あんだけ独特の世界観で完成された作品のリメイクなんて無理やんって思ったし、もう設定だけ借りてまったく違うアプローチしかないんだろうなーとも思ったけど、意外にも骨格はオリジナルと同じ流れで作られていて驚いた。三人の母までキーワードとして登場するとはね。ただ、なんかいろいろ奥深く肉付けした結果つまらんくなった気がするけど。

1977年のベルリンを舞台に、ベルリンの壁とか、テロとか、ファシズムの影とか、いろいろな背景を盛り込んで、監督の志が高いのはよくわかったけど、それと物語との絡みがすとんと落ちてこないというか、いろんな人の解釈を軽く読んでみて「よくまあ、そこまで行間を読めるものだ」と感心はするけど、やっぱりぴんとこない。

 

 

ネタばれ

 

雨のシーンではじまったり、魔女のえじきになる順番がパトリシア→オルガ→サラと、オルガ以外は流れ通りだったり、サラが歩数で魔女の隠れ部屋を発見するあたりは一応オリジナルにのっとっていたりする。

スージーもちゃんと貧血で倒れるしね。

 

リメイクで良かったシーンは雪の降るベルリンという情景。

そしてコンテンポラリーダンスが魔女のサバトとリンクしているあたりは面白かったかな。

でもクライマックスの残虐シーンはなんだかカルト映画にありがちな安っぽさを感じた。

 

そもそも全体的に途中のオルガのシーンが強烈過ぎてそこしか印象に残らん感じよ。あそこだけ突出して異様なシーンだったけど、ストーリー上あそこまでインパクト与える意味あんのかねー。

まるっきりつまらんと捨てきれない部分もあるんだけど、何度も観たいという気分にはならない映画。


私が最大に気に入らない点はスージーが実はメーター・サスペリオルムだったというオチよ。いやそういうオチにするならそういうオチでもいいんだけど、なんか唐突というか、説得力がないというか、納得出来ないのよねー。ティルダ・スウィントンとエレナ・マルコスの対立関係もわかりにくい部分ではあるかなー。

確かにオリジナルもスージーがマルコスを殺害し、魔女たちを崩壊に導く存在ではあるんだけど、彼女がメーター・サスペリオルムであるならばそこに至るまでの必然を描いてくれないとね。

サスペリオルムはここでは死を司る魔女だけど、死は時に救いであり、精神の死は時に開放となる。ここで描かれているのは、死は恐ろしいけれど、同時に救いでもあるということなんだよねー。そういう意味ではメーター・サスペリオルムは『もののけ姫』で言うところのシシ神っぽさもあるね。彼女は死のみで命を与える存在ではないのだけど、そのあたり、もっと神秘性とか超越性が欲しかった気もする。急に胸広げられて私はマザーとか言われても、ぽかーんとした気分にしかならんのよ。ようするに彼女は以前から心臓を奪われ、サスペリオルムに体を乗っ取られた存在ってことだったんでしょうが。

本来は彼女が与える犠牲者たちへの死や、心理療法士のジョセフ・クレンペラーの忘却は救いであり(救いであっても本人は忘れたいと思っていないかもしれないので、ある意味残酷な救いかもしれないのだけど)、ちょっと胸に来るシーンではあるはずが、ジョセフ・クレンペラーと妻のエピソードが、やっぱりこの魔女の巣窟とどう噛み合うのかわかりにくくてぴんとこないのよ。締めに妻との愛情を示すハートが残される部分も本来はもの悲しさの残る良い場面な気がするんだけど、そこに至るまでの流れがすとんとこないからやっぱりぴんとこないままに終わってしまう。

時代背景と、魔女の巣窟という女性性、魔女というものの考察、ファシズムとの関連、過去の過ちと未来への警告、これらがすっきりまとまってる気があまりせんのよ。

 

さらにエピローグでサスペリオルムが観客に魔法をかけるのだけど、これもやっぱりぴんとこないんだわー。

いろんな思いがこの映画にこめられているんだろうけど、若干観客に本気で伝える気ある? 高尚な人だけが理解出来ればいい訳?それってひとりよがりじゃない?って気になるねー。

 

訳わかんなくても、その圧倒的なパワーで作品に惹きつけられることはあるんだけど、そこまでのパワーはこの作品から感じなかったな。感性が合わなかったのかな。

考えてみれば、アルジェントは話しの整合性はめちゃくちゃだったりする訳で、それでも惹きつけられるものがあるんだけど、こっちは逆に話しの整合性はアルジェントよりあるんだけど、惹きつけられないのね。

 

ティルダ・スウィントンのひとり三役は後で知ってびっくりというか、ジョセフ・クレンペラー、ちょっといいなーと思ってたからティルダ様と知ってびっくりよ。さらにマルコスまで演じていたとは欲張りなティルダ様。

ジェシカ・ハーパーもファンサービスのように登場する。童顔は相変わらずだけどおばあちゃんになったねー。どうせならエレナ・マルコスで登場して欲しかった気も。エレナ・マルコスもあんな肉布団みたいなデザインじゃなくねー。

すっかりリメイクホラーの女王となったクロエちゃんは今回はちょい役だったねー。

主演のダコタ・ジョンソンはスタイルもよく美しかった。