第91回アカデミー作品賞受賞作。

実はそれほど期待してなかったのだが、思ったより面白かった。

差別、ゲイと昨今のポリコレ傾向を伺わせつつ、いかにもアカデミー賞らしい優等生的な映画。

ピーター・ファレリー監督作にしては優等生過ぎるかも。

なんとなく印象が『ドライビング Miss デイジー』の逆バージョンという感じ。

ヴィゴ・モーテンセンはこの役の為に20kg増量して太鼓腹のイタリア人を演じているので、アラゴルンの面影もなくかなりもっさりしたおっさんっぷりだ。

黒人ピアニスト、ドン・シャーリーを演じるマハーシャラ・アリは、この為にピアノレッスンをしただけあって見事なピアノさばきを演じる。CG合成で手だけ実際のピアニストものではないかと思ったがそうではないようだ。

 

ネタばれ

喜劇としての見せ方がよく、相反するふたりが次第に心を通わせるという定番なスタイルだが楽しく観られた。

潔癖なまでにモラルにこだわるドンと、いささか素行が悪いトニーの掛け合いは面白く、落ちた石をネコババしようとするトニーを静止し、代わりに買ってやろうと申し出るドンとのやりとりや(その後石がでてきたけど結局は購入したってことなのか?)、ケンタッキーフライドチキンを共に食べ、窓から骨を捨て盛り上がっておきながら、勢い飲み物のカップを捨てるトニーに拾いに行かせるドンなど、ふたりの性格の違いが浮き立つエピソードがよく出来ていた。

ただ、黒人が口をつけたコップを捨ててしまうようなトニーが、割とあっさりドンを受け入れたのはちょっと不可解ではあったかな。トニーはいつの間にドンに親しみを覚えたのだろうか。やっぱり彼のピアニストとしての才能を認めたからなのかな? トニーがもっと割のいい仕事を仲間から紹介されるとなったとき、ドンが彼を引き留め、それに対してトニーが引き受ける気がないと告げるあたりは、いい場面ではあるが、トニーがそこまでドンの仕事を優先する理由はよくわからなかった。やっぱり彼のピアニストとしての才能を認めたからなのかな?(二度目) まあ、先にもトニーは彼らの仕事を断っているので、きっとちょっとやばい仕事なんだろうな。

また、絶対拳銃持ってるなんてはったりと思っていたら、実際に拳銃を持っていたとわかるくだりはなかなか意外性があってよかった。

妻が実は代筆を見抜いていたとわかるオチもよく、まさにほっこりした気持ちになれる。

また、毎度お馴染み実際の彼らの写真が最後に映し出され、彼らがその後も交流があったとされるテロップにもよかったと思わせるものがある。

(しかし、ドンの遺族からはふたりは友人ではなかったと抗議がよせられているらしい)

 

実際の公演は1年以上にも及んだとか、ドンはフライトチキンをもともと食べていたとか、例によってどこまで脚色されたものかはわからないが、映画としては面白い出来だった。

ただ、『ドライビング Miss デイジー』でも批判があったようだが、この作品も『白人の救世主』という批判があるようで、まあ、そういう風に観ればそういう風に観られるよねという感じもあるが、特別白人が黒人よりヒロイックに描かれた話しという感じはしないかな。これが逆に黒人が白人の救い手として描かれれば『マジカル・ニグロ』と呼ばれるんでしょうしね。

(実際ドンがマジカル・ニグロであるという批判もあるようで…)

この場合互いに互いを救うという側面があるのだから、どちらかがどうって話ではないような気がするんだけど、やっぱりダメなのかしら。これが同人種同志の話だったら問題にならない気がするのだけどねー。

ドンがゲイであったかどうかという話も曖昧で、仮にそうだったとしても本人が公表していないことを映画で描くのはいかがなものかという抗議もあったようだけど、ただ、この場合ドンが実際ゲイであったかどうかというのは実はそれほど大きな問題ではなく、黒人に対する差別、移民に対する差別、そしてゲイに対する差別と、いろいろな差別が今以上に強かった時代の話として、差別問題を考える上でのひとつの要素という感じがする。

また、才能のある孤独な金持ちが、特別才能のない庶民に癒されるという構図は割とありがちなので、黒人が白人に救われる物語とも思わない。実際ドンが映画で描かれているように孤独であったかどうかもわからないし、遺族はそれを否定しているようだ。

 

いずれにせよ、この映画が描きたいのは、トニーのような差別主義者でも、相手と交流することで意識が変わることもあると言う話で、そこに差別問題の希望を見いだすという意味では総じて悪い話ではないと思う。

実際のトニーもドンとツアーに出掛ける前は差別主義者だったらしいが、ツアー後は変わったという話なので、まったくの夢物語ではないということだ。

 

それにしても、ゲストとして招きながらも、あの扱いをしてなんとも思わないなんてアメリカの南部は本当に狂ってるな。