はもうデ・パルマ節全開で、それはそれで楽しかったんですが、内容はちょっと雑な印象。
1992年の映画なので多重人格と言う題材が古典的に見えちゃうのはしょうがないとして、なんかこういろいろ「?」な感じの映画です。
ジョン・リスゴーは相変わらずの怪演っぷりでしたけどね。
フランシス・スターンハーゲン演じるウォルドハイム博士も印象的です。
ネタばれ
最初に不自然な感じで主人公カーターの双子の弟ケインが登場した時点で、これは実在しない人物であるとすぐに察しがつくわけです。
冒頭から、いきなりクロロフォルム的な何かで女性を眠らせ、ジョギング中のふたり組に気づかれないようキスをするなどのデ・パルマ節が披露されます。
さらに、カーターそっくりの親父が登場したことで、これもまた主人公の頭の中だけに存在する父親なのかと思ったら、なんと、父親は実際に存在してたとは!?
この父親が子供を故意に傷つけて多重人格を産み出すというとんでも研究をしてたと言うことで、実の息子を多重人格にした上に、その息子を使って子供を誘拐してたって話しなんですが(こうしてあらすじを紹介している時点で???な感じのする話しなんですけどね)、最後にきて何故カーターの中の女性マーゴが父親を刺したのかはよくわからんというか、このマーゴという人格が結局なんだったのかもわからんままです。
また、こんな多重人格のカーターが普通に結婚して子供もいて、妻が何年もまるっきりそのことに気づかないというのも不思議な感じ。
最初に女性を殺して子供を誘拐したカーターがその子供を連れて家に戻ると、実は妻がいたというのにはびっくりしました。妻がいるのに子供を家に連れ帰っていたとは。
で、この妻がまたなかなかひどい女で、少なくとも表面上いい夫であるカーターを差し置いて、昔の彼氏と逢瀬を重ねる不貞妻だったりする訳です。しかも、なれそめが自分が担当している肺がんの患者を看病をしている夫と出来ちゃったというもので、患者の目の前で患者の夫とキスをし、それを目撃した患者が心臓発作を起こして死亡するという実に嫌な関係だったりする訳です。だから、この男と結ばれてめでたしめでたしはちょっと違うんじゃない?って気もいたします。
(キスをした直後に患者が目を見開いている描写は怖いです)
で、多重人格のカーターよりも、この妻の不倫をせっせと丁寧に描くものだから、途中なんの話しなのかさっぱりわからなくなってきます。しかも繰り返す夢オチに何が現実かもわからなくなってきます。このように中盤で妻の不倫ネタに時間を割くことも特に意味があったとも思えないのですが、まあ、これはもしかして『サイコ』の本編に関係ないジャネット・リーが会社のお金を持ち逃げする冒頭のような効果を狙ったのかもしれません。
しかし『サイコ』のように突然主人公も物語の展開も変わるという効果はないので、ただお話を混乱させているようにしか見えないのですよね。いや、ここだけ単独で観るとそれなりに面白い場面ではあるんですが。
で、この妻の不貞を知って突如妻の殺害に及ぶカーターが怖くて良かったです。優しく水を運んできた直後にいきなりですもんね。
妻の死体を湖に沈める描写はまんま『サイコ』のオマージュ。意識を戻した妻が車から叫ぶなどのシーンが追加することで『サイコ』以上にショッキング。
これまでの殺人や誘拐の妻を愛人になすりつけようと画策するも、あっさり車が発見されてしまう(このあたりの展開はすごくまぬけっぽい)。警察が遺体を確認する際に、妻なのか別の女性なのかわかりにくい。
(ようするに遺体は最初に殺された女性のものだったということらしいが)
私はてっきり妻だと思ってたから、カーターがモニターで妻の姿を見たのは幻覚だと思ったのだが、実は妻が車から脱出していたことに驚いた。しかも、警察とか病院に行かずに家に戻ってカーターを襲おうとしてたことに驚くというかすごいタフな女性(いや、ちょっとありえねーって感じ)。この妻登場のあたりもなかなか怖い演出。
ウォルドハイム博士と警官が署内を歩きながら話す場面の長回しは見応えありました。博士が何度か道をそれそうになり、それを警察が正す演出もよかったです。
ウォルドハイム博士はいいキャラクターだったんですが、ケインとふたりきりで対峙するあたりは無防備過ぎだなーと思いました。ウォルドハイム博士の癌設定は抗がん剤によりかつらを被っていて、後にケインがそのかつらを奪って博士に変装して脱走する為だけの設定だったんですね。こういう展開上で必要ってだけの人物設定もちょっと雑かなー。
カーターの妻がこのマーゴと化した夫とエレベーターで一緒になるあたりは『殺しのドレス』っぽいです。
そして『アンタッチャブル』を思い起こさせるクライマックスはこれまたデ・パルマらしいサスペンスで悪くないです。しかし、あからさまに怪しい女装のカーターを見逃す警察っていうのもねー。
オチの付け方もザ・デ・パルマって感じですしね。でも、結局マーゴがどういう立ち位置にいる人格なのかわかんないので、この後妻に危害が及ぶのか、だとしたら何の為に危害を及ぼすのかわからないんですよね(だったら、タイトルにあるケインが登場の方がよかったような気もしますが、ビジュアル的なインパクトはマーゴなんですよねー)。逃げたカーターが再び最後に登場なんていうのは想定内で、驚かせるだけの演出だとしても、必然なさすぎ。妻の不倫場面に時間を割くよりも、もう少し多重人格につっこんだ方が良かったんではと言う気がするくらい中途半端感を覚えます。
まあ、全体に、意外性を求めることに終始して(と言ってもさして意外性はないのですが)、細かいところは二の次的映画になってるんですが、見せ方は面白いので嫌いではないです。